[書籍紹介]
穂刈慎一は、中学2年のクラスを担当する教師。
クラス内でのいじめについて、
生徒の相談を受けても、穏便に対処するような
典型的な公立中学の教師だった。
妻の里美も元教師で、
娘の出産を契機に教師をやめた。
学校で35人の生徒の面倒を見、
家に帰ってからも2人の子どもの面倒を見ることに疲れたからだ。
もう一人の息子・駿も中学生で、
最近は、父親の教師という立場を軽視した発言をしている。
小学校6年生の娘・由佳が
学校の3階から飛び下りた。
植え込みの上に落ちて命は助かったが、
内臓破裂と手足が骨折した重症だ。
原因はいじめ。
いじめに遇っている同級生をかばったため、
今度はいじめの標的にされたという。
担当クラスでのいじめのみならず、
自分の家庭で、娘のいじめに気づかなかったことに
穂刈は愕然とする。
由佳の担任に会い、いじめ問題を追究すると、
及び腰の担任は認めようとしない。
学校のことなかれ主義と隠蔽体質は、
穂刈自身がよく知っている。
警察に被害届を出せば、
捜査に乗り出してくれるのは分かるが、
そうなったら、諸方面に大きな影響が出る。
しかし、娘に自殺までさせたいじめの女児の家庭を
許すことは出来ないと、里美は息まく。
そして、事件はマスコミの注目するところとなり、
ワイドショーのディレクターが接触して来る。
穂刈は、ディレクターに
いじめた女児の氏名をばらしてしまう。
その結果、いじめの張本人の女児の家庭が追究を受ける。
SNSで女児の名前がさらされ、
家の特定も受け、抗議電話が殺到する。
それは、穂刈たちが望んだ社会的制裁の範囲を越えていた。
そして、事件は急展開する。
いじめ首謀者の女児が殺されたのだ。
しかも、その容疑者として、
由佳の兄の駿が事情聴取を受ける。
すると、今度は穂刈の家庭がマスコミとSNSの攻撃を受けるようになる。
ことなかれ主義の校長は、
穂刈に自主的休暇を求める。
取り調べをしている刑事から聞き出したところでは、
駿の供述は二転三転しているという。
どうも誰かをかばっているようなのだ。
かばっているのは、里美か、由佳か。
家庭内に疑心暗鬼が横溢する・・・
という、いじめに原因を発した
自殺事件と殺人事件の軌跡を追う。
事件にからんでの学校の隠蔽体質や
マスコミの無責任な報道姿勢や
SNSでの悪意など、
現代を切り取る内容。
そして、里美や駿、由佳の中にある闇も噴出してくる。
事件が落着した後、この一家が元に戻れるかどうか、心配になる。
視聴率偏重のワイドショーの取材記者の兵頭、
駿の取り調べをする刑事の坂東など、
現実にいそうな、リアルな人物造形。
なにより、教師の自分と父親としての自分との板挟みに揺れる
穂刈自身に対する描写が大変ていねい。
題名に描かれた棘とは、
穂刈の家の庭に生える蕁麻(いらくさ) の棘のこと。
嚢(のう)に毒液があり、
触れた指に疼痛が走る。
野草の持つ毒を
家庭・家族が内包する毒に見立て、
それが何かの拍子に敗れて害を放つ姿を描いた作品。
中山七里の筆は大変読みやすくて一気読み。
ドラマ化か映画にすれば、良い作品になりそうだ。