空飛ぶ自由人・2

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映画『シスター 夏のわかれ道』

2022年12月01日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

                            
中国四川省の成都。
アン・ランのもとに、
両親が交通事故で死亡したとの知らせが届く。
早くから親元を離れたアン・ランは、
今は女子医大の看護師として自立していた。
父母の葬儀の場で、
それまで存在さえ知らなかった
弟だという6歳のズーハンに引き合わされ、
姉だから引き取れ、と親戚に迫られる。
姉は弟の面倒を見るのが当たり前、というのだ。
ズーハンを養子に出すが、それが決まるまでは預かる、
ということで、
仕方なく弟を引き取ったアン・ランは、
弟を養子縁組させようと奔走する。

突然現れた息子や娘を引き取って苦労する、
という話は欧米映画によくあるパターンだが、
一味違うのは、
物語が進展するにつれ、
中国の一人っ子政策や
男尊女卑の社会的背景がじわじわとにじみ出て来ることだ。

弟との歳が随分離れているのは、
男子を望む両親が、
アン・ランを障害者だと偽って
第二子を設けたからだ。
アン・ランの知らない間に、そんな申請書が出され、
知らない間に弟が出来ていた。
(その後の描写で、男児を授かったものの、死んでしまい、
 一人っ子政策が終わった後、
 今のズーハンが生まれるまでに時間を要した、ということらしい。)

父方の伯母は寝たきりの夫を抱え、
甥を引き取ることが出来ない。
母方の叔父はアン・ラン名義の家の売却代金を狙って
甥を引き取ろうとするが、
ギャンブル好きの叔父に任せるのは心配だ。

アン・ランにも引き取れない理由があった。
というのは、進学時、
北京の医大に進むことを望んだアン・ランに対して、
勝手に志望書類を書き換えて、
地元の看護師学校に進学させられたのだ。
娘は地元に勤めて父母を養うのが当然と考えられていたからだ。
だから、アン・ランは親元を離れ、
学費も自分で稼ぎ、
医大に進学するために貯金をし、勉強をしている。
そんな環境下で弟を養うことなど出来はしない。
長く付き合ってきた医師の恋人チャオミンは、
一緒に北京に行くことを自分の親には言えず、
別れてしまった。

やっと裕福な家との養子縁組が成立した時、
「二度と弟には会わない」という誓約書に署名させられそうになる。
その時、アン・ランが取った行動は・・・

という、中国社会からにじみ出て来る問題を背景に、
姉と弟の血の絆が描かれる。
最初はぎこちなく、反発していた二人だが、
次第にお互いの立場を思いやることが出来るようになる。

そして、病院の中の描写でも、
子どもが二人いるのに、
男子を産むために危険な出産を試みる夫婦のことも描かれる。
伯母は、かつてロシアに留学したかったのに、
父母の死で、中国に引き戻され、
弟のために夢や将来を諦めた過去を持つ。
アン・ランと同じだ。
男子を尊重し、女性は男に尽くすのが美徳とされた社会。
女として生まれただけで、決まった人生を辿らなければならない。
アン・ランは、その社会に反抗し、挑戦する。
しかし、血は水より濃い
というように、
弟との間の絆が太くなり、
弟の面倒を見るために夢を諦めるべきか、という難題が
アン・ランを困らせる・・・

という社会的問題を
姉と弟の心の交流の中で描こうとする、この映画。
自分の人生の方が大切だ、と思うアン・ランと、
血のつながった弟との絆を断ち切れないアン・ランの
内面の葛藤を観客は息を詰めて見守る。

一見、ありきたりなストーリーだが、
脚本、演出と演技の3つがうまくからみあい、
出色の人間ドラマとなった。

葬式の場で、弔問者が賭けマージャンを供養のためにする、
という風習にはびっくり。
(四川省の一部地域ではお葬式に麻雀を行う風習があり、
 牌を混ぜる時に派手な音を立てることが、
 死者にとって縁起の良いこと、魔除けになるなどと言われているらしい)


また、幼稚園で園児たちが歌う、
「沈んだ太陽は、明日になればまた昇るし
冬に散った花は、春が来ればまた咲くけれど、
飛び去った鳥はもう戻らない。
私の青春も返ってこない」
という、この物語を語るような
奥深い歌詞にも驚かされた。

主人公のアンをチャン・ツィフォンが演じ、
弟のズーハンを映画初出演のダレン・キムが演じる。
この二人の演技が抜群に良いのに加え、
伯母役のジュー・ユエンユエン
叔父役のシャオ・ヤンもいい。
監督は、長編2作目となるイン・ルオシン
脚本は、ヨウ・シャオイン
撮影もよく、ピアノ曲の音楽がまたいい。

原題の「我的姐姐」は、「私のお姉ちゃん」の意。
                                        

中国で大ヒットしたという。
共産党独裁の中国でも、
こんな真摯な人間ドラマが作られ、観客が集まることが嬉しい。

5段階評価の「4.5」

ヒューマントラストシネマ有楽町他で上映中。