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小説『先祖探偵』

2022年12月06日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「元彼の遺言状」 (2020) で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞して、
鮮烈なデビューを飾った新川帆立の作品。
この人、東京大学法学部卒業で、司法試験に合格、
麻雀プロテストにも合格した元プロ雀士という多才な変わり種。

いつもユニークな視点から小説を書くが、
今回は「先祖探偵」なる職業を描く。

谷中銀座から一本入った路地にある「探偵事務所」を営む
邑楽風子(おうら・ふうこ)は、
「あなたのご先祖様を調査いたします」という専門分野を持っている。
そこにやって来る依頼人の依頼を次々と解決する。

たとえば、来月で111歳という日本最高齢の曾祖父を探してほしい、という依頼。
お嬢様学校の夏休みの課題で、
家族史を発表するために、
先祖を探ってほしい、という依頼。
息子に何者かが憑依したため、
先祖をたどって、その原因を調べてほしい、という依頼。
無戸籍者が戸籍を作りたいので、
先祖を探して、日本人であることを証明したい、という依頼。

これらの依頼に対して、まず戸籍謄本を調べてさかのぼり、
不明点を解明していく。
その過程が興味深い。
「幽霊戸籍」「棄児戸籍」「消失戸籍」「無戸籍」「棄民戸籍」
などという言葉が飛び交う。

そして、最後には、
風子自身の父母探しに出かける。
というのは、風子は、5歳の時に
母親に捨てられ、施設で育てられたのだ。
群馬県邑楽郡邑楽町の町役場の前に置き去りにされたため、
邑楽風子と名付けられた。
母親に捨てられる時に
「自分の名前も住んでいるところも全て忘れろ」と言われ、
自分の本当の名前も母親や、他の親戚の頃も一切覚えていない。
そもそも先祖探偵を始めた動機が、
自分の出自を調べるためのものだった。
母親を探す旅路の中で、
父親が何者か、母親がか者かが判明してくるが・・・

日本の戸籍制度は世界でも類を見ないほど強固なものだが、
戦争で焼失していたりで、
連鎖が途絶えているものもある。
ブラジル移民が日本に帰国するにあたって、
「帰国のための渡航書」をブラジル政府から出してもらって来たのはいいが、
日本から外国に渡航するには、
日本国内でパスポートを作る必要がある。
ところが、中には日本人としての戸籍がない者がいたという。
戸籍がないから、パスポートが作れない。
まともな職業に就けず、アパートも借りられず、
携帯電話一つ持つことができない。
これを本書は「棄民」と呼ぶ。
棄民の子どもは戸籍を取れないが、
風子のように、棄民が捨てた子どもなら、戸籍を作れる。
母が風子を捨てたのには、このような悲しい背景があった。
つまり、日本の堅固な戸籍制度が棄民を生むことになったのだという・・・

「Wikipedia 」には、
戸籍とは、戸(こ/ へ)と呼ばれる家族集団単位で
国民を登録する目的で作成される公文書である。
かつては東アジアの広い地域で普及していたが、
21世紀の現在では
日本と中華人民共和国と中華民国(台湾)のみに現存する制度である。
とある。
ということは、
欧米にはないものらしい。

そして、こうも書いている。

大前提として、よほど手の込んだ不正の無い限り、
「出生から死亡までの履歴」が記録され、
住民基本台帳制度との連携により、
戸籍の附票を閲覧すれば転居の履歴が判明し、
市町村名までの出生地は、
移記すべき事項と定められているので
本人であることの真正性が確実であり、
転籍や分籍をした後の戸籍にも記載され、
相続などの手続きの際に取るべき手順が明確である。

本書によって、「探偵」というのが、正式な職業であることを知った。
なにしろ、「探偵業法」(正式名称「探偵業の業務の適正化に関する法律」)
という法律さえあるのだから。
全日本総合調査業協会という社団法人も存在する。

新川帆立は、いいところに目を付けた。