空飛ぶ自由人・2

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小説『その午後、巨匠たちは、』

2022年04月17日 22時51分06秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

ある漁師町に、

どこからともなくサイトウという女性がふらりと現れ、
空き家に棲み着く。
町の旧家の権力者・朝倉家に取り入り、
神社を建てる。
サイトウは石柱に6人の画家を彫り、
その6人の画家は、その神社のある
「おりんぽす」山に棲み着く。

6人の画家とは、
葛飾北斎、レンブラント、ダリ、
フリードリヒ、ターナー、モネ

日本、オランダ、スペイン、
ドイツ、イギリス、フランスの名匠たち。
イタリア人がいないのは、
イタリア芸術は、どうしてもルネッサンスで、
「中心」が出来てしまうのを避けたかったからだ、
とサイトウは言う。

ちなみに、サイトウは歳を取らない女だった。

この6人の画家たちとサイトウとの日常が描かれる。

おりんぽすの山における移動手段として、
トロッコが敷かれる。
その動力は、「キリスト昇天動力装置」というもので、
トロッコの前面にキリストの磔刑図を掲げ、
天に昇ろうとするキリストの力を、
トロッコの推進力に変えようとするもの。
絵の前に黒い板が挿し込んであって、
その板を上げ下げすることをスピード調整ができる。

神社の美術館には巨匠たちの絵が収められ、
モネは絵を仕上げるペースが早いから、
もう「睡蓮」が3枚も収められている。
サイトウはキュレーターか巫女のような役割をする。
やがて町は、神様として現代に蘇った画家たちの描く
絵画世界に染まっていく。

画家たちが海を素材にして描くのに連動して、
海が荒れ、漁ができなくなる。
そこで、人身御供を捧げることになり、
朝倉家の娘・良子がその役割を受けることになる。
しかし、地面に生きたまま埋められる直前に、
サイトウが持ってきたスペイン産の埴輪が代役をつとめることになる。


サイトウは身ごもり、ゴエントカという子供を産む。
ゴエントカは成長し、神になるために、おりんぽすの山を昇り、
6人の巨匠たちを飲み込んでいく。
画家たちは煙と砂金を残して消える。
それをみつめる、朝倉家の当主・吉郎。

という、わけの分からない話

ただ、魅力はある。
なにしろ、「文藝」に掲載された作品なのだ。
そう簡単に理解されては困る。


筆者の藤原無雨(ふじわら・むう)は、
2020年、「水と礫」で第57回文藝賞を受賞した方。
純文学は難しい。

 

以下、6人の画家たちの代表作。

北斎「神奈川沖波裏」

 

レンブラント「夜警」
                                                                               

ダリ「聖アントニウスの誘惑」

 

フリードリヒ「氷海 もしくは氷の海 もしくは希望号の難破」

ターナー「カレーの桟橋」

モネ「睡蓮の池」