まだ予習中(笑)。ノムより気になっている 『あなたは遠い所に<님은 먼곳에>』 のイ・ジュニク監督インタビュー記事から抜粋。個人用覚書き(私流訳)。
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[イ・ジュニク] 「叙事は観客のための総合ギフトセットだ」
( Cine21 No.653 2007/05/14)
イ・ジュニク監督は <楽しい人生> が封切るやいなや次の映画 <あなたは遠い所に> の撮影に入った。 封切ったばかりの映画の興行を調べる余裕もなく、次の話に向かって走り始めたわけだ。 彼は <王の男> で 1 千万観客を突破して以来、毎年一編づつ映画を撮り、世の中に送り出したし、世の中がその映画に対してあれこれと話をする前に、次の映画に取り掛かっていた。 勝率は高く、<黄山平野> 以後とった 3 編の映画中 2 編が興行で成功し、残り 1 編 <楽しい人生> も大きな損失はなかった。
世の中の声に無頓着な男、意志の固い男。 イ・ジュニク監督はトレンドを知らない。 いや、知ろうとしていない。 熱心に観客の心を読み、そこに合わせて話を描かない。 盛りが過ぎたロックスターの話、役者たちの切ない事情、なまりで冷やかした三国時代の権力関係。 これが、どこの 21 世紀商業映画の感覚というのだ。 だが彼の映画は世の中の後頭部を殴るように興行に成功した。 <黄山平野> の衝撃、<王の男> の意外な暴発、<ラジオ スター> の底力。 <楽しい人生> で失敗しても、彼は相変らずトレンディーではない。
<あなたは遠い所に> は、ベトナム戦争を背景に、スニという名前の 1 人の女性が、戦場に徴兵された夫を探しに行く話だ。 やぼったい名前から、男を探して戦争に入って行く女キャラクターまで、本当に古くさい (オールド)。 だがどうだろうか。 それがイ・ジュニクであることを。 イ・ジュニクの映画の後頭部はトレンディーでないことから出てきたのではないか。 <あなたは遠い所に> の後半作業にあるイ・ジュニク監督を映画会社 朝 の事務室で会った。 彼は相変らずまた次の映画を深く考えていた。
▼ 後半作業はどれくらい進行したか。
ほとんどみな終わった。 昨日スエが歌うところを録音した。 2 時間 5 分になった。
▼ 今回も製作費が余ったというニュースが出てきたよ。 70 億ウォンの予想が、3 千万ウォン少ない 69 億 7 千万ウォンで終えたと。
製作費を残そうとして残したのではない。 計画通りに合わせながら撮ったら残った。 私はいつもシナリオを書いた通りに撮るから。 今まで作った 5 作品みな製作費が余った。 シナリオに書かれた以外の追加場面を撮ったことがない。 もちろん過度なジャンプがある時はブリッジシーンを現場で追加するけれども。
▼ それでも今度はタイ ロケーションが多かったのに、56 回ですべての撮影を終わらせるとは驚くべきだ。
早く撮るから。 私が急ぐ。 スタッフらと、手足もよく合わせて。 私はただコールの時間定めて、始めよう、終わりにしよう、と言うだけだ。
▼ 予想できない変化の要素はなかったか。
予想できないことが発生したら、それを施行しようとはしない。 また緻密に予想をすることもなくて。 精巧で緻密に進めて上手くできる場合より、よくできない場合がもっと多い。 それで準備をいい加減にする。 現場に行くと、ごちゃごちゃに準備ができていて。 その船の上で精巧に撮ることだね。 だから 56 回 撮ることができた。
▼ ベトナムが舞台だが、タイで撮った。 タイの方がロケーションがしやすかったのか。
ベトナムは撮影許可を取るのが大変だから。 タイはすべてのことがとても気楽だ。 カンチャナブリという、クウェー川鉄橋で有名な場所で撮ったがそこには軍の部隊が多い。 そして助け合いが良い。ほら、ハリウッドでベトナム背景にした映画も、大部分タイやフィリピンで撮ったのではないか。 そのため、タイのスタッフはハリウッド システムで動く。 反面、ハリウッドで作業することと違う私たちが中心になって動くことができて良かった。 ハリウッドで作業すれば、私たちはマイナーになるほかはないから。 あらゆる事を効率的に活用できたようだ。 後日、映画を見れば分かるだろうが、映画に動員された物量、人材の規模は、70 億ウォンではとうていまかなえないくらいだ。
▼ <あなたは遠い所に> は、歌が重要だったか。 <あなたは遠い所に> は、<ラジオ スター> の時 <雨の中の女性> とともに何を流そうか、悩んだ最終候補曲だといった。
そうだ。 <ラジオ スター> の時、キムさんママが好む歌でシナリオに <あなたは遠い所に> を書いておいた。 ところで度々 <雨の中の女性> にさらに引かれたよ。 それで撮影一日か二日前にスタッフら呼んで話して、同意を求めて変えた。 今回にいよいよ <あなたは遠い所に> を使ったことだ。 スエが二度この歌を歌うんだけど、あー、良かったよ。
▼ どんな感じが良かったのか。
「あなた(님)」 は、この言葉が持っている意味が良い。 価値ある存在を示すではないか。 男の立場では、愛する女が 「あなた」 であり、女の立場では反対に男であることもあって。 また親孝行できない息子にとってはお母さんが「あなた」である事もあるし。 「あなた」 は常に遠方にある。 「あなた」 という概念がそうしているのだ。 近くにいると 「あなた」 でなく「奴」 であって (笑)。個人的にはそうだ。 遠くある存在に対して感じる。 映画でもスニは夫と離れている。 男性中心社会で長男の嫁が持つ伝統的な位置もそうではないのか。 ひとつ屋根で横になっていても、夫を遠く感じる。 そうするうちにスニはもう物理的にも夫と離れる。
▼ スニが夫に会いにベトナムに行くという設定は、初めからあったか。
そうだ。 初めからあった。 ほら、この頃、韓国映画はシチュエーションに依存的だというのではないか。 文学でもいったい叙事はどこへ行ったかと。 私はもう少し叙事的であることをしたかった。 映画 100 年史を見ても、はるか遠く旅することは、人間が自分自身の人生を振り返ってみる一つの契機になってきた。 房 (방) 文化になじむ韓国の人々は、カラオケだ、PC喫茶店だと言いつつなかなか部屋を離れないけれど。 <あなたは遠い所に> を通じても、遠い道を行ってみろといいたかった。 私にとって、叙事は観客に向かった一種の総合ギフトセットだ。
▼ 初めて女キャラクターが主人公だ。 女キャラクターが貧弱だという批判は、常に女をよく分からなくするため、そうだと答えていたが、やっと女が分かるようになったのか。
知ることができる気がした。 この前に 「スクリーン」 編集長の結婚式に行ったが、ペ・チャンホ監督が媒酌人だった。 監督がおっしゃるには、結婚前には自分の目だけで世の中を見たとすると、結婚以後には目が二つさらにできたそうだ。 その一節が心にささった。 妻を通じて、見る目ができたと。 驚くべきことだった。 私は今回の映画を通じて、スニという女の目を通して世の中を見たようだ。 これまで男の映画だけずっと撮っていたら、無意識のうちに男性を代弁することになっていたが、スニの目を通じて彼らの偏狭さが見えた。 自分たちは正当だと思っているけれど、決して簡単に容赦されはしないこと。 女性観についてまだ分からないことがあまりにも多くて、男たちのそのような偏狭さが永遠に受け入れられることなのか分からないだろうが、容赦してくれるということが分かった。
▼ <黄山平野>、<王の男> が主流に対する嘲弄の側面が強かったとすれと、以後の2つの作品 <ラジオ スター> と <楽しい人生> は少数に対する憐憫がさらに強い作品だ。 ベトナム戦に対する話と聞くと、<あなたは遠い所に> はまた <黄山平野>、<王の男>の側に旋回する感じがするけれど。
そうではない。 <あなたは遠い所に> は、私の作品をみんなチャンポンした作品だ。 <黄山平野> の戦争、<王の男> の叙事性、<ラジオ スター>、<楽しい人生> の公演。<あなたは遠い所に> もスニが歌手で慰問団に入るから。 私は、ある女性が同年輩の男性たちの前で、ビキニ同然の姿で歌を歌うというのは、羞恥心を越えた崇高さがあると考える。もどかしい愛も、スペクタクルな戦争も、この映画に期待してはいけない。 <あなたは遠い所に> は、ひとりの女性を通じて、男性らしさ (性) と対比される女性らしさ (性) の偉大さを追いかけて作った映画だ。 男は世の中の一部であるが、その世の中を表わすことができるのは女性の性しかない。 フェミニズムに対して深く考えてみたことがないが、この映画は男性らしさ (性)、マッチョ性の弊害を通じて、女性らしさ (性) を考察した映画だ。 女性を中心においた視線で見られる男性の世界が気になったし、自身の行動を正当化するために力を持つ男性のの卑怯さを見たかった。 その卑怯さが 1 人の女性の前で崩れる時、はじめて自分の中で真実が出てくる。 そのラストのために戦争もして、飛行機も乗って、何でもやったよ。
(以下省略・・・ 新作の話、所有するギャラリーの話など・・・)
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前の記事で三ノムの損益分岐点が800万人という話にびっくりしたので、映画のテーマと関係ないとこなんですが、制作費を余らせる、という話がおもしろいですね。そういうのはかならず足が出るものだと思いこんでました。笑
それにしても800万人(トンマッコルくらい?)はすごいですね~三人のギャラから積み上げるところからして、そうなったんでしょうかね。でもロケットスタートしたみたいでナニヨリです。^^
>三ノムの損益分岐点が800万人
・・・という噂です。目標は「クェムル」超えとか。
>制作費を余らせる、という話がおもしろい
そうそう、私もそこを読んで、面白い監督さんだなぁと思いました。予算内で製作できてヒットしたら、ビジネスマンなら大昇進ですよね。お金と時間を沢山使って良いものできても当たり前だと思っているので。
この記事の省略したところに、「バジェットはストーリーの規模に合わせるものだ」とも話しておられて、ご自身は絵もお描きになり、ギャラリーも所有されているアーチストなのに、何気にキラリと光るビジネスセンスをお持ちなのだなぁと思いました。