報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

失われた雇用

2005年06月10日 20時44分04秒 | ●アフガニスタン05
 復興援助真っ只中のアフガニスタン。 
 アフガニスタンのいたるところで、ビル建設や道路整備等が急速に進められている。
 約47億ドルの国家予算の大部分が、援助国が直接管理する復興事業に費やされている。
 アフガニスタンにとって大きな雇用を生んでいるはずだ。

 が、実際はそうでもない。
 急ピッチで進められる様々な復興事業には、多量の熟練技術者や熟練労働者が必要になる。
 そうした人材は、アフガニスタン国内にはいない。
 戦争、内戦、鎖国を経てきたアフガニスタンには、技術者を養成する機関も、職能を磨く機会もなかった。高度な技術や熟練した職能は途絶えてしまったのだ。もちろん、施工を受注できるような企業もない。

 先進国の行う復興事業は、援助各国の企業が管理する。そして実際に施工するのは、近隣国から来た施工業者であり、技術者や熟練労働者である。
 いま、アフガニスタンで復興事業の施工を行っているのは、ほとんどが隣国パキスタンの企業だ。技術者や労働者もパキスタンから来る。アフガニスタン人には、単純労働しかない。
 つまり、膨大な復興資金は、元受の先進国の企業と下請けのパキスタン等の施工業者に落ちる。アフガニスタンにはほとんど落ちないのだ。

 それでも、無償援助で電気、上水道、道路等各種インフラが整備され、市民生活が楽になるのだからいいではないか、という見方もできる。
 しかし、それはこちらの見方であって、アフガニスタン人の見方ではない。彼らは感謝し喜びつつも、一方で割り切れないものを感じている。
 つまり、パキスタン人に仕事を奪われ、パキスタンばかりが得をしている、と彼らは感じている。
 復興事業に従事するパキスタン人のことをアフガン人が悪く言うのを、僕は頻繁に耳にした。

 ニューズ・ウィークの記事に端を発したジャララバードでの暴動の際、パキスタンの領事館も焼き討ちに遭った。グアンタナモでのコーラン冒涜とパキスタンとは何の関係ない。しかし暴動を機に、パキスタンへの不満が噴出したのだと考えている。焼き討ちの煽りでカブールのパキスタン大使館も5日間閉鎖された。

 パキスタンで難民生活を送り、教育を受けてきた帰還難民の若者の中には、こうしたパキスタンに対する悪感情に対して、少なからぬ危機感を感じている者もいる。
 彼らは、アフガニスタン人でもあり、「外国人」でもあるのだ。
 英語やコンピュータ操作といった職能を持つ帰還難民の若者たちは、米軍や国連、外国NGOで働き、一般アフガニスタン人よりもはるかに高給を得ている。
 パキスタンへの悪感情がさらにつのっていけば、彼ら帰還難民への反感も生まれるかもしれない。
 ただでさえ多民族国家のアフガニスタンに、あらたに亀裂の種が加わることになりかねない。