去る6月3日早朝、著名を極めた野球人の長嶋茂雄さんが肺炎のためご逝去され、そのニュースが列島を駆け巡りました。多くのプロ野球ファン…いや野球に詳しく無い人でさえ 氏の逝去を悼(いた)み弔意を共有されたことが報じられていました。
まさに〝球界の太陽〟とも称されたその存在感は限りなく大きく「ミスター」として親しまれた彼の言動はその度に話題を呼び、社会的な影響力は絶大と言われたものでした。
現役時代は いわゆる〝華のあるプレー〟でファンを魅了。打ってはホームラン・守ってはファインプレーで拍手喝采を受ける一方、たとえ空振り三振したとて 派手なスイングで観る者を沸かせるなど、まさに如才の無いプレーでファンの心を掴(つか)んで離さないものでした。
そんな長嶋選手の哲学は「苦労している姿はファンには見せない」だったそうです。
そこには、自らをスターと自認しているが故に あくまで(ファンには)〝華〟のある面だけを見てもらい、苦労(猛練習)は(ファンの)見ていないところで密かに行なうのが〝長嶋美学〟であったようであります。
ところが です。
そんな〝華〟ばかりを見せる長嶋茂雄さんが その美学を一変させ、何というか悲壮ともいえる姿を敢えて世間に晒(さら)すことを選んだこと・その勇気ある行為によって 別の意味で多くの方々を励ますことになったのでした。
2004年に脳梗塞になった後、そのリハビリの模様を公表し続け、そのひたむきな姿に多くの(脳梗塞の)患者さんが励まされていたのでした。
報道記事
↓
長嶋茂雄さん、リハビリする姿を隠さず 同じ脳梗塞の患者たちが感謝:朝日新聞
ご案内のとおり、脳梗塞は 脳の一部に障害が生じることで 左右いずれかの肢体にマヒが生じる難病であり、そこから社会復帰するためには過酷ともいわるリハビリが要されるものです。
もし その辛さからリハビリを行なわず過ごしてしまえば、肢体不全が進行すると共に ご自身の寿命自体も限られたものになってしまうと言われています。
考えようによっては、長嶋さんほどの著名人にとって 脳梗塞になって肢体不全に陥った姿など、それこそ世間になど見せたくないところであったでしょう。
それこそ大病院に引きこもり、密かに(リハビリに)取り組むのが常道といったことと思われるところです。が…
後のインタビューで長嶋茂雄さんは「多くの同じ病気に悩む方々の励みにしてもらうため、自分のリハビリ姿を公表することに決めました。」と、やはり屈託の無い笑顔で語っておられたのが 実に印象的でありました。
長嶋茂雄さんは、自分がどれだけ社会から注目されているか・自分の言動が どれほど社会に影響を与えるものかを誰よりも知っておられたものと思います。
そんな氏が、図らずも脳梗塞になってしまった。
これが凡人であれば、自らの不運を嘆き・病魔を憎み・傷ついたプライドを抱えて悲嘆に暮れた後世を送っていたことでしょう。
しかし 長嶋茂雄さんは、そんなもの(病魔)などに屈するものではありませんでした。
逆に その逆境に敢然と向き合い、歯を食いしばってリハビリに励み そして再び社会に登場し、あの笑顔を振りまいてくださったのです。
今、全国には200万人になんなんとする脳梗塞患者がおられ、それ以外にも不慮の出来事で肢体が不自由になってしまった方々がおられる中、長嶋茂雄さんの〝不屈の姿勢〟は多くの共感と勇気を呼び、多くの同じ境遇の方々を励ましてくれたことでしょう。
「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん。
現役時代や監督時代は多くのパフォーマンスでファンを魅了し、病魔に倒れた後は その姿を敢えて世に晒(さら)し〝負けない姿勢〟で多くの方々に勇気を与えてくださった。
まさに氏の「もうひとつの功績」を見た思い、私自身も感銘を深めたところでありました。
一方、もう一人の著名人は また違った形で「病気(障害)の社会性」を知らしめてくださいました。
〝元祖 御三家〟で有名な 歌手の橋 幸夫さんが「アルツハイマー型認知症」であることを側近のスポンサーさんが敢えて公表し、そのうえで社会生活を(今までどおりに)送る道を選んだとのことであります。
報道記事
↓
「俺、分かんなくなっちゃうんだ…」認知症公表・橋幸夫さんの苦闘 事務所社長が明かす
報道によると、ステージ上で歌詞を忘れるなどした橋 幸夫さんの言動を心配したスポンサー社長が受診を勧めたところ「アルツハイマー型認知症」に罹患していることが判ったとのこと。
普通であれば それを理由に表舞台から去るところでありましょうが、スポンサー社長さんは この病状を敢えて公表し、そのうえで従来どおりに舞台に立ってもらい いわば社会活動を継続する道を選んだとのことです。
当初、病気を知らずに舞台上で歌詞を忘れる橋 幸夫さんを笑っていた観客の方々も、病気の存在を知って以降は たとえ歌詞を忘れたり間違えても「頑張れ!」と温かな声援を送ってくれるようになったそうです。
そこには正に「認知症は他人事じゃない」との〝意識の共有〟があり、逆に「認知症になったから世間から身を引くのではなく、認知症を自他で認識したうえで社会生活を継続しよう」との〝罹患後のポジティブ生活のモデル〟として橋 幸夫さんを受け止めているのではないかと思うところです。
一世を風靡した著名人が陥った病魔。それでも それを受け入れたうえで人生を重ねる姿勢に、多くの方々が共感し、ときにエールを送って ときに励みとする。
これこそ、真に「大きな存在」といえるものでありましょう。