岸田総理が 今年の年頭記者会見で「異次元の少子化対策に取り組む」とブチ上げたのは みなさん既にご案内のとおりであります。
これまでも 政府関係者は、政策の印象を高める〝キャッチフレーズ〟として さまざまな表現を駆使しているところですが、今度は 少子化対策について「異次元の 」という表現を持ち出しました。
何ともいえない〝デッカイ感〟が創出されているところです。
総理は発言の中で「私は、本年を昨年の様々な出来事に思いをはせながらも、新たな挑戦をする1年にしたいと思います。…異次元の少子化対策に挑戦し、若い世代から「ようやく政府が本気になった」と思っていただける構造を実現すべく、大胆に検討を進めてもらいます。」としました。
そのため(少子化対策のため)の3つの「基本的な方向性」として、
1,児童手当など経済的支援の強化
2、学童保育や病児保育など「子育てサービスの強化」
3,育児休業制度をはじめとする「働き方改革の推進など」を掲げています。
この施策の実施について総理は「本年4月に発足する『こども家庭庁』の下で、今の社会において必要とされる子ども政策を体系的に取りまとめたうえで 6月の骨太方針までに 将来的な子ども予算倍増に向けた大枠を提示していきます。」としました。
が、この〝予算倍増〟に向けた具体的な内容や 必要となる数千億円以上の財源については触れませんでした。
国においては 今年4月に政府の子供政策を一元的に担う『こども家庭庁』が発足し「子供」・「子育て」を一元的に所管することになります。
総理自身は「異次元の少子化対策」という強い表現を使い、急激に進む人口減少を自らの手で食い止める覚悟を示したようです。
ただ、それを聞いた (私を含めた)国民の多くは、諸手を挙げて「ヨシ、がんばれ!」というような機運にならなかったのが実際のところではないか。
昨年末に発表された「人口動態統計速報」によると、昨年1~10月の出生数は66万9,871人(前年同期比4・8%減)に止(とど)まり、この傾向が続けば 昨年1年間の出生数は過去最少だった令和3年の81万人1,622人(確定数)どころか、77万人にまで急減するとの見方もあるところです。
この わが国にとって暗雲となる状況(見込み)に鑑み、岸田総理は 先ずはこども政策担当相に対し、さきの3点について新たな検討会を設置し 具体策を検討するよう指示したそうです。
この3つの検討事項については 今年3月末を目処に方針の大枠を取りまとめる予定とのことですが、一方で厚生労働大臣が「少子化の背景には 若者の経済的不安定や長時間労働など結婚・出産・子育ての希望の実現を阻む要因がさまざまに絡み合っている」と述べるなど、一筋縄ではいきそうにないことが指摘されています。
報道によると、経済支援では「児童手当の支給額の拡大」が検討課題になっているとのこと。
現行は中学生まで1人当たり原則1万~1万5千円ですが、与党内では 自民党が第2子に3万円・第3子には6万円に増やす案を、公明党が支給対象を18歳まで広げる案を示していますが、共に かなりの財源の積み増しが必要で、そのための安定財源の確保がハードルとなっています。
子育て家庭向けサービスの拡充では、産後ケア事業の利用料(自己負担額)の減免や 子供の急な発熱に対応できる病児保育を行う施設の整備、さらに 育児関連の行政手続きの利便性の向上(簡便化)や 例えば学童保育を利用する際の申込書をオンライン化する見直しなどが挙げられています。
働き方改革では、取得率が15%にも満たない男性の育児休業の取得率向上が課題となっており、国は 令和7年度までに30%の取得をめざすとしています。
さらに 育休中に雇用保険から支給される「育児休業給付金」の給付率を、休業開始前の賃金の67%からの引き上げや、正規雇用の女性が出産や育児を機に離職し 子育てが一段落してから再就職する際に非正規雇用に変わってしまうことを防ぐことも課題に挙げられています。
これら少子化対策について検討すること自体については了とするところですが、かかる 総理の〝大胆発言〟に対し われわれ国民が疑心暗鬼の域を出られないのは、そうです「財源をどうする?」の 基本のキとなる論拠が明らかにされていないことでありましょう。
総理の〝思い〟のようなものは理解するところですが、その内容と規模が「名実共に大きい」ものだけに、その政策(事業)の公久性を担保する財源の議論を抜きに その政策責任者がイメージだけを先行させることには疑問を禁じ得ないところです。
何というか、大煙火大会(花火大会)で尺玉がバンバン上げられるものの、そこに肝心のスポンサーが付いていない状況 とでも申しましょうか…実際の煙火大会で上がる花火はスポンサー無しでは上がることはありませんが、この〝異次元の少子化対策花火〟は「取りあえず上げておけ」との〝裏付けなき尺玉花火〟の感が否めません。
やや穿(うが)った見方をすれば、この〝花火〟も 総理の意を汲んだ官僚の知恵と思われるところですが「異次元の…」という割には 相変わらずのバラ撒き感が強いところ、この内閣の特徴を再認識させられたところでした。
そんな、多くの国民が「政策はイイが、財源はどうすんの?」との シンプルかつ基本的な疑問を抱く中、自民党の甘利前幹事長が 少子化対策の財源について「将来的には消費税率引き上げも検討材料になる。」と発言、物議を醸すことになっています。
どうして 国会議員というのは、こうも「取れるところから取れ」という発想になるのでしょう。
国の財源(税金)を あたかも自分たちが稼ぎ出してきたもののように勝手に解釈し、足りなくなったら また国民から徴収(搾取)すればイイとの短絡的な発想。
だから国民は、総理の上げる花火を手放しで喜んで見ることができないのです。
これらの政治家発言などを踏まえ、識者が苦言を呈していることが伝えられ、多くの国民が「そうだそうだ!」と賛同していました。
この識者は「まず隗より始めよ」との見解、国民から搾取する前に自分たち(国会議員)のムダを改めるべきとしているものです。
曰く「国民負担の前に、国会議員の特権の旧文通費約70億円・立法事務費約50億円・各党政党交付金剰余(内部留保)金数十億円・政治資金領収書不明金(組織活動費)数十億円を取り上げるところから始めなければ(消費税アップの)国民理解はムリ。」
さらに「開催されていない特別委員会の日当・公用車費用・JR乗り放題パスも廃止せよ。」
そして最後に「経費削減に最も効くのが〝人員削減〟だ。「異次元」とする少子化対策を行なうなら、次世代の国民のために この際は国会議員が自らを粛正することで国民負担の軽減に貢献することも大切じゃないか。そのくらいの「身を切る姿勢」を示さないことには 国民はついてこない。」と述べていました。
このことは、囁(ささや)かれ初めている「防衛費増額の財源探し」の議論にも当てはまる話しです。
財源が必要な政策を講じるときには、そのための裏付けを示したうえで議論に臨まなければならないこと、で、それを論ずる前に 当事者(国会議員)が規範を示すことが大前提であると思うところです。