森の空想ブログ

「弓将軍」と「柴荒神」 鹿祭りの里<第二部> 中之又神楽の一夜(5) [2015宮崎神楽紀行<17>] 

私はこれまでに、椎葉神楽の「柴入れ」「稲荷神楽」「柴荒神」が連続する一曲であり、「弓正護」「しょうごん殿」もまた同様の様式であると分類した。こんな単純なことを理解するのに、神楽に通い続けた25年という年月を要したのだ。独学の悲しさ。でも、一度体感してしまえば、身体に沁み込んだ感覚は消えない。ゆえに、神楽を楽しむことも、その奥に潜む数々の謎を読み解いていく作業も深みと広がりを増すのだ。そしてこの単純な構図は、神楽の解説書にはあまり書かれていない。記載がないのか、書かれているけれども気づかないだけだったのか。いずれにしても、私はここで丁寧に記述を試みなければならない。自分自身の納得というよりも、いま、私の周囲には、多くの神楽愛好家や若者たちが増えてきているのだ。彼らに、このことを伝えておくのも「翁の座」に近づいた者の役割というべきだろう。

中之又神楽の「弓将軍」には、「荒神地舞」と解説され、番付表にも表記されている。その後に続いて出る荒神が「柴荒神」となっているから、山の神としての荒神祭祀であることは明らかであり、弓の舞が神楽の狩猟儀礼と密接な関係にあることもわかる。「狩猟儀礼」「祈祷神楽」としての弓神楽に、「田地守護」や「スサノオ伝承」など後付けされたものだろう。





中之又神楽の弓将軍。舞人は、代々この舞を受け継いできた中武祐次(写真・中)さんとかつて中之又小学校に赴任していた崎田先生(写真・下)。祐次さんは古式の巻き狩りを伝える鹿狩りの猟師でもある。崎田先生の加入で、中之又神楽の陣容は厚みを増し、彼の教え子たちも立派に成人して、今では一人前の祝子として神楽を支えている。



「柴荒神」。神主と問答をする。問答の大意は他の神楽とほぼ同じ構図。鹿倉様や地区の氏神、宿神などと連続して出るからわかりにくいが、前述のように「弓将軍」と「柴荒神」の連結で把握するとわかりやすい。

ここで、はっと気づいて加筆。「地舞」のことを知らなかったわけではなくて、「地舞-採り物舞」とそのあとに続く「仮面舞」を関連付けて把握するということをしていなかっただけだ。地舞=採り物舞と仮面舞の関係は、採り物舞だけが独立している神楽もあって分類そのものが難しい。整理してみよう。

◇椎葉神楽
☆嶽之枝尾神楽:「注連誉め→注連引き鬼神」「紋(森)神楽→柴入れ→柴問答(荒神)」「星指→内鬼神」など。
☆不土野神楽・尾手納神楽:「守(森)の神楽→矢の舞→弓通し→しょうごん殿」など。
☆大河内神楽:「日月→鬼神」「花の手→稲荷神楽→芝引き」「弓の手神楽→樽面→芝荒神」など。
*椎葉神楽では、序盤の神事神楽と「地割」が長時間続き、仮面神の出現そのものも少ない地域が多いので、神楽全体を把握することが大変難しいが、この分類法を当てはめると、少し把握しやすくなる。
◇米良神楽
☆中之又神楽:「三番舞(鬼神地舞)→鬼神」「大社地舞→大社舞」「宿神地舞→宿神」「鹿倉地舞→鹿倉舞」「弓将軍→芝荒神」など。
☆尾八重神楽:「幣差→花鬼神」「宿神地舞→宿神」「四方鬼神地舞→四方鬼神」「大将軍(弓の舞)→柴荒神」「綱地舞→綱荒神」など。
☆銀鏡神楽:「鵜戸神楽→鵜戸鬼神」「幣差→西之宮大明神」「住吉→宿神三宝荒神」「初三舞→若男大明神」「荘厳(しょうぐん=弓の舞)→柴荒神」など。
☆村所神楽:も「幣差→大王様・爺様・婆様・七つ面(南朝の皇子懐良親王の一族の物語)」「住吉→八幡様・御手洗様・獅子舞・大山祇命(菊池一族の物語)」「弓将軍→荒神」など。
◇諸塚神楽
・南川神楽:「森・愛宕→鬼神」「村方→八幡大神」「住吉→舞荒神・三宝荒神」など。
◇高千穂神楽
・高千穂神楽では、序盤の「杉登」の中で主祭神または氏神が降臨。その後、採り物舞が続き、「七鬼神」「八鉢」「五穀」「山森」などが配置され、採り物舞が独立した演目として舞われているように見える。上記の把握は難しい。
・宮崎平野から日南海岸へかけて分布する神楽や霧島山系の神楽、春神楽などはまた別の配置があってこれも統一した分類は難しい。今後の勉強課題としておこう。

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M・Ishiji
地舞
かつて、米良地方のある神楽の習い(練習)に伺った時、地舞の方が「長くやってきたけれど、地舞は神様を呼び出すための、重要な舞だと、今日初めてきちんと知った。これからはしっかりと舞わなければ!」と、おっしゃっていました。
舞人の方々も、ひとつひとつの演目を習うことでいっぱいで、その舞の意義をなかなか考えるところまでいかないのかもしれませんね。
長老や先輩方が、そういう話を改めてお伝えしている「習い」の場は、重要ですね。
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