森の空想ブログ

福島県飯館村/白い花の咲く頃(24)[詩人・伊藤冬留のエッセイと画人・高見乾司の風景素描によるコラボ]

福島県飯館村 

伊藤冬留

福島県に住む友人の慶事のために、此の5月(2013年)須賀川市と石川町を訪ねたが、その機会を利用して、福島原発事故の被災地に足を踏み入れた。
東北自動車道福島松川ICから出ると。先ず「応急仮設住宅団地 飯舘村」の表示が目に入った。続いて「ご迷惑をおかけします。除染しています」の立札が所々に立っているのを見た。次に計画的避難区域の川俣町に入ったが、避難区域は一部だけらしく、大型スーパーには客が大勢出入りしていて、通常のそれと変らぬ風だった。
だが飯館村(居住制限区域)に近づくと様子は一変する。峠道に差し掛かると、新緑の林の中に、汚染土と思われる黒のビニール袋が堆く積まれているのが見えた。村役場に行くと、戸が閉じられ、灯りも点いていない。入口近くに人の丈程の放射能測定器があり、赤い大きな数字で0・56マイクロSv/hを表示していた。周辺の田圃はすっかり草に覆われ、僅かに畦が見えて、そこが水田だったことを伝えていた。
村の中心部に入ると、JAやスーパー、ガソリンスタンド等人の出入りするところは全て閉じられ、沿道の民家は窓にカーテンが下ろされ、通りも家も人の気配を感じなかった。犬猫など動物らしきものは一切見なかった。 
折から立ち籠めて来た濃い霧の中を通り抜けて、辿り着いた隣の南相馬市はしかし、思っていたほど変わった様子はなかった。ということは、この辺りでは飯舘村だけが広範囲に、ひどく放射能に汚染されたということだ。
昨年秋封切りの映画「希望の国」(園子温監督)では、福島原発事故数年後に〈長島県〉で、再び原発事故が起き、酪農経営の農民たちは当局から即時避難を命じられる。それに抵抗し、牛の殺処分も拒否した老農夫が、結局は放射能汚染の対応に疲れ果て、最後に老妻共々自ら命を絶つ。その映画の主演俳優夏八木勲氏が、私達の飯舘村訪問の前日に死去したことを知ったのは、帰宅後溜まっていた新聞を読んでいたときである。

俳誌「杏長崎」2013年8月号掲載
  

「ある一日」 鉛筆・水彩・墨 17㌢×46㌢

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