ある社会運動団体が街頭で、
歴史教科書問題に関するビラを配っていました。
それは中学校の歴史教科書における沖縄戦の記述を例にあげ、
自虐教科書が日本人の誇りを失わせ、国家観を喪失させている。
ひいては我が国の主権の衰滅の根源となっているというものでした。
そこに書かれてあったのは、おおむね次のような内容でした。
・沖縄戦では戦闘能力を失った日本軍が、沖縄の住民の食料を奪い、
安全な壕から追い出し、「最後の一兵まで戦え」と命令するなどして、
住民を集団自決に追いやった等、日本軍の悪行が記述されているため、
この教科書を読む生徒は、日本軍が住民を集団自決に追いやったと受け取る。
・日本軍は集団自決を止めていたのだから、事実が逆さまに教えられている。
(帝国書院「中学生の歴史」217頁を引用)
・同じ文科省の検定を通った教科書でも、日本の立場に立って記述し、米軍の
攻撃で集団自決が起こったことや、米軍が逃げ惑う住民の頭上に雨あられと
爆弾を落としたこと、洞窟に逃げ込んだ人々も、火炎放射器で容赦なく攻撃
されたことを正確に書いたものもある。
(自由社「新しい歴史教科書」238頁を引用)
そしてこのビラを配っていた団体は、
「自虐教科書を追放し、誇りある日本人を育てましょう」と結んでいます。
それでは、このビラが言うように「帝国書院」の教科書は誤りで、
「自由社」の教科書が正しいのでしょうか?
日本軍兵士による略奪や集団自決の強要も、
米軍兵士による民間人への火炎放射攻撃も事実です。
どちらかが事実で、どちらかが事実でなかったわけではありません。
また、軍の正規の命令があったか否かも関係ありません。
それが戦争の狂気なのですから。
この問題は、
「どちらの教科書も一方の視点でしか書かれていない」
ということにあります。
かつて南米を征服したスペインを例に出すまでもなく、
自虐史観が他国に利用され、また国力を衰退させることは否めません。
その点では、この社会運動団体の主張は間違っていません。
しかし、歴史は数学や科学ではありません。
人間が織りなす出来事である以上、
立場が違えば、それに対する解釈や真実も異なるものです。
歴史を教える大人たちが、
一方の立場や考え方だけを教え、一方の立場や考え方を隠す、
あるいは教えないという行為こそ戒められるべきです。
その意味では、今の日本の歴史教育は不十分であるし、
中国や韓国のそれはさらに誤っていると言わざるをえません。
子供たちに双方の立場を正しく教え、
理解させてこそ、正しい歴史観と愛国心が生まれ、
真の平和につながっていくものだと考えます。