歩きながら考える

最近ちょっとお疲れ気味

労働者はどこまで保護されるべきか

2009-01-26 20:35:14 | Weblog
 世界的な不況の中、我が国の失業情勢は深刻さを増しています。一方で生活必需品は原材料価格が高騰していた頃からさほど安くなってはいませんから、失業者の方々はかなり厳しい生活を強いられています。こうした状況の下、大企業は内部留保を取り崩して派遣労働者を正社員化せよ、国民に負担を強いる消費税を廃止せよ、と主張する日本共産党が支持率を高めているのは自然な流れであると思われます。
 私は資本家でもなく高額所得者でもない、ごく普通の労働者の一人にすぎません。このため労働者のためになる政策は喜ばしいことなのですが、あまりに労働者を保護する政策には賛同しかねます。

 世界にはこんな国があります。

 労働者の賃金引き下げは憲法違反です。
 その他労働者の既得権益を侵すことは憲法違反です。
 生活必需品が値上がりしそうになると政府が商店主に圧力をかけて値上げを凍結させます。
 電気ガスなど公共料金も政府が価格を凍結させます。


 これは南米第二の大国、アルゼンチンの政策です。労働者にとっては夢のような政策に見えますが、決してそんなことはありません。

 労働者の権利が過剰に保護された結果、企業は採用に消極的にならざるをえません。しかしそうはいっても企業は人手が欲しくなりますし、仕事にありつけない貧しいアルゼンチン人はたくさんいます。この結果、アルゼンチンで増えているのが「ネグロ」と呼ばれる低賃金の違法就労です。ある程度賃金が低下したり、やむを得ない事由により解雇もありうることを労働者側は容認することで、法により守られた雇用の増加を促した方が多くのアルゼンチン人にとって幸福ではなかったのではないでしょうか。
 また、生活必需品の価格統制と公共料金の凍結も問題が少なくありません。コストが上がっているのに値上げができないと、企業はこれまでの投資の回収が難しくなりますし、製品やサービスの付加価値向上のための投資もできません。この結果、アルゼンチンの人々は良い製品、サービスに接する機会をかなり失ってしまっています。

 この国は20世紀初頭までは豊かな農業生産に支えられた世界有数の経済大国だったのですが、軍の政治への介入を招いたり、経済が破綻して借金大国になったりで、今ではすっかり経済的地位が凋落してしまった歴史を持つちょっと珍しい国です。アルゼンチンが経済大国の地位から滑り落ちてしまった背景には、欧州の穀物市場を米国に奪われたなど様々な要因があるのですが、ペロン党という左派政党が長期にわたって政権を握り、労働者を過剰に保護する政策をとり続けてきたことも大きな要因であるように思われます。

 労働者はどこまで保護されるべきなのでしょう。弱者がほとんど省みられないアメリカのような社会もどうかと思いますし。現在の日本が割と理想に近いような気もしないでもありません。

(アルゼンチンの政治経済情勢については、在亜日本商工会議所「亜国政経概況」(第21回日亜経済合同委員会資料・2006年9月)を参考にしました)