クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

“2度と行きたくない店”の名前は何を暗示する? ―言霊信仰―

2009年08月11日 | グルメ部屋
久しぶりに一緒に飯でも食べようと、
幼なじみと出掛けた。
いろいろな条件が重なって、
行くことのできる店は限られていた。

何の情報もなく、入ったことのない店に行くのはある種のギャンブルだ。
吉と出るか凶と出るか……
“とある町”まで足を運び、
“とある店”に入った。

おおよそのギャンブルがそうであるように、
一発で当たりを引くのは難しい。
「え、この味でなんで商売してるの?」と首を傾げたくなる店もある。

我々は何もグルメぶっているわけではない。
ただ、あまりにやる気と熱意のない味に出会うと、
苛立ちは否めない。
時間と金を無駄に使うようなものである。

高田馬場の某店のように、「まずさ」を堂々と出している店ならいい。
ときに「まずさ」がいい意味で個性になることがある。
客はその個性に引かれて足を運ぶ。

二度と足を運ばないのは“普通”の店だ。
うまくもなければ、まずくもない。
値段がびっくりするくらい高いわけでもなく、
激安というわけでもない。
無難かもしれないが、
もう一度来ようとは思わない。

ところで、“店名”に気を取られることはないだろうか。
「どうしてこんな店名にしたのだろう?」と思わせる店がある。
そういう疑問を抱かせた時点で、
それはひとつの個性である。

名前には、「それ自体に神秘的な力があり、
人の運命に影響を与えるものだ」(『霧越邸殺人事件』綾辻行人・新潮社)という。
言葉には霊が宿っており、
その力がしばしば作用するという考え方に古くから“言霊信仰”がある。
言霊(ことだま)によって幸を呼び込むこともあれば、
呪いをかけることもできる。

したがって、古代の王たちは実名を出さなかったし、
称号で呼ばれていた。
口にしてはいけない言葉として“忌言葉”がある。
受験生に「すべる」「おちる」の言葉を言わないよう気を使うのも、
言霊信仰による考え方である。

これは“和歌”にも影響を及ぼした。
戦国武将が出陣前に和歌を詠むのは、
言霊の霊力を得て戦いに挑むためだ。
単に趣味で詠んでいたわけではない。

明智光秀が織田信長を討つ直前に連歌会に参加し、
「時は今 天が下しる五月哉」と詠んだことはよく知られている。
このことは、換言すれば、
光秀は言霊の呪術を得て
信長を討ったということになろう。
現代社会では「俗信」と一蹴されようが、
そのような歴史があることは確かである。

この言霊信仰から捉えたとき、
幼なじみと行った“とある店”は、
閑古鳥が鳴くようないささか暗示的な店だった。
もちろん意図してつけたのだろうが、
我々が行くことは二度とあるまい。
帰路に就きながら、
がっかりした胃のため息を聞いていた。


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4 コメント

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Unknown (treasure)
2009-08-11 12:51:03
もう夏休みに入ったので、日曜に羽生へ帰ってきてくつろいでます。今日「味てつ」に行って来ました。佐野ラーメンみたいですね。
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treasureさんへ (クニ)
2009-08-12 01:24:38
羽生におられるのですね。
おかえりなさい。
冷夏のせいか、セミの鳴き声が例年より少ない気がします。

「味てつ」はいかがだったでしょう。
羽生は佐野系のラーメンが多いですよね。
ジャンボラーメンを食べて以来行ってないので、
てつの虫が騒ぎ始めています(笑)
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Unknown (treasure)
2009-08-12 12:31:53
味てつ では塩ラーメンを食べましたが、ゴマが入っていておいしかったですよ。大盛りにしても500円といのは驚きました。くにさんいらしたら、ご挨拶でもと思っていましたが、ご年輩の方しかおりませんでした。マスターは竹を割ったような方ですね。

羽生は佐野ラーメン多いですか?あかしや、しな虎にも行ったことありますが、かなり昔に行ったきりなので味を覚えてません。
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treasureさんへ (クニ)
2009-08-13 01:26:19
塩ラーメン、おいしいですよね。
いつも塩にするか醤油にするかで迷います。
マスターのてつさんも、この両方で勝負をしているらしく、
あのゴマも丹精を込めているそうです。

「マスターは竹を割ったような方」という表現は、
実に的を射ていますね。
思わず吹き出してしまいました(笑)

「あかしや」と「しな虎」はぼくも忘れてしまいました。
両店とも頑張ってますよね。
羽生が佐野系ラーメンが多いと言ったのは、
ぼくが幼い頃によく行っていた店がその味だったので、
そのようなイメージがついているだけかもしれません。
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