〔15.3.25.日経新聞:国際1面〕

【ドバイ=久門武史】アラビア半島南部にあるイエメンが内戦状態に陥りそうな気配だ。北部の首都サヌアを攻略したイスラム教シーア派の武装組織「フーシ」は南下し、南部に退いたハディ暫定大統領派と一触即発の状態になった。混乱に乗じ、ほかのイスラム武装勢力も活発になり、テロや宗派対立の懸念も高まる。シーア派のイランとスンニ派のサウジアラビアの「代理戦争」という側面もあり、中東全体を揺るがしかねない。
「平和的解決がさらに遠のき、内戦の危機に近づいているようだ」。ベノマール国連事務総長特別顧問は22日、イエメンの混迷が「イラク、リビア、シリアのよう」になる可能性を指摘した。
イエメン北部を拠点とするフーシは22日、南部にある同国第3の都市タイズの空港を武力で制圧した。2014年9月にはサヌアに侵攻、15年2月に政権掌握を一方的に宣言していた。ハディ氏は軟禁状態から南部アデンに逃れ「クーデター」と批判した。アデンを「暫定首都」に定めた。
ハディ氏の支持勢力は民兵を募るなど抗戦に備えており、アデンに迫るフーシとの衝突の危険が高まっている。北部のフーシ、南部のハディ氏側のいずれも、直ちに互いを武力で排除するのは困難だ。1990年に南北統合で成立したイエメンは、再び分裂状態が定着する恐れがある。
情勢悪化で、イエメンに駐留していた米英軍の特殊部隊は撤収した。イエメン南部には紅海の南の出入り口に当たるバブルマンデブ海峡がある。混乱の拡大は、紅海からスエズ運河を通り地中海に至る海運の大動脈にも打撃を与えかねない。
混乱に乗じて20日にサヌアで起きたのが、シーア派のモスク(礼拝施設)2カ所を狙った自爆テロだった。140人以上が死亡し、同派を敵視するスンニ派武装組織「イスラム国」が犯行声明を出した。イエメンには国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の拠点が多数ある。フーシ、AQAPに加え、イスラム国も活動を始めたことが事実ならば、混乱の収拾は難しくなる。
イエメン情勢に神経をとがらせるスンニ派政権の隣国サウジアラビアは21日、サルマン国王がアラブ首長国連邦(UAE)、カタールなど湾岸の同派政権の首脳クラスと対応を協議した。サウジは、フーシがシーア派政権の大国イランの支援を受けていると疑う。サヌアの空港には物資を積んだイランの民間定期便が飛来している。
サウジのサウド外相は23日、イランについて「宗派対立をかき立てている」と批判した。さらに「この問題が平和的に解決されなければ、侵略から守るために必要な措置をとる」と警告した。
一方、AFP通信によるとイランでは精鋭部隊である革命防衛隊のジャファリ司令官が11日「革命の輸出は新たな段階に入った」と述べた。イエメン情勢を指したものならば、フーシの背後にイランがいるというサウジの懸念を強めそうだ。


【ドバイ=久門武史】アラビア半島南部にあるイエメンが内戦状態に陥りそうな気配だ。北部の首都サヌアを攻略したイスラム教シーア派の武装組織「フーシ」は南下し、南部に退いたハディ暫定大統領派と一触即発の状態になった。混乱に乗じ、ほかのイスラム武装勢力も活発になり、テロや宗派対立の懸念も高まる。シーア派のイランとスンニ派のサウジアラビアの「代理戦争」という側面もあり、中東全体を揺るがしかねない。
「平和的解決がさらに遠のき、内戦の危機に近づいているようだ」。ベノマール国連事務総長特別顧問は22日、イエメンの混迷が「イラク、リビア、シリアのよう」になる可能性を指摘した。
イエメン北部を拠点とするフーシは22日、南部にある同国第3の都市タイズの空港を武力で制圧した。2014年9月にはサヌアに侵攻、15年2月に政権掌握を一方的に宣言していた。ハディ氏は軟禁状態から南部アデンに逃れ「クーデター」と批判した。アデンを「暫定首都」に定めた。
ハディ氏の支持勢力は民兵を募るなど抗戦に備えており、アデンに迫るフーシとの衝突の危険が高まっている。北部のフーシ、南部のハディ氏側のいずれも、直ちに互いを武力で排除するのは困難だ。1990年に南北統合で成立したイエメンは、再び分裂状態が定着する恐れがある。
情勢悪化で、イエメンに駐留していた米英軍の特殊部隊は撤収した。イエメン南部には紅海の南の出入り口に当たるバブルマンデブ海峡がある。混乱の拡大は、紅海からスエズ運河を通り地中海に至る海運の大動脈にも打撃を与えかねない。
混乱に乗じて20日にサヌアで起きたのが、シーア派のモスク(礼拝施設)2カ所を狙った自爆テロだった。140人以上が死亡し、同派を敵視するスンニ派武装組織「イスラム国」が犯行声明を出した。イエメンには国際テロ組織アルカイダ系の武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の拠点が多数ある。フーシ、AQAPに加え、イスラム国も活動を始めたことが事実ならば、混乱の収拾は難しくなる。
イエメン情勢に神経をとがらせるスンニ派政権の隣国サウジアラビアは21日、サルマン国王がアラブ首長国連邦(UAE)、カタールなど湾岸の同派政権の首脳クラスと対応を協議した。サウジは、フーシがシーア派政権の大国イランの支援を受けていると疑う。サヌアの空港には物資を積んだイランの民間定期便が飛来している。
サウジのサウド外相は23日、イランについて「宗派対立をかき立てている」と批判した。さらに「この問題が平和的に解決されなければ、侵略から守るために必要な措置をとる」と警告した。
一方、AFP通信によるとイランでは精鋭部隊である革命防衛隊のジャファリ司令官が11日「革命の輸出は新たな段階に入った」と述べた。イエメン情勢を指したものならば、フーシの背後にイランがいるというサウジの懸念を強めそうだ。