(日経10/19:総合・経済面)
安倍晋三首相がアベノミクス「新3本の矢」の目標の一つに「国内総生産(GDP)600兆円」を掲げた。2020年ごろまでに今から100兆円も上積みできるとの意気込みに、懐疑的な声も出たが、意外と実現は遠くないかもしれない。からくりは内閣府が16年末に予定するGDPの推計方法の見直しだ。 (川手伊織、藤川衛)

経済規模を示すGDPは国連の「国民経済計算(SNA)」を基準に推計する。国連は08年、その基準を見直した。すでに米国、欧州連合(EU)、オーストラリアなどは新基準に移行した。
13年に新基準に対応した米国では、02~12年のGDPが3.0~3.6%増えた。日本も新基準の導入で「3%半ば前後」(内閣府)のGDPの増加が見込める。15年度の名目GDPの見込みは現行基準で504兆円。新基準では約20兆円かさ上げされる可能性がある。
GDPの押し上げに影響が大きいのは研究開発費の算入だ。現在は付加価値を生まない「経費」として扱い、GDPの計算時には除外してきた。
例えば自動車メーカーが国内で生産・販売したハイブリッド車は最終製品としてGDPに含めるが、車に搭載する小型エンジンの開発費はGDPから除いてきた。新基準では付加価値を生む「投資」と見なし、GDPに加算する。
「名目3%で成長していけば十分到達可能だ」。安倍首相は9月末にこう語った。確かに新基準を使えば目標への道筋は見えやすくなる。
内閣府によると、現行基準なら3%の名目成長率が続いても名目GDPが600兆円を超すのは21年度(616兆円)。新基準で15年度のGDPを20兆円上積みすれば、20年度に615兆円を上回る。GDPの水準は基礎統計の精度にも左右される。麻生太郎財務相は16日の経済財政諮問会議で一部指標は調査サンプルの偏りで実態以上に悪いと指摘し、基礎統計の精度向上を提案した。
GDPのかさ上げは政府の財政健全化計画にも影響する。財政赤字の額が同じでもGDPに対する比率は下がるからだ。
政策経費を税収でまかなえるかを示す国と地方の基礎的財政収支は15年度にGDP比3%の赤字を見込む。政府はこれを18年度に1%に縮める方針だ。新基準で名目3%の成長が続く前提で試算すると、18年度の赤字比率は1.6%と現行基準より0.1ポイント下がる。
手品のような話だが、これで目標達成と安心するのは早い。前提となる名目3%成長の想定は非現実的だとの批判がエコノミストに多い。日銀によると日本の潜在成長率は0%台前半から半ば。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「労働力不足を補う移民受け入れ拡大など抜本的な成長戦略がないと高成長は実現しない」と見る。
成長が加速しなければ、税収の大きな伸びも見込めない。第一生命経済研究所の星野卓也氏は「新基準に切り替えても、20年度までに基礎的財政収支を黒字にする最終目標の達成はなお遠い」と指摘。「歳出削減が不可欠なことは変わらない」と強調する。
安倍晋三首相がアベノミクス「新3本の矢」の目標の一つに「国内総生産(GDP)600兆円」を掲げた。2020年ごろまでに今から100兆円も上積みできるとの意気込みに、懐疑的な声も出たが、意外と実現は遠くないかもしれない。からくりは内閣府が16年末に予定するGDPの推計方法の見直しだ。 (川手伊織、藤川衛)

経済規模を示すGDPは国連の「国民経済計算(SNA)」を基準に推計する。国連は08年、その基準を見直した。すでに米国、欧州連合(EU)、オーストラリアなどは新基準に移行した。
13年に新基準に対応した米国では、02~12年のGDPが3.0~3.6%増えた。日本も新基準の導入で「3%半ば前後」(内閣府)のGDPの増加が見込める。15年度の名目GDPの見込みは現行基準で504兆円。新基準では約20兆円かさ上げされる可能性がある。
GDPの押し上げに影響が大きいのは研究開発費の算入だ。現在は付加価値を生まない「経費」として扱い、GDPの計算時には除外してきた。
例えば自動車メーカーが国内で生産・販売したハイブリッド車は最終製品としてGDPに含めるが、車に搭載する小型エンジンの開発費はGDPから除いてきた。新基準では付加価値を生む「投資」と見なし、GDPに加算する。
「名目3%で成長していけば十分到達可能だ」。安倍首相は9月末にこう語った。確かに新基準を使えば目標への道筋は見えやすくなる。
内閣府によると、現行基準なら3%の名目成長率が続いても名目GDPが600兆円を超すのは21年度(616兆円)。新基準で15年度のGDPを20兆円上積みすれば、20年度に615兆円を上回る。GDPの水準は基礎統計の精度にも左右される。麻生太郎財務相は16日の経済財政諮問会議で一部指標は調査サンプルの偏りで実態以上に悪いと指摘し、基礎統計の精度向上を提案した。
GDPのかさ上げは政府の財政健全化計画にも影響する。財政赤字の額が同じでもGDPに対する比率は下がるからだ。
政策経費を税収でまかなえるかを示す国と地方の基礎的財政収支は15年度にGDP比3%の赤字を見込む。政府はこれを18年度に1%に縮める方針だ。新基準で名目3%の成長が続く前提で試算すると、18年度の赤字比率は1.6%と現行基準より0.1ポイント下がる。
手品のような話だが、これで目標達成と安心するのは早い。前提となる名目3%成長の想定は非現実的だとの批判がエコノミストに多い。日銀によると日本の潜在成長率は0%台前半から半ば。BNPパリバ証券の河野龍太郎氏は「労働力不足を補う移民受け入れ拡大など抜本的な成長戦略がないと高成長は実現しない」と見る。
成長が加速しなければ、税収の大きな伸びも見込めない。第一生命経済研究所の星野卓也氏は「新基準に切り替えても、20年度までに基礎的財政収支を黒字にする最終目標の達成はなお遠い」と指摘。「歳出削減が不可欠なことは変わらない」と強調する。