(日経9/17:企業総合面)
ソニーとオリンパスが共同出資するソニー・オリンパスメディカルソリューションズ(SOMED、東京都八王子市)は16日、世界初の高速自動焦点(AF)を備えた外科手術用の4K内視鏡を10月上旬に発売すると発表した。オリンパスの内視鏡にソニーの映像技術を融合し、難易度の高い手術の精度を高めることを狙う。「医療のSONY」が本格始動する。

世界初の高速AF機能搭載の4K内視鏡を開発した(16日、東京都千代田区)
「光源から画像センサー、モニターまで4Kの映像システムが自前でそろう会社は世界にもまれだ」。同日の記者会見でソニーの医療事業を担う勝本徹業務執行役員SVPは、SOMEDの競争力をこう評価した。
ソニーとオリンパスは2012年9月に資本・業務提携。13年4月にソニーが51%、オリンパスが49%を出資するSOMEDを新設した。その成果の第1弾となる4K内視鏡「VISERA 4K UHD」を世界に投入する。日本の価格はシステム一式が約1700万円(税別)で、販売はオリンパスが担う。
ソニーはビデオカメラやテレビで蓄積した映像処理技術、放送機器で磨いた伝送技術を注ぎ込んだ。オリンパスは世界首位の消化器内視鏡の技術に加え、医療法令対応を担い、医師との太いパイプでニーズを吸い上げて開発を支えた。
外科手術用の内視鏡は体に複数の穴を開け、内視鏡と専用器具を差し込んで手術する。開腹手術に比べ、患者の負担が少なく、米国では14年に内視鏡手術が06年比で2倍以上に増えた。
ただ消化器用に強いオリンパスも、外科用の世界シェアは2割にとどまる。オリンパスの田口晶弘専務執行役員は「4K内視鏡を外科用のデファクトスタンダードにする」と話した。4Kを武器に、20年に外科用内視鏡のシェアを3割に引き上げる目標を掲げる。
4K内視鏡はフルハイビジョンの約4倍の解像度で高精細な映像を表現できる。「一度、使ったら戻れない」「開腹手術のような感覚」。臨床試験では医師から奥行きのある映像に驚きの声が上がった。発表会では千円札に印字してある肉眼で見えない文字を鮮明に映し出すデモも実演した。
オリンパス出身の深谷孝SOMED副社長は「ソニーの映像技術の引き出しの多さに驚いた」と打ち明ける。患部の赤色のリアルな再現にこだわる最前線の医師の要望に、ソニーの映像技術者がすばやく対応。「プロの放送機器で鍛えたソニーの映像技術の厚みは圧倒的だった」(深谷氏)
田口氏は「内視鏡手術は大腸手術のように難易度の高いニーズが今後拡大する」と話す。手術の精度を上げるには映像の正確な再現が欠かせない。ソニーは高精細な映像に加え、4Kのような大容量データをほとんど遅延を感じることなくモニターに表示するなど、「システムを高い次元で統合できる」(勝本氏)。
新会社設立から2年半で新製品の発売にこぎつけた。「オリンパスだけなら2倍はかかった」(オリンパス幹部)という。医療機器メーカーと異なる時間軸もビジネスを進める上で武器になる。
ソニーは20年に医療事業で売上高2000億円の目標を掲げ、将来の成長の柱とする構想を持つ。既に電子お薬手帳や細胞分析、遺伝子解析に進出。売上高は大きくないが、将来に向けた種まきを着実に進めている。
課題はどこまで投資に踏み込むかだろう。4K内視鏡は販売・サービスをオリンパスに依存する。機動的な事業展開に欠かせない投資について今の中期経営計画は明確に記していない。小さく産んで大きく育てる戦略では大胆に事業を進める世界の競合に後れを取る可能性もある。
成長市場を巡る競争は激しい。医療でSONYブランドをどう確立するのか。ソニーの本気度が問われる。 (星正道)
ソニーとオリンパスが共同出資するソニー・オリンパスメディカルソリューションズ(SOMED、東京都八王子市)は16日、世界初の高速自動焦点(AF)を備えた外科手術用の4K内視鏡を10月上旬に発売すると発表した。オリンパスの内視鏡にソニーの映像技術を融合し、難易度の高い手術の精度を高めることを狙う。「医療のSONY」が本格始動する。


世界初の高速AF機能搭載の4K内視鏡を開発した(16日、東京都千代田区)
「光源から画像センサー、モニターまで4Kの映像システムが自前でそろう会社は世界にもまれだ」。同日の記者会見でソニーの医療事業を担う勝本徹業務執行役員SVPは、SOMEDの競争力をこう評価した。
ソニーとオリンパスは2012年9月に資本・業務提携。13年4月にソニーが51%、オリンパスが49%を出資するSOMEDを新設した。その成果の第1弾となる4K内視鏡「VISERA 4K UHD」を世界に投入する。日本の価格はシステム一式が約1700万円(税別)で、販売はオリンパスが担う。
ソニーはビデオカメラやテレビで蓄積した映像処理技術、放送機器で磨いた伝送技術を注ぎ込んだ。オリンパスは世界首位の消化器内視鏡の技術に加え、医療法令対応を担い、医師との太いパイプでニーズを吸い上げて開発を支えた。
外科手術用の内視鏡は体に複数の穴を開け、内視鏡と専用器具を差し込んで手術する。開腹手術に比べ、患者の負担が少なく、米国では14年に内視鏡手術が06年比で2倍以上に増えた。
ただ消化器用に強いオリンパスも、外科用の世界シェアは2割にとどまる。オリンパスの田口晶弘専務執行役員は「4K内視鏡を外科用のデファクトスタンダードにする」と話した。4Kを武器に、20年に外科用内視鏡のシェアを3割に引き上げる目標を掲げる。
4K内視鏡はフルハイビジョンの約4倍の解像度で高精細な映像を表現できる。「一度、使ったら戻れない」「開腹手術のような感覚」。臨床試験では医師から奥行きのある映像に驚きの声が上がった。発表会では千円札に印字してある肉眼で見えない文字を鮮明に映し出すデモも実演した。
オリンパス出身の深谷孝SOMED副社長は「ソニーの映像技術の引き出しの多さに驚いた」と打ち明ける。患部の赤色のリアルな再現にこだわる最前線の医師の要望に、ソニーの映像技術者がすばやく対応。「プロの放送機器で鍛えたソニーの映像技術の厚みは圧倒的だった」(深谷氏)
田口氏は「内視鏡手術は大腸手術のように難易度の高いニーズが今後拡大する」と話す。手術の精度を上げるには映像の正確な再現が欠かせない。ソニーは高精細な映像に加え、4Kのような大容量データをほとんど遅延を感じることなくモニターに表示するなど、「システムを高い次元で統合できる」(勝本氏)。
新会社設立から2年半で新製品の発売にこぎつけた。「オリンパスだけなら2倍はかかった」(オリンパス幹部)という。医療機器メーカーと異なる時間軸もビジネスを進める上で武器になる。
ソニーは20年に医療事業で売上高2000億円の目標を掲げ、将来の成長の柱とする構想を持つ。既に電子お薬手帳や細胞分析、遺伝子解析に進出。売上高は大きくないが、将来に向けた種まきを着実に進めている。
課題はどこまで投資に踏み込むかだろう。4K内視鏡は販売・サービスをオリンパスに依存する。機動的な事業展開に欠かせない投資について今の中期経営計画は明確に記していない。小さく産んで大きく育てる戦略では大胆に事業を進める世界の競合に後れを取る可能性もある。
成長市場を巡る競争は激しい。医療でSONYブランドをどう確立するのか。ソニーの本気度が問われる。 (星正道)