〔15.1.19.日経新聞:新興・中小企業面〕
IT(情報技術)などを生かし、水産物の流通に新風を吹き込もうというベンチャー企業が相次いでいる。漁業者と小売り・飲食店をつないで鮮度の高い魚介類を提供したり、独自加工で付加価値を高めたりする。卸売市場を中心とした従来の流通の仕組みでは提供しきれない価値をアピールして成長を目指す。
東急目黒線武蔵小山駅(東京・品川)の駅前商店街にある鮮魚店「sakana bacca」(サカナバッカ)。店内にはアンコウやタチウオなど多彩な魚が並ぶ。「よく行くスーパーよりも珍しい魚が多くて楽しい」。近隣に住む70歳代の主婦は笑顔で話す。
同店はフーディソン(東京・中央、山本徹社長)が昨年12月に開いた。2013年創業の同社は漁業者や東京・築地市場の仲卸会社など50以上の取引先と連携。飲食店がスマートフォンやパソコンで200種類以上の魚を注文できるサイト「魚ポチ」(ウオポチ)を運営する。登録店は1300まで増えた。小売店もサイトで培った仕入れルートを活用する。
山本社長は介護・医療業界向けの人材紹介会社、エス・エム・エスの創業メンバー。岩手県の漁業者と知り合うなかで、高齢化や就業者減といった漁業の現状を知り、水産流通には改革の余地が大きいと考えた。
2月には東京都目黒区にサカナバッカの2号店を開く。店舗から周辺の飲食店に鮮魚を供給したり、消費者に宅配したりする手法を検証する店舗にする。15年度には小売店のFC(フランチャイズチェーン)展開も始める計画だ。
ITを活用して水産流通を変えようというベンチャーの先駆け的な存在が八面六臂(東京・新宿、松田雅也社長)だ。専用の注文アプリ(応用ソフト)を組み込んだタブレット(多機能携帯情報端末)を飲食店に無償貸与。首都圏を中心に1700店の顧客を持つ。
松田社長は物流会社グループのIT子会社の立ち上げなどに携わるなかで、水産流通のIT支援ビジネスに着目。11年からサービスを始めた。
毎日、旬の魚の水揚げ状況や築地の入荷見込み情報などを入れてアプリを更新。飲食店の仕入れ担当者が前日に注文すると、翌朝に買い付けて配送する。飲食店は仕入れ業務に関わる手間やコストが削減できる。
昨秋には高級和食店などが仕入れる通常より鮮度の高い魚介類の取り扱いも始めた。これまでは築地市場に遠い首都圏郊外の飲食店などが中心顧客だったが、都心の店舗なども開拓する。さらに、飲食店の要望に応えて肉や野菜なども販売。都内に新たな物流センターも稼働させた。
首都圏だけではない。食一(京都市、田中淳士社長)は近畿圏の飲食店向けに魚介類の産地直送サービスを手掛ける。全国100カ所以上の漁港の仲買人などと提携。水揚げ情報と約150の飲食店の注文をマッチングする。ミシマオコゼやウチワザメといった一般にはほとんど出回らないものを含め、価格やサイズなど要望にあった鮮魚を提供できるという。
今後は新たに始めた加工事業にも力を入れる。アジやイワシなどを乾燥させ、空揚げ粉を付けた状態で飲食店に提供する。専門の加工会社と契約し、食一が加工法などを指導する。これまでは数がそろわずに大量供給が難しかった魚の販売も可能になるという。
同社は田中氏が大学在学中の08年に創業。15年8月期の売上高は約6000万円の見込み。加工品の販売などを通じて事業を拡大する。
▽漁業者の待遇、効率化で改善
一般的に魚介類は全国の漁港や大都市の卸売市場など、複数の流通段階を経て店舗や消費者に届く。産地から消費者に確実にモノを届ける仕組みだが、流通にかかる時間やコストなど様々な課題を指摘する声もある。
一方、高齢化や後継者難などで漁業就業者はこの20年で約4割減った。農林水産省の調査によると、最終小売価格に占める漁業者の手取りは、青果物の生産者を下回る。人手不足を解消するためにも漁業者の収入とやる気を高める仕組み作りが欠かせない。
魚介類を含めて消費者の食の好みは多様になり、細分化も進んでいる。「保存が利かない『鮮魚』は大手の規模よりも、ベンチャーの機動力が生きる場面が多い」。八面六臂の松田雅也社長は強調する。
ITなどを活用したベンチャー各社の独自性のある取り組みが広がり、効率性も高まれば、漁業者と消費者の双方にメリットが出てきそうだ。
IT(情報技術)などを生かし、水産物の流通に新風を吹き込もうというベンチャー企業が相次いでいる。漁業者と小売り・飲食店をつないで鮮度の高い魚介類を提供したり、独自加工で付加価値を高めたりする。卸売市場を中心とした従来の流通の仕組みでは提供しきれない価値をアピールして成長を目指す。
東急目黒線武蔵小山駅(東京・品川)の駅前商店街にある鮮魚店「sakana bacca」(サカナバッカ)。店内にはアンコウやタチウオなど多彩な魚が並ぶ。「よく行くスーパーよりも珍しい魚が多くて楽しい」。近隣に住む70歳代の主婦は笑顔で話す。
同店はフーディソン(東京・中央、山本徹社長)が昨年12月に開いた。2013年創業の同社は漁業者や東京・築地市場の仲卸会社など50以上の取引先と連携。飲食店がスマートフォンやパソコンで200種類以上の魚を注文できるサイト「魚ポチ」(ウオポチ)を運営する。登録店は1300まで増えた。小売店もサイトで培った仕入れルートを活用する。
山本社長は介護・医療業界向けの人材紹介会社、エス・エム・エスの創業メンバー。岩手県の漁業者と知り合うなかで、高齢化や就業者減といった漁業の現状を知り、水産流通には改革の余地が大きいと考えた。
2月には東京都目黒区にサカナバッカの2号店を開く。店舗から周辺の飲食店に鮮魚を供給したり、消費者に宅配したりする手法を検証する店舗にする。15年度には小売店のFC(フランチャイズチェーン)展開も始める計画だ。
ITを活用して水産流通を変えようというベンチャーの先駆け的な存在が八面六臂(東京・新宿、松田雅也社長)だ。専用の注文アプリ(応用ソフト)を組み込んだタブレット(多機能携帯情報端末)を飲食店に無償貸与。首都圏を中心に1700店の顧客を持つ。
松田社長は物流会社グループのIT子会社の立ち上げなどに携わるなかで、水産流通のIT支援ビジネスに着目。11年からサービスを始めた。
毎日、旬の魚の水揚げ状況や築地の入荷見込み情報などを入れてアプリを更新。飲食店の仕入れ担当者が前日に注文すると、翌朝に買い付けて配送する。飲食店は仕入れ業務に関わる手間やコストが削減できる。
昨秋には高級和食店などが仕入れる通常より鮮度の高い魚介類の取り扱いも始めた。これまでは築地市場に遠い首都圏郊外の飲食店などが中心顧客だったが、都心の店舗なども開拓する。さらに、飲食店の要望に応えて肉や野菜なども販売。都内に新たな物流センターも稼働させた。
首都圏だけではない。食一(京都市、田中淳士社長)は近畿圏の飲食店向けに魚介類の産地直送サービスを手掛ける。全国100カ所以上の漁港の仲買人などと提携。水揚げ情報と約150の飲食店の注文をマッチングする。ミシマオコゼやウチワザメといった一般にはほとんど出回らないものを含め、価格やサイズなど要望にあった鮮魚を提供できるという。
今後は新たに始めた加工事業にも力を入れる。アジやイワシなどを乾燥させ、空揚げ粉を付けた状態で飲食店に提供する。専門の加工会社と契約し、食一が加工法などを指導する。これまでは数がそろわずに大量供給が難しかった魚の販売も可能になるという。
同社は田中氏が大学在学中の08年に創業。15年8月期の売上高は約6000万円の見込み。加工品の販売などを通じて事業を拡大する。
▽漁業者の待遇、効率化で改善
一般的に魚介類は全国の漁港や大都市の卸売市場など、複数の流通段階を経て店舗や消費者に届く。産地から消費者に確実にモノを届ける仕組みだが、流通にかかる時間やコストなど様々な課題を指摘する声もある。
一方、高齢化や後継者難などで漁業就業者はこの20年で約4割減った。農林水産省の調査によると、最終小売価格に占める漁業者の手取りは、青果物の生産者を下回る。人手不足を解消するためにも漁業者の収入とやる気を高める仕組み作りが欠かせない。
魚介類を含めて消費者の食の好みは多様になり、細分化も進んでいる。「保存が利かない『鮮魚』は大手の規模よりも、ベンチャーの機動力が生きる場面が多い」。八面六臂の松田雅也社長は強調する。
ITなどを活用したベンチャー各社の独自性のある取り組みが広がり、効率性も高まれば、漁業者と消費者の双方にメリットが出てきそうだ。