緑深き地底より湧きいで
田畑の隈々を経巡る血管
緑濃き家並屋並を湿らせ
地下鉄の軌道を緑に染め
嬰児の眼差しを潤ませて
碧緑の千歳緑の八千草の
暗緑の照葉樹森の山鳩の
翼に宿る曙を濡らし輝く
我はかそけき水霊の一滴
「私はまた旅に出た。――
所詮、乞食坊主以外の何物でもない私だつた、愚かな旅人として一生流転せずにはゐられない私だつた、浮草のやうに、あの岸からこの岸へ、みじめなやすらかさを享楽してゐる私をあはれみ且つよろこぶ。
水は流れる、雲は動いて止まない、風が吹けば木の葉が散る、魚ゆいて魚の如く、鳥とんで鳥に似たり、それでは、二本の足よ、歩けるだけ歩け、行けるところまで行け。
旅のあけくれ、かれに触れこれに触れて、うつりゆく心の影をありのまゝに写さう。
私の生涯の記録としてこの行乞記を作る。」
行乞記(一)種田山頭火
山の花は山の水に活けてをき
山頭火
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