理解されない生物について

それは、連休が始まる前の、とある夜のことじゃった。
あのリレーが、長野で始まる２日前。
小雨の降る中、浅草くんだりを歩いていた。
古くからの友達が店を出したので、長野方面に出張した道すがら（新幹線で上野下車ね）ちょっと顔を出してきたのだった。
そう、外国人が長野に集結しはじめているとの情報で、とっとと帰ってきたその足でね。

また一人、友人に会うのに有料になっちまったい。
前にも書いたと思うのだけれど、僕の場合、友達がお店（もちろんGay Barね）をはじめちゃうというケースが異常に高頻度のような気がするのだ。
浅草だけでももう何軒になる？......
ま、その話しはさておき、楽しく騒いでつい帰りが遅くなった。

地下鉄に遅れそう。
重い荷物を肩に食い込ませながら駅を目指して急ぎ足に。
と、不意に後ろから声をかけるヤツが居る。


「あのぉ～....お急ぎのところ申し訳ないんですが.....」
んも～っ、なに？
振り向く僕。
「すごい荷物ですねぇ.....」
え？出張帰りでそのまま呑みに出てましたからね。
余りにも間抜けな質問に、虚を突かれる。
で？




暗がりから、ヒョロンとしてトロンとした話し方をするかったるいヤツが出てきた。
ちっっっっっっ！！！！
と、見ると、制服姿だ。
なに？
こんなところでコスプレ？
さっき交番の角を曲がったところだった。
何かの警備員かと思ったら、警官？
本物か？

「あのぉ～....荷物を見せてもらってイイですか？」
なんだよ、職務質問か。
ムカツク！！

「なんでしょう？イイですけど、電車の時間があるんで早くしてくださいね！」と、僕。

「あぁ～、それじゃぁ、こちらに来ていただけますかぁ～？」
さっき急ぎ足で通り過ぎた交番の方へ誘導する。
不機嫌な僕。
イイからここで調べろよ！とか思いながら着いていく。
逆らうと余計に時間を食いそうだったからねぇ。
誘導しながら、口先だけで申し訳ないとか言ってるのが余計にカンに障る。
「何度も言いますが、時間がないんでテキパキお願いしますね！」


交番まで逆戻り。
中にもう一人警官がいた。
何かねぇ、仕事してなぁ～いって感じ。
ダレてる。
でもね、こっちの警官、ちょっとがっしりして顔もまぁまぁカワイイ。
ちょっと機嫌が良くなる僕。
が、コイツも僕のイライラを微妙にあおるのだ。
勤務中なんだから、シャキッとせんかい！
好い若いもんが、覇気のない！なんてね。


さっきのいけてない警官が、おずおずと言う。
「あの～、凶器とか刃物とか持ってますか？」
耳を疑ったね。
バカか？こいつ。
それとも、スネークマンショーのフリークとか？＞なわきゃないか
「はぁ？持ってませんが。」と言うのがやっとの僕。
と言うより、その一言にとどめるのがやっとの僕。
第一、ホントに持ってたとして「はい、バズーカも手榴弾も、ナイフも、小銃も一応ひとそろい」なんて答えるって期待してるんかしらん？


黒のツナギにオレンジのキャップ、迷彩のリュックを２つ持った編み上げ靴の僕が、なんで凶器なんか持ち歩いてると思ったんだろう？
小雨降る闇に紛れて、靴音も立てずに足早に交番横をすり抜けていく無精髭短髪の男。
どう見ても善良な一般市民じゃないですか？


なのに、交番の中にいた警官も、ただこっちを見てるだけで仕事に取りかからない。
じれた僕は言った。
「あの、調べるんなら早くしてくださいね。」

と、いけてない警官が言う。
「あのぉ～、申し訳ないんですが、カバンの中身を調べさせてください。」
どれから？こっちから？早く開けて中を見てくださいな。

「カバンを開けてください」とガッチリ君。
判りましたから、そっちも勝手に開けて調べてくださいよ、急いでるんだから！
終電に乗り遅れたらタクシー代出してくれるのかって、聞きそうになっちゃったよ。
テキパキ仕事せんかい！イライラするぅ～！

手際よくリュックを開けて、中身を見せる僕。
と、いつの間にかもう一人警官が現れる。
なによ？物々しい。

不意に後ろの警官が小さく叫んだ。
「こっ、これはっ？？」
ん？なに？どれのこと？
「これは刃物ですよね！！」と、警官。

何を気色ばんでるのか、理解できない僕。
これですかぁ～？
そう言いながら、警官が指さした凶器？をテーブルに出す。




何とも中途半端な緊張が、交番内に満ちた。
「あのぉ～、いちお～刃物と言えば刃物ですけど、これで人は殺せないと思いますよ A(^_^;」と、僕。
凶器とは言えないんでは？

「これは、なんですかっ？何する物ですかっ？」と、警官。
「枝切りバサミですけど、見たこと無いですか？」と、僕。
何だかからかわれてるんじゃないかって思いだした。
または、暇もてあました警官が、仕事をしてるフリに僕を付き合わせてるのかなってね。
いや、それとも、何が何でもテロリストに仕立て上げるつもりか？
どうでも好いけど、早く帰りたい！！！




ケースから出して、見せてみる。
「刃物ですね！刃物だ！」
えぇえぇ、花を切ったりするんですよ、小枝とかね。
「ほかに刃物は持ってないんですかっ！」っと警官。
んも～、自分で調べろよ、仕事だろ？

＜僕だってヤバイ物は隠してるかも知れないじゃないかよぉ～。
そんなに何から何まで親切に出してみせる犯人って、あり得ないと僕は思うんだけど、プロの目からすると違うのかしらん？どうなのお巡りさん？＞
ホント、こう言いたかったです。


例の、ちょっとばかりガチムチ君が、もう一つのリュックを開けたものの中身をチェックしようとしない。
これは？とか聞いては来るのだが、ラチがあかないので中身を次々取り出して説明する。
これ、パソコン、電源、ケーブル類、カメラ、専門書、財布、....バカバカしく思いながら一通り見せてから「こっちはもう仕舞ってもイイ？」って聞くと、大きく頭を振る。
はい、良い子だ。
いっちょあがり！

もう一つのリュックも、中身を出して全部見せる。
これは外づけの小型ハードディスク、これは着古した下着、あれとこれとそれと.....。
以上！
仕舞いますよ。
時間がないんだから！


と、今度は後から来た警官が言う。
「あの、身体検査をさせてもらってもイイですか？」
タイプじゃ無い。
ガッチリ君の方を向いて、
「ハイどうぞ！手早く調べてくださいね！」って言ったのに、誰も手を出して来やがらない。
んも～っ、なんてシッツレイな子たちなの？＞理不尽な怒り方
早く触りなさいよっ！とか思った。
ホント、むかついてきたわっ！！
....加齢臭？
そんなはずはないわっ、華麗臭ならわかるけど。


「ホラ、早くしてくださいよ！」
そうせかすと、タイプじゃないのがポケットのふくらみを軽く触れた。
が、それだけ。
「あのぉ～、中身はなんですか？」と、いけてないヤツ。
なによ？
手榴弾でも隠し持ってるとか、変な想像してないわよねぇ？

あのさぁ、普通、身体検査って、横柄な態度で体中まさぐるんじゃないの？
ガチムチ警官がやってくれたら、プティ萌え～なのにぃ～！

あったま来たわっ！ A(^_^;
せめてちょいガチ君にズボンのポケットの中をまさぐらせたり胸とかケツをさわらせようって、それだけ楽しみに我慢してきたのにさっ！
んも～っ、最近の若い人って、意気地無しなんだからっ！
『若い人にもっと勇気を持ってあたしに接して欲しいと思うのよ。アタシはいつでも受け入れるわ』ってなことを、昼日中の番組でのたもうた、今は亡き小森のオバチャマの台詞を思い出した。


すごいよね、このばぁさま、公共の電波を使って若い男を募集。

が、そんな風に都合良くコトは運ばないのが、現実世界の面白いところだ。

もう良いわっ！
あ～たたちにホンのちょっとだけでも期待したアタイがバカだったわっ！！
ポケットの中の最終兵器を取り出してテーブルに置いた。
勝負よっ！




警官たちの目は、カギでない物に釘付け！
ほほほ、勝負あったわね。
何か質問は？
無意味に得意満面な僕を尻目に、例のとろい警官が聞いてきた。
「これはなんですか？」
「これ、刃物ですよねぇ？」
へ？刃物？
と、彼が指さす先を見ると.....

んも～っ！
ア～タたちって、どこまでアタシをいたぶるの？
なによっ！
爪切りよっ！
爪切りなんかで人が殺せて？
それよか、このコックリングについて質問しなさいよ！
これをアタイのリーサルウェポンに装着したら、火傷ぐらいじゃ済まなくってよ！＞妄想中
ア～タたちの目の前にいるのは、れっきとしたオカマでテロリストではないのよ。
変態なんだから、ちゃんと変態を調べる流儀ってのがあるでしょうに？
壁に両手をつかせて、高圧的態度で全身をまさぐり、ポケットに隠されていたコックリングを発見して尋問する。
「こんな物持ち歩きやがって、ど変態がぁ～！」って、ドスの利いた声で僕を締め上げるの。
なんでそれぐらいのサービスができないのよ？
なんで、爪切りなんかに興味があるのよっ？？？
所詮、退屈なノンケでは、僕たちのささやかなファンタジーのありかさえ察知できないのよね。
もとい。
本当の潜在的危険についての想像力が欠如してるのね？
いいこと？
アタシはセクシャルテロリスト！＞妄想中
わかってないんだからぁ～。
ってか、あからさまにホモホモしくて、敬遠されただけとか？

と言うわけで、散々ヒントを出しておいたにもかかわらず、無事に所持品検査は終わってしまった。



が、.....電車に乗り遅れた。

♪　ああ
　　わかってくれとは言わないが～
　　そんなにオイラが悪いのか～？
　　ララバイ　ララバイ　おやすみよ～
　　ギザギザ　ハートの　子守歌～～　♪