紅旗征戎

政治、経済、社会、文化、教育について思うこと、考えたこと

アメリカにおけるアジア系ロビー

2005-02-20 16:12:03 | 政治・外交
ロビーということばは日本語でも定着してきた。もともとは「廊下」の意味だが、アメリカ政治で「ロビー」、「ロビー活動(lobbying)」というと、特定の集団、業界、企業、団体の利益のための法案通過や法案阻止のために議員に働きかけることをいう。そうした活動を行なう人を「ロビイスト」と呼び、アメリカでは「連邦ロビイング規制法」により、登録が義務付けられている。

最も有名なロビーはいわゆるユダヤ・ロビーであり、AIPAC(The American Israeli Public Affairs Committee アメリカ・イスラエル広報委員会、1959~)やADL(Anti Defamation League 反誹謗中傷連盟)といった団体がアメリカ社会におけるユダヤ差別の撤廃や、アメリカ政府がイスラエル寄りの政策を採用するように強く働きかけてきた。公民権運動で力を発揮した黒人運動におけるNAACP(全米有色人種地位向上協会)もよく知られている。NAACPのような、アジア系アメリカ人全体をまとめる組織はないが、1929年設立の日系アメリカ人市民連盟(JACL)、1895年設立のChinese American Citizens Alliance, 1973年創設のOrganization of Chinese Americans、1994年設立のNational Association of Korean Americans などの団体があり、このうち最も組織力があり、成功したのはJACLで、第2次大戦中の強制収容に対する補償運動を組織し、1988年にアメリカ政府の公式謝罪と一人2万ドルの補償金を引き出す1988年市民自由法の制定までこぎつけた。ただし戦時中のJACLはアメリカ政府への忠誠を日系人社会に要求したので、日系人からしばしば反発を招いていた。中国系アメリカ人団体の運動は、主に中国系アメリカ人の有権者登録の拡大と中国系児童のためのバイリンガル教育の実現を目指したものであった。韓国系アメリカ人の団体は比較的新しいが、1992年のロス暴動で、コリアンタウンや韓国人経営の商店が襲撃されたことがきっかけとなり組織された。

アジア系アメリカ人は経済的成功を最優先しており、強い政治的主張をするために組織されることがなかったので、アジア系ロビーは目立たない存在であったが、政治的主張をする場合も上記のようにアジア系議員の増員、市民権の保障や教育機会の拡大、差別の撤廃、ヘイトクライム対策など内政的な事項に限られていた。外交におけるアジア系ロビーとして知られているのは台湾ロビーで、これは台湾系アメリカ人というよりも台湾政府による議会ロビー活動で、台湾への経済軍事援助や台湾に有利な法案の通過、台湾シンパの議員(共和党が多い)の拡大などを図っている(Taiwan Instituteなどの団体が有名)。

日本の場合、エスニック・ロビーに当たるものといえば、韓国系の民団(在日本大韓民国民団)や北朝鮮系の朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)だろう。両者とも例えば民族学校における教育や、外国人参政権の実現運動に積極的に取り組んでおり、民団は日韓友好議員連盟などを通じて、自民党などとパイプをもち、また朝鮮総連は社会党(現社民党)や一部の自民党議員に政治献金をし、密接な関係にあった。例えば特定船舶入港禁止法や総連本部への固定資産税課税措置などの北朝鮮に対する厳しい政策については、朝鮮総連は当然反対し、社民党などの議員を通じて働きかけている。また日本における先住民団体としては、北海道ウタリ協会というアイヌ団体があり、明治以来の差別立法であった「旧土人法」の廃止運動を続け、1997年の同法廃止、アイヌ新法制定(「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」)の実現にこぎつけた。


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