迷路に迷うことなく無事ホテルに戻り、ここから30分ほど船に乗りヴェネチアガラスで有
名なムラーノ島に向かう。ヴェネチアの街は離れて外から見るとおとぎの国のようにも見
える。島にはガラス工房が沢山あり日本でいう窯元のような感じだ。工房ではガラス職
人のパフォーマンスを見学、日本でも見ることのできるガラス細工だから特別、感心する
ことも驚くこともないが、仕上がりの色だけは足元に及ばない。
ここでは観光客を相手に細工を見せる工房のようで、商品は別の部屋かどこかで作って
いるのではないかと思われる。つまり、次々と観光客が来るので落ち着いて名作になる
ようなものを作っておられないからだ。工房で見学を終えると隣接した販売店に連れて
行かれる。私たちにヴェネチアガラスの見識などないから、店内に展示されている作品を
見ると何れも素晴らしく優劣をつけ難い。強いて判断するとすれば値段の高いものが素
晴らしいとなろうが、素人目からそれを見ても値段に比例した価値が見い出せない。
買う場合、自分の気に入った色と値段が手頃という俗な理由で選ぶことになりそう。島で
の滞在はガラス工房が大半で他の特筆するような観光ポイントには思えなかった。それ
でも見るだけのグラスからシャンデリアまでピンキリの作品を堪能できた。
2晩目のヴェネチアの夕食はフリーだったから近くのレストランの品定めしていたら、同じ
ツアーの女性2人と出会い一緒に食べることにした。年格好は私たちと似たようなものだ
から完全なるおばさん連れ。1人は英語の先生だと言うのに会話はさっぱりで、後日のロ
ーマでバールに入る時、夜なのにgood morningと言いながら平然と入った逸話がある。
彼女たちも海外旅行に長けているのではないから、私たち同様にレストランを選ぶのにも、
目は効かないし料理の内容も分からないまま、賑やかそうな店を選んだ。店内の客は観
光客相手というより現地のお客さんが多いように見えた。
日本人客多いらしく簡単な日本語メニューが用意されており、焼き魚、肉料理をシェア、ボ
ンゴレをそれぞれ頼んだ。前菜や料理が運ばれて、それをつついていると、出されたボン
ゴレの1皿はアサリが開いていない。つまり火の通りが悪いから開いていないのであった。
それを受け取った女史はイタリア語も英語もダメなのに、声を出し店員を呼びアサリを指差し
『No パカパカ』と貝が開いていない仕草を付け加えた。すると店員は大げさなポーズを取り
ながら、ニッコリと笑みを浮かべ皿を持ち帰った。新しく調理し直したボンゴレは全て口を開
けていたのは言うまでもない。言葉など分からなくても熱意があれば通じるものだという典型
的な例だ。勿論、皆で大笑いをしながら楽しいヴェネチアの夜を過ごした。この時から、旅が
終わるまで当然のことニックネームはパカパカさん。