R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

鉄鉱石の記憶⑮ ACT9 少年が見つけたもの

2007-06-14 21:28:24 | インポート

 舞台後方の小高い場所で、創が目を覚ますと、店主(タカトウ)と鉱山の男(メイスケ)がその傍らに立っている。

タカトウ 何を見た。

創   この石の記憶。

タカトウ どうだった。

創   悲しい記憶だった。この石が、僕に、死んでいった人たちの想いを見せてくれたん  

    だ。

タカトウ そうか。

創   そして、思い出したんだ。鉱山で足を悪くしたっていう曾おじいさんお話を。

メイスケ どんなことだ。

創   国が違っても、心でつながった人はずうっと友達だって…。

メイスケ 心でつながった仲間か…。

創   この石は、大切なものだと思っていたけど、こんな想いの記憶を持っているなんて

   知らなかった。

タカトウ 気にするな、お前のせいではない。

メイスケ 時はすさんだ記憶も洗い流してくれる。しかし、大切な記憶も一緒に流してしまう

   ものなのだ。ここで、その記憶を確かめることができたことで、鉱山で亡くなった人の 

   想いはまたよみがえることができたのだ。タカトウ まだまだ、沢山の想いと願いがこ

   の街には残されている。酷なことかもしれないが、君にはその意志をついで、この街 

   を再生させてもらいたい。

創   想いを感じることはできたよ。でも、僕にどうしろっていうんだい。

タカトウ 核になる意志をしっかり持って居る人がいれば、自然と人は集まってくる。

メイスケ 俺は戦うことしかできなかったけれども…

タカトウ 俺は作ることしかできなかったけれども…

メイスケ 君は君自身の方法で、新しい未来を切り開いていってほしい。

タカトウ これが、俺たちが君に伝えたかったこと

メイスケ・タカトウ 俺たちの遺志だ。  

創   あなたたちはいったい。

タカトウ 『カマイシ』をこよなく愛し、死んでいった男たちとでも云ったらいいかな。

メイスケ たくさんの人たちの想いが集まって形になった存在とでも思ってもらえればい

    い。

創   この世の人たちじゃないんですね。

タカトウ そうだ。

メイスケ 怖いか。

創   そんな感じはありません。二人とも暖かいし…。

メイスケ 暖かいか。

タカトウ 意志をついでくれるか。

創   はい。…と、云いたいところですが、お断りします。

タカトウ 何だと。

創   僕には僕自身の人生があります。僕の人生は自分で決めたいんです。

タカトウ ……。

創  僕に過去を見せてくれたこの鉄鉱石の本当の持ち主の意志、『カマイシ』の、未来を

   託したいという、あなたたちの願い、それらは十分に受け止めました。

メイスケ だったらなぜ。

創  だからこそです。皆さんは自分たちの力で未来を切り開いてきた。自分たちで考

  えて…。僕も、仲間たちと一緒に、自分たちの未来を作って生きたいんです。

メイスケ 予想以上だったな。

タカトウ そうだな。

メイスケ しかし、俺たちが見込んだだけのことはある。

タカトウ 言葉だけではない、本当の意味で俺たちの意志を受け継いでもらえた気が

    する。

メイスケ もう、好きにしろ!

タカトウ 行け。俺たちの想いを負担に思うことはない、自分の思うままに未来へ向か

   って…。

創  はい。ありがとうございます。『オオシマタカトウ』さん。そして…。

メイスケ 『メイスケ』だ。『ミウラメイスケ』だ。

創  『メイスケ』さん。ありがとう。  

  創、笑顔で二人を見比べる。


鉄鉱石の記憶⑭ ACT8 残留思念の世界へ

2007-06-12 19:40:04 | インポート

 創が倒れている場所に、サスペンションライトが当たる。創が目をあけると、そこは薄暗い坑道の中である。周りを見回すと、イントレ内部が仄かに明るくなり、裸電球がついている坑道の中の様子が浮かび上がる。そこでは、一人の男が瓦礫に埋もれて、もう一人が、それを掘り出そうとしている。うずもれている男は、片言の日本語で話し始める。

男1 いいから、置いていけ。私、仲間たちのところへ逝くだけ…。

男2 そうはいかない。

創  あれ、この場面、どこかで見たぞ。

男1 仲間のみんなもそうだった。落ちてきた石に埋もれても、誰も助けてはくれ  

   ない。

男2 だから、お前だけは…。今までと同じことをしたくないんだ。

男1 どうして?

男2 これは自分の問題なんだ。

男1 自分の?

男2 お前の仲間が危険な仕事をさせられて死んでいくのを、俺は助けることはできなかった。日本人だけを助けるなんて間違っている…。そう思いながらも、俺は何もできなかった…。

男1 みんなそう。俺は、坑道の仲間たちに白い目で見られるのが怖くて、何もいえなかった。

男1 私もそう。自分だけ責めないで。

創  そうだ、いつも夢で見る、あれだ。

男2 自分たちだけよければそれで良いのか。日本人とは、そんなちっぽけな民族なのか。

男1 あなたみたいな日本人が一人でもいたことを知ることができて、うれしいよ。

男2 そういってくれたとしても、お前が死ねば、お前の家族は、日本人は家族を見殺しにしたと思って一生日本を恨むだろう。だから、お前を助けて、国へ返してやらなきゃならないんだ。日本人の誇りとして。

男1 あなたも死ぬよ。

男2 お前を殺してまで、生き恥をさらしたくない。

男1 謝謝。

 男1、首からペンダントのようなものをはずす。

男1 これを持っていってください。

男2 これは

男1 自分の国へ帰ったら、息子にあげよう、思ってました。

男2 鉄鉱石?

男1 私が、ここで働いていた証…。

 男2、男1から鉄鉱石を渡される。

創  あれ、あれは僕の。

 創、自分の胸にある鉄鉱石を確かめる。男が持っているものと、自分のものとを見比べる。

 同じものである。

男1 息子にはあげられそうも無い。あなた、持っていてください。

男2 そんな大事なものが貰えるか!

男1 私の代わりに持っていって、あなたの息子さんにあげてください。

男2 諦めるな。

男1 私のような、この鉱山で働いた外国人の想いを子供たちに伝えてください。

男2 生きろ!

男1 あなたがきちんと伝えてくれれば、鉄鉱石とともに私の想いも生き続けるよ。

男2 そんなこというな。俺たちは助かるんだ。

男1 俺たち…。

男2 二人で、太陽の光をもう一度全身に浴びるんだ。

男1 わかった。あきらめないよ。

 男2の手がぴたっと止まる。微かに地鳴りの音が聞こえる。

創  二人とも、危ない。逃げて!坑道が崩れる!

男2 太陽の光を二人で!

 地鳴りが大きくなり、瓦礫が崩れる音と共に暗転。

創  死んじゃ、ダメだ!!!

 暗  転


鉄鉱石の記憶⑬ ACT7 仙人峠

2007-06-11 15:39:27 | インポート

 ガタコン、ガタコン。トロッコの音が聞こえる。

 明かりがつくと、トロッコに乗った店主と創がいる。

 トロッコの前の部分には、運転をしている鉱山の男が一人いる。

創  あのぉ。

店主 何だ。

創  どこへ行くんですか。

店主 地の底だ。

創  地の底?

店主 ここは、昔の坑道跡で、この先では今は水を汲んでいる。

創  水を?

店主 昔、ここで鉱石を掘っていた人たちにとって、水は天敵だった。水が湧き出すと、思うように鉱石は掘り出せない。その水が、鉱石が掘り出せなくなった今では、商品価値が一番あると言うのだから皮肉なものだ。

創  それって、水を売ろうと考えた人が偉いんじゃないですか。

店主 えっ。

創  邪魔なものだって思っていたものが売れるって考えた人が、すごい人だと僕は思います。

店主 そうだな。

創  そんな人が沢山いるなんて、『カマイシ』も捨てたもんじゃないですね。僕もだんだん『カマイシ』が、好きになって来ました。

鉱山の男 光栄なことだ。『カマイシ』の人を褒められるのは、誰よりもうれしい。

創  もしかして、あなたが水を売ることを考えた人ですか。

鉱山の男 まぁな。

創  すごいです。

鉱山の男 俺は、『カマイシ』を救うためなら、何度でも帰ってくる。

店主  『メイスケ』それ以上は、

創   『メイスケ』?

鉱山の男 悪かったな。ちょっとおしゃべりが過ぎたようだ。

創   おじさんたちは知り合いなんですか。

店主  …ちょっとな。

 地鳴りがする。

創  なんだか音がしますよ。大丈夫ですか。

店主 大丈夫とは言えないな。

創  脅かさないでくださいよ。

鉱山の男 都合よく死ぬのも、都合よく生き抜くのも、物語の世界だ。現実世界では、不条理にも突然、死んでしまうことだってある。

創  いやだな。驚かせないでくださいよ。

店主 でも、それが現実だ。

 地鳴りがひどくなり、揺れを感じるようになる。

創  地震?

店主 そのようだな。

創  怖すぎるよ。外にいるときの何倍も怖いよ。

店主 慌てたって死ぬときは死ぬんだ。

創  そんなのヤダ!

鉱山の男 俺たちは、いつも死と隣り合わせの仕事をしている。だから、生きていることの幸せも感じることができるんだ。

店主  平成の時代の人たちは、生きていることの素敵さを忘れてしまっている人が多いのかもしれない。

鉱山の男 死ぬのが怖いか。

創  …怖いというより、今死んじゃったら、悔しすぎるよ。

店主  悔しい?

創  これから、やりたいことがたくさんあるのに…。

鉱山の男 その気持ち、大事にしな。 

店主  そう思って死んでいった人たちがたくさんいるっていうことも…。

創  大丈夫かな?

店主 心配するな、お前のことは、俺たちが守る。

創  本当?

鉱山の男 たぶんな。

創  たぶんって?

地鳴りが大音響になる。創は、天井を見上げながら、大声で叫ぶ。

創  わぁぁぁぁ。

 暗  転


鉄鉱石の記憶⑫ ACT6 小川温泉(4)

2007-06-07 20:21:33 | インポート

ふわっと創と、店主が浮かび上がる。創が、目を開けると、そこは、元の鬱蒼とした景色の中だ。

店主  何を見てきた。

創   僕が何をしなければならないのか。

店主  辛い出来事だったか。

創   そうじゃないよ。昭和の想いを託されてきた。でも楽しい想いだったよ。

店主  そうか。この先は、辛い想いもあるかもしれない。それも受け止めてもらえるかな。

創   それが、僕の使命なら。

店主、小さくひとつうなづく。

店主  お前、昨日と違うな。

創   昨日と同じ人間なんていないよ。

店主  …やっぱり、お前なら託せそうだ。

創   何を?

店主  いや、俺たちが観られなかった未来を…。

創   未来を?

店主  そう。『カマイシ』の未来を…。

創   そんなに買い被らないで欲しいな。

店主  じゃあ、賭けてみるって云ったらどうだ。

創   それならいいや、はずれても良いんでしょう。

店主  そうだな。俺はあたるとみて、大博打をするつもりだ。

創   そこまで云われるとなぁ。僕は僕なんだし、僕以上のものにはなれないんだから。

店主  それに、12歳で気づくだけでも賭けてみる価値はある。

創   そうかな。

店主  …仙人峠に行くぞ。

創   引っ越して来たときに通った。あの、秘密基地のようなトンネルのところだね。

店主  いや、そのもっと上のところだ。鉱山があったところだ。

創   そこには何があるんだい。

店主  お前が持っている、その石の秘密が…。行こう。

創   はい。

 二人、鉱山の方角を見据えて歩き出す。

 暗  転


鉄鉱石の記憶⑪ ACT6 小川温泉(3)

2007-06-03 07:20:36 | インポート

 創、高台の場所から昭和の人たちが楽しげに過ごしている場所にかけていく。

 子どもにぶつかる。

創  あっ、すみません。

昭和の子2 なんだよ。せっかくいい感じに水あめ練ったのに、落とすところだったげぇ。

昭和の子1 あぶねぇよ。

創  ごめん。

昭和の子3 サエちゃん、あっちで、見世物小屋やってるべったら。行ぐべぇ。

昭和の子4 見世物小屋は見ねくていい。おら、今日、小人プロレスが見たくて来たんだげぇ。

昭和の子3 プロレスなんて、やんたごど。

昭和の子4 あら、そんな人は、静かにリリアンでもしてだらいいべったら。

創  何だ。話していることがぜんぜんわからないや。

昭和の子1 おまえ、このへんのやづじゃねぇな。

創   まぁ。最近転校してきたんだ。

昭和の子2 気にすんな。釜石はよそ者がほとんどだべったら。すぐ、仲間にしてやっからよ。

創   ありがとう。

昭和の子2 『黄金バット』みにいぐべ。

創   『黄金バット』?

昭和の子1 紙芝居だ。どこから来るのか、コウモリだけが知ってるんだげ。

創   そうなんですか。

昭和の子2 『黄金バット』『赤バット・青バット』『巨人、大鵬、玉子焼き』とくらぁ。

創   何かの、おまじないですか。

昭和の子1 流行に乗ってないねぇ。兄ちゃん。

昭和の子2 まずは、仲間になるためには、流行に乗らなきゃな。

昭和の子1 う~ん。もうれつぅ。イカスね、にいちゃん。

創   この掛け合いの雰囲気、聞いたことがあるような気がする。

 昭和の子たち、猛烈な勢いで水あめを練り始める。あまりの手際のよさに、創、しばらく呆然と眺めてしまう。が、ふと本題の目的を思い出す。

創   そうだ、『大島高任』っていう人のこと、知っていますか。

昭和の子1 モチのロンさ。

昭和の子2 製鉄の父、カマイシで近代製鉄を始めた人さ。

昭和の子1 高任さんがいなければ、今の釜石はないってわけだ。

創   ということは、この温泉の賑わいもないって言うことだ。

昭和の子1 そのとおり、アタリキシャリキのコンコンチキよ。

創   なるほど、だから『昭和の遺産』であって、『高任の遺産』なわけだ。

昭和の子2 さっきから『イサン』『イサン』って、胃の具合でもわりいのか。

創   大丈夫。心配してくれてありがとう。

昭和の子1 毎日が日曜で、こんな日がずうっと続けばいいな。

昭和の子2 続かねえよ。

昭和の子1 えっ。

昭和の子2 だから、こいつが来たんだろう。

創   えっ。

昭和の子2 未来の俺たちは何ていっていた。

創   未来の俺たちって…。

昭和の子1 甲子川あたりで、のんびり釣りでもしているんじゃないか。

創   やっぱり、あの二人は…。

昭和の子2 何ていっていた、俺たち。

創   俺たちは行き先を見失った…って。

昭和の子1 何だよそれ。かっこわるいな。

昭和の子2 辛そうだったか。

創   そうでもありませんでしたよ。楽しそうに釣りをしていました。僕には、その平和さが退屈なように見えました。

昭和の子2 案外、俺たちは幸せなのかもしれないぞ。

昭和の子1 何でだよ。

昭和の子2 『昭和の遺産』を受け継いで、楽しく暮らせていけるんだ。戦争もない、大きな災害もない、そんな街で暮らしていけるんだ。

昭和の子1 ずうっと、お祭りのしっぱなしか。…そりゃぁ、悪くない。

昭和の子2 未来のカマイシは、どうなんだい。

創   寂しい町になってきているみたい。

昭和の子1 どんどん人が増えて、東京みたいになるんじゃないの。

創   そうじゃない。

昭和の子1 聞かなきゃよかった。

創   戦争や、津波なんかにも負けないでがんばってきた、そんな昔の強い人たちみたいになりたいと思っている。でも、戦う相手が見えない、負けないぞってっ言っても、何に負けないぞなのか、わからない。日本全体がそうなんだけどね。

昭和の子2 かえって辛いな。

昭和の子1 見えないのか、お化けと戦っているみたいだな。

昭和の子2 でも、お前はここに来た。ここで何かを見つけて、新しい未来を創るために。

創   そうなのかな。

昭和の子たち 未来を頼む。

 昭和の小川温泉の風景が静かに溶けてゆく。

 暗  転