舞台後方の小高い場所で、創が目を覚ますと、店主(タカトウ)と鉱山の男(メイスケ)がその傍らに立っている。
タカトウ 何を見た。
創 この石の記憶。
タカトウ どうだった。
創 悲しい記憶だった。この石が、僕に、死んでいった人たちの想いを見せてくれたん
だ。
タカトウ そうか。
創 そして、思い出したんだ。鉱山で足を悪くしたっていう曾おじいさんお話を。
メイスケ どんなことだ。
創 国が違っても、心でつながった人はずうっと友達だって…。
メイスケ 心でつながった仲間か…。
創 この石は、大切なものだと思っていたけど、こんな想いの記憶を持っているなんて
知らなかった。
タカトウ 気にするな、お前のせいではない。
メイスケ 時はすさんだ記憶も洗い流してくれる。しかし、大切な記憶も一緒に流してしまう
ものなのだ。ここで、その記憶を確かめることができたことで、鉱山で亡くなった人の
想いはまたよみがえることができたのだ。タカトウ まだまだ、沢山の想いと願いがこ
の街には残されている。酷なことかもしれないが、君にはその意志をついで、この街
を再生させてもらいたい。
創 想いを感じることはできたよ。でも、僕にどうしろっていうんだい。
タカトウ 核になる意志をしっかり持って居る人がいれば、自然と人は集まってくる。
メイスケ 俺は戦うことしかできなかったけれども…
タカトウ 俺は作ることしかできなかったけれども…
メイスケ 君は君自身の方法で、新しい未来を切り開いていってほしい。
タカトウ これが、俺たちが君に伝えたかったこと
メイスケ・タカトウ 俺たちの遺志だ。
創 あなたたちはいったい。
タカトウ 『カマイシ』をこよなく愛し、死んでいった男たちとでも云ったらいいかな。
メイスケ たくさんの人たちの想いが集まって形になった存在とでも思ってもらえればい
い。
創 この世の人たちじゃないんですね。
タカトウ そうだ。
メイスケ 怖いか。
創 そんな感じはありません。二人とも暖かいし…。
メイスケ 暖かいか。
タカトウ 意志をついでくれるか。
創 はい。…と、云いたいところですが、お断りします。
タカトウ 何だと。
創 僕には僕自身の人生があります。僕の人生は自分で決めたいんです。
タカトウ ……。
創 僕に過去を見せてくれたこの鉄鉱石の本当の持ち主の意志、『カマイシ』の、未来を
託したいという、あなたたちの願い、それらは十分に受け止めました。
メイスケ だったらなぜ。
創 だからこそです。皆さんは自分たちの力で未来を切り開いてきた。自分たちで考
えて…。僕も、仲間たちと一緒に、自分たちの未来を作って生きたいんです。
メイスケ 予想以上だったな。
タカトウ そうだな。
メイスケ しかし、俺たちが見込んだだけのことはある。
タカトウ 言葉だけではない、本当の意味で俺たちの意志を受け継いでもらえた気が
する。
メイスケ もう、好きにしろ!
タカトウ 行け。俺たちの想いを負担に思うことはない、自分の思うままに未来へ向か
って…。
創 はい。ありがとうございます。『オオシマタカトウ』さん。そして…。
メイスケ 『メイスケ』だ。『ミウラメイスケ』だ。
創 『メイスケ』さん。ありがとう。
創、笑顔で二人を見比べる。