ガタコン、ガタコン。トロッコの音が聞こえる。
明かりがつくと、トロッコに乗った店主と創がいる。
トロッコの前の部分には、運転をしている鉱山の男が一人いる。
創 あのぉ。
店主 何だ。
創 どこへ行くんですか。
店主 地の底だ。
創 地の底?
店主 ここは、昔の坑道跡で、この先では今は水を汲んでいる。
創 水を?
店主 昔、ここで鉱石を掘っていた人たちにとって、水は天敵だった。水が湧き出すと、思うように鉱石は掘り出せない。その水が、鉱石が掘り出せなくなった今では、商品価値が一番あると言うのだから皮肉なものだ。
創 それって、水を売ろうと考えた人が偉いんじゃないですか。
店主 えっ。
創 邪魔なものだって思っていたものが売れるって考えた人が、すごい人だと僕は思います。
店主 そうだな。
創 そんな人が沢山いるなんて、『カマイシ』も捨てたもんじゃないですね。僕もだんだん『カマイシ』が、好きになって来ました。
鉱山の男 光栄なことだ。『カマイシ』の人を褒められるのは、誰よりもうれしい。
創 もしかして、あなたが水を売ることを考えた人ですか。
鉱山の男 まぁな。
創 すごいです。
鉱山の男 俺は、『カマイシ』を救うためなら、何度でも帰ってくる。
店主 『メイスケ』それ以上は、
創 『メイスケ』?
鉱山の男 悪かったな。ちょっとおしゃべりが過ぎたようだ。
創 おじさんたちは知り合いなんですか。
店主 …ちょっとな。
地鳴りがする。
創 なんだか音がしますよ。大丈夫ですか。
店主 大丈夫とは言えないな。
創 脅かさないでくださいよ。
鉱山の男 都合よく死ぬのも、都合よく生き抜くのも、物語の世界だ。現実世界では、不条理にも突然、死んでしまうことだってある。
創 いやだな。驚かせないでくださいよ。
店主 でも、それが現実だ。
地鳴りがひどくなり、揺れを感じるようになる。
創 地震?
店主 そのようだな。
創 怖すぎるよ。外にいるときの何倍も怖いよ。
店主 慌てたって死ぬときは死ぬんだ。
創 そんなのヤダ!
鉱山の男 俺たちは、いつも死と隣り合わせの仕事をしている。だから、生きていることの幸せも感じることができるんだ。
店主 平成の時代の人たちは、生きていることの素敵さを忘れてしまっている人が多いのかもしれない。
鉱山の男 死ぬのが怖いか。
創 …怖いというより、今死んじゃったら、悔しすぎるよ。
店主 悔しい?
創 これから、やりたいことがたくさんあるのに…。
鉱山の男 その気持ち、大事にしな。
店主 そう思って死んでいった人たちがたくさんいるっていうことも…。
創 大丈夫かな?
店主 心配するな、お前のことは、俺たちが守る。
創 本当?
鉱山の男 たぶんな。
創 たぶんって?
地鳴りが大音響になる。創は、天井を見上げながら、大声で叫ぶ。
創 わぁぁぁぁ。
暗 転