崖の男が、ふわりと暗闇の中に消えてゆく。
それと、入れ違いになるかのように、高台の場所に、創が現れる。かなり疲れた様子で、肩で息をしながらやってくる。ひざに手をやり、息を整えてから、前を見た創は、店主の存在に気がつく。
創 駄菓子屋のおじさん?
店主 おぅ。よく、ここまで来たな。
創 ちゃんと、約束の場所に居てよ。
店主 悪かったな。ちょいと、野暮用があってな。
創 おじさん。『タカトウ』って言う名前なの。
店主 昔な…。
創 今は違うの。
店主 いまは、駄菓子屋のおっちゃんだ。
創 バスの運転手さんに聞いたんだけれども、ここにくれば『高任の遺産』が、あるって。
店主 『高任の遺産』ねぇ。
創 『昭和の遺産』ともいっていた。
店主 『昭和の遺産』ねぇ。
創 そんなものがここにあるの?
店主は、崖に覆い被るように生えている蔦をさっとよけた。そこには、色彩豊かなレリーフが現れた。
創 すげぇ。これは、昭和時代に作られたものですか。
店主 そうだ。
創 忘れ去られた文明を見つけたような感じですね。
店主 そういわれれば、そうかもしれないな。
創 これが、『昭和の遺産』なんですね。
店主 これが、というわけではないだろう。
創 じゃぁいったい…。
店主 探せば出てくるよ。目を閉じてイメージしてごらん。
創、イメージしてみる。蔦がさぁっと、無くなり見事なレリーフの全容が見えてくる。動物園の小屋のようなものがあちこちに現れる。土産物屋、屋台などどんどん現れて、周囲が活気付く。
舞台前面で、踊りが繰り広げられる。
創 これが、昭和の『小川温泉』?
店主 製鉄所の繁栄で、活気があった時代のこの場所だ。
創 そうか、このレリーフがというより、この場所全部が『昭和の遺産』なんだ。それが、どうして『高任の遺産』なんだ。
店主 大島高任という人のことを知っているかい。
創 知らない。
店主 その辺りにいる、昭和の子たちに聞いてごらん。
創、高台の場所から昭和の人たちが楽しげに過ごしている場所にかけていく。
子どもにぶつかる。