小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

政府の赤字は国民の黒字 財務省を信じず、MMTを学ぼう 

2020年07月21日 22時51分06秒 | 経済


以下の文章は、産経WEBからの求めに応じて書かれたもので、MMTについての両論併記として掲載され、新聞紙上にも載るそうです。相手は財務省系。この期に及んで何を書くのか楽しみですが。

コロナ禍は人災である。ここでコロナ禍とは、疫病による感染者、重症者、死者の増大を意味するのではない。政府・自治体の自粛要請に国民の大多数が積極的に従ったことによる恐るべき経済的ダメージのことだ。
すでにこのダメージの結果は歴然と出ている。4月の鉱工業生産指数は前月比で9.1%落ち込んで、これは東日本大震災の時よりも悪くなっている。日銀短観は3月がマイナス8ポイントであったのに対し、6月ではマイナス34ポイント。1~6月の輸出は、前年同期比でマイナス15.4%、輸入はマイナス11.6%。
帝国データバンクによると、今年の倒産件数は1万件を超し、自主的な休廃業などは、2万5千件と言われている。8月に4~6月期のGDPが出るが、目もくらむような下落が予想される。そして忘れてはならないのは、昨年10月の消費税増税によって、すでにGDPがマイナス7.1%という驚くべき落ち込みを見せていることだ。
このまま行くと日本経済は大恐慌に突入することが確実なのだ。
これに対処する方法はあるのか。政府はコロナ対策として第2次補正予算を組み、ようやく32兆円の真水を注入することを決定したが、こんな程度で足りるはずがない。
自民党の安藤裕衆議院議員が会長を務める「日本の未来を考える勉強会」議員連盟では、国債100兆円の発行と、消費税をすべての名目で0%にすることを提唱している。来るべき恐慌への備えとしては、これは当然と言っていい最低限の提案だ。加えて25年も続いた長期デフレから脱却し、政府が目標としていたゆるやかなインフレ(2%)を達成するには、こうした措置をさらに継続させる必要があるだろう。

さてこうした一見大胆な提案がなされると、必ず出てくるのが次の二つの疑問である。
①すでに「国の借金」が1000兆円をはるかに超えているのに、そんなに財政出動を拡大させたら財政破綻するのではないか。
②消費税をゼロにして、税収減を何によって補うのか。大胆な財政出動の財源はどうするのか。
これらの疑問は、財務省が長年国民を騙してきたデマに発するものだ。このデマの浸透は徹底していて、一般国民は言うに及ばず、政治家、学者、マスコミがこぞって緊縮財政を支持する羽目になってしまった。ところが財務省自身のホームページには、なんと、国債の発行によって財政破綻することはあり得ないと書かれているのだ。

昨年、MMT(現代貨幣理論)が日本に〝上陸〟し、上記の疑問がすべて根拠のないものであることを証明してみせた。
まず「国の借金」と呼ばれるものの正体は、政府がこれまで市場に資金供給してきた額の履歴に過ぎない。つまり返す必要のないお金であって、それはそのまま民間の預金として計上される。帳簿上、赤字とされはするが、政府の赤字は民間の黒字なのだ。
そうは言っても負債は負債なのだから、期限が来たら返さざるを得ないだろう、将来世代にツケは残せないと普通の人はつい考えてしまう。誰もが知っているテレビの売れっ子で、評論家まがいの人々も同じ間違いを垂れ流して、国民の思い違いを絶えず助長している。しかし事実はそうではなく、期限が来たら、古い国債を新しい国債に取り換えるだけなのだ。
したがって、政府は今回のような緊急時に限らず、いつでも必要十分なだけ国債を発行することができ、税収に頼る必要などないのである。なぜそんなことができるかと言えば、政府には通貨発行権があるからだ。ただし、これはMMTがしつこく断っていることだが、国債発行にまったく制約がないのかと言えば、そうではなく、インフレ率がある水準を超えた場合(たとえば5%以上)には、発行を抑制する必要が出てくる。市場に貨幣があふれ、貨幣価値が下落し物価が高騰して国民生活が苦しくなるからだ。
しかし、もしこういう事態になったら、デフレ期に増税をするという愚か極まる政策(インフレ対策)を取ってきた政府にとって、物価高騰の抑制は得意中の得意なのだから、日銀と二人三脚で、増税をしたり、国債の売りオペによって市場の余剰貨幣を吸い上げたりすればよいわけだ。

ところで、「財源」の問題である。大多数の国民は、国の歳出は税収によって賄われていると思っているが、これは大きな誤解である。「社会保障の充実のために増税がどうしても必要だ」などと言われると、ただでさえここ25年間実質賃金の低下で苦しんできた国民も、さらなる徴税をしぶしぶ我慢してしまう。こういうバカな目にあわされるのは、税収が国の歳出を支えているという誤解から抜けきれないからだ。
すでに述べたように、インフレ率という制約以外に、国債発行額に上限はないのだ。現に今年度の予算(一般会計)のうち、税収(63兆円)の占める割合は、49.5%と、半分を割り込んでいる。おまけに特別会計予算もある。歳出合計は約250兆円で、これを加えて考えれば、税収から支出されているのは、約四分の一に過ぎない。
そして、こちらの方が大事なのだが、MMTでは、スペンディング・ファーストと言って、ある年の税収を実際に使う前に、財務省は短期証券のかたちで日銀からお金を「借り」、どんどん先に使っていることを指摘している。これもまたただの事実である。
税の機能は、国の歳出に充てるというよりも、「円」という通貨単位での納税を政府が認めることによって一国の経済活動を保証すること、および、景気の動向の調整のために増減税を行なうこと、そして所得の再分配、などである。
消費税をゼロにしても、政府は少しも困らない。その分だけ国債で補えばよい。現在のような緊急時こそこの措置がぜひ必要である。年収220万円の人は、年間200万円を消費し、20万円を消費税で取られるところを、消費税20万円も消費に回せるのだ。しかも政府に吸収されている全額が市場に出回り、その分だけ国民の経済活動は活発になる。

 MMTの基本は事実を述べているだけで難しくない。ぜひこの機会にマクロ経済の基本を学びましょう。


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