小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

コロナ騒ぎで頭の病が悪化したインテリ愚民(その1)

2020年04月30日 00時14分32秒 | 経済



4月7日に新型コロナ対策として緊急事態宣言が発出され、3週間がたちました。
この間に筆者から見て、じつに下らない・間違った・腹立たしい主張や行政措置があふれかえりました。
これには大きく分けて、二つの流れがあります。
一つは、消費税減税や財政出動にブレーキをかけようとするもの、もう一つは、国会議員や公務員の所得を削減させようとするものです。
今回は、初めの流れを扱います。

筆者が触れ得た限りで、一つ一つ批判して、その考え方を潰していきたいと思います。

まず初めの例。
https://president.jp/articles/-/34145
これは緊急事態宣言よりも前の4月1日に、東京財団政策研究所の森信茂樹氏が「コロナショックに『消費減税』をしてはいけない4つの理由」と題して発表したものです。

第1に(中略)消費税を減税するには、経過措置の規定など多くの改正法案作成作業が必要となる。補正予算を組むだけで対応できる給付金と比べて、はるかに時間を要する。

消費税を5%に減税するならたしかに時間がかかります。
しかし私どもは、消費税をゼロにすること(当面でも廃止でもよい)を提案しています。
ゼロにするなら、国会さえ通れば、あとはレジの消費税記録の機能をオフにするだけで済むので、手続き上も極めて簡単です。
そしてその経済効果は計り知れません。
何しろ国家が吸い上げている1割がなくなるのです。
たとえば年収200万円の人はほとんど消費に使ってしまうので、20万円分だけ消費を増やすことができます。
生産者・事業者のほうも、その分だけ売り上げを伸ばすことができるでしょう。

第2に、減税までの消費の手控え、元に戻す際の駆け込みなど、余分な経済変動、不安定化が生じる。

「余分な経済変動、不安定化」とは屁理屈を考えたものです。
だいたい、いままさに多くの事業者・従業員が倒産や失業の憂き目にあっている時に、「元に戻す」際の心配をしてどうするのですか。
そんな程度の「経済変動」は、かえって増税の際に起きたではありませんか。
しかし昨年の10月の増税の最終結果は、▲7.1%というもの凄いGDPの落ち込みでしたよ。

第3に、新型コロナ問題が広がる中で、経済的な被害の少ない方がおられる。(中略)つまり消費税減税は、お金持ちほど優遇されるということになる。

あのね、中略部分であなたも言っている通り、消費税はもともと貧困層に厳しく富裕層に優しい逆進性を持っています。
貧困層は消費性向が高く、富裕層は低いからです。
消費税が減税またはゼロにされることで一番助かるのは日々の暮らしに追われる貧困層なのですよ。
中略部分で、森信氏は「お金持ち」の買い物の例として車やマンションを挙げています。
高い車やマンションを買うことで消費税がかかろうがかかるまいが、富裕層だったらそんなに気にするはずがないでしょう。
第一、車やマンションは富裕層だけのためにあるのではありません。
中間層、中の下くらいの人たちが、なけなしの資金と高いローンでささやかな車や家を買おうとしても、高額の消費税のために諦めてしまう可能性を考えたことがありますか。

最後に、消費税の持つわが国における政策的な意義である。消費税は、全世代型社会保障の切り札で、とりわけ幼児教育・保育の無償化など、わが国の働き方改革、少子化対策を進めていくための貴重な財源となっており、すでに使われ始めている。

これは民主党政権や安倍政権が消費税を正当化してきたウソ八百です。
増税分など、財務省の財布に入ってしまえば、あとは何に使われるかは、勝手次第。
もし増収分を何かに充てているとすれば、たぶん国債と利子の返済の足しにしているだけです。
そもそも税収で国の歳出を賄っているという考えが間違いなのですよ。
いいかげんに政府が垂れ流してきたウソの上塗りはやめませんか。


次です。
https://drive.google.com/file/d/1rIVefx56JpIcmVqhWNzACl3269mb8WHK/view
これは4月6日に政策研究大学院大学の林 文夫氏が「政府コロナ緊急経済対策の批判と私の提案」と題して発表したものです。

政府がすべきことは、損害額である家計所得の損失を確定し、保険金を各個人に支払うことだ。(中略)
では損害額はいつ、どう確定するか。私の提案は、確定は来年の確定申告時、損害額は、2020 年の申告所得から「ショックがなかったときの所得」を差し引いた額とする。


浮世離れしたことを言う人です。
世帯当たり30万円給付の話が出た時にも、線引きの難しさが一つの理由となって、個人一律10万円となったのに、家計所得の損失をどうやって計算するのか。
世帯ごとに割り出さなくてはならず、大変な手間がかかるでしょう。
それに、申告に任せるなら、「ショックがなかったときの所得」をいくらでも誇大に計算できます。
それをどうやって予防するのか。
「確定は来年の申告時」とはまた悠長な話です。
繰り返しますが、自粛で倒産、廃業、失業の危機に直面しているのは、いまなのですよ。

いうまでもなく、企業は、規模の大小にかかわらず、個人が所有している。個人が補償されるのだから、企業への現金給付は、企業の所有者に重複して補償することになるので、不公平だ。

これはとんでもない話です。
企業は企業主の家計だけではなく、経営のために営業所の家賃、従業員の給料、リース料など、多くの固定費を負担しています。
会社は社長個人の所有物ではありません。
この人は、法人の所有と個人の所有との区別もついていないらしい。

政府による保険金支払いの財源は、消費税率の少なくとも数年間にわたる引き上げだ。赤字国債を財源にするのは、将来の現役世代が負担することになり、効率性の原則に反する。

ほら、やっぱり財源を気にしてる。
しかもそれを消費税率の引き上げによって果たすというのです。
消費税を今後も引き上げる計画が財務省や一部の学者・エコノミストにあることは、コロナ以前から知られていましたが、コロナショックによって、貧困層の莫大な増加が見込まれる現在、追い打ちをかけるようにその考えを持ち出すとは、血も涙もないとしか言いようがありませんね。
そして、「赤字国債を財源にするのは、将来の現役世代が負担することになり」という財務省発の決まり文句。
国民がどんなにこのデマに騙されてきたか、わかっているのか。

コロナショックは、マクロ経済学でいう供給ショックの一種だ。供給ショックによる不況に対しては、需要刺激策は限られた効果しかない。しかもこのショックは感染が終息すれば確実に消失する。(中略)終息後はリベンジ消費で飲食店や行楽地に人々が殺到する。経済は放っておいてもV字回復する

どうして需要刺激策に限られた効果しかないのか。
いま消費増税によって需要が極端に縮小したところにコロナショックがやってきました。
この過剰な自粛要請によって生じているのは、供給のストップである以前に需要のストップです。
いや、この際両者を「マクロ経済学」などという煙幕を張って、供給と需要に二分するレトリックでごまかすこと自体が非常に欺瞞的です。
需要のストップが同時に供給もストップさせているのが、いま起きている事態です。
つまり市場が成立しないという国民経済全体の危機なのです。
それをまあ、終息後のリベンジ消費などと妄想を膨らませていますが、そのリベンジのための消費力はどうやって回復させるのですか。
林氏の頭の中は、アダム・スミスの「神の見えざる手」でいっぱいのようです。
この際、お古い「経済学者」には退陣していただきましょう。

次です。
https://webronza.asahi.com/business/articles/2020042100003.html?page=3
4月22日付朝日新聞編集委員の原真人氏。
もし給付が2回、3回と続けざるを得なくなると、必要財源も25兆円、38兆円……と膨らんでいく計算だ。財源はいずれ増税して工面するとしても、当面その全額を赤字国債(新たな政府の借金)に頼らざるを得ない。米国や欧州各国も巨額の対策費が必要になっている点では日本と同じだ。ただ、財政が相対的に日本より健全な分だけ、新たな借金はしやすい。(中略)今後のコロナ対策(所得補償や休業補償)費用が膨らめば、指数はさらに悪化する。日本国債の暴落が起きてもおかしくない状況だ。たしかに日銀がお札(電子的発行も含め)を刷りまくって国債を買い支えれば、国債価格の下落は止められる。だが、次は日銀が信認を失うリスクが高まる。そのときは円暴落だ。円が暴落すれば、物価が数百倍、数千倍となるハイパーインフレとまでは言わなくとも、物価が一気に何倍にもなるリスクは非現実的とは言えない。

これが有名な朝日新聞経済部の原氏です。
一読、この人のご説が、いまや古典と化した財務省べったりの緊縮論であることは瞭然としています。
そもそも使っている用語がそれを表していますね。
「政府の借金」「財政が日本より健全」「国際の暴落」「日銀の信任」「円の暴落」「ハイパーインフレ」と続きます。
いまコロナのような緊急事態で、飲食業やこれに関係した各業界のみならず、あらゆる民間企業、特に中小企業は、市場の崩壊の危機に悲鳴を上げています。
そんな中にあってさえ、政府の財政危機を訴えるその古典主義を崩さない頑迷さ。
こういうのを「蛙の面に水」と言います。
日本は変動相場制を採用して独自通貨発行権を持つ国ですから、必要に応じていくらでも円や国債を発行できるので、過度のインフレに気をつけること以外に財政問題はありません。
ちなみにご心配の円や国債の暴落(つまり超インフレ)については、その兆候が仮に見えれば、そのときこそ、政府、日銀の得意技である政策金利の調整や増税によって容易に解決できます。
と、何度言ってもわからないのでしょうね。
何しろこの人は経済がまったくわかっていないのですから。
今度書いていることを読んで、その事実をまた発見してしまいました。
そう、「米国や欧州各国も巨額の対策費が必要になっている点では日本と同じだ。ただ、財政が相対的に日本より健全な分だけ、新たな借金はしやすい」と言っている部分です。
えっ!? 欧州各国の財政が相対的に健全ですって?
欧州各国はユーロ圏の支配下にあって、金融政策の自由がなく、ために緊縮を強いられ、ギリシャ、イタリア、スペインのようにすごい失業率や借金で苦しんでいることも知らないの!
つまり原氏は一国の経済を考えるのに、「政府の負債」のGDP比のことしか頭にないんですね。
日本の場合、「政府の負債」つまり国債の累積額は、実は借金ではなく、財政支出の累積額のうち、税金で取り戻せなかった分の履歴にすぎません。
帳簿上、一応日銀からの「負債」という形を取りますが、これは政府が通貨発行権を使って拠出した貨幣供給残高です。
だから本来返す必要なんてないんですよ。
でもユーロ圏諸国では、ユーロは外貨と同じですから、イタリア政府がユーロで(たとえばドイツから)借金すればまさにそのまま「借金」です。
嗚呼、朝日新聞経済部編集委員・原氏よ、せめて欧州各国と日本の財政事情の違いくらいは理解してね。

昨年話題になった「MMT」(現代貨幣理論)。政府の借金はいくら膨張しても問題ない、というその考えに賛同する政治家や学者はいまもいる。それを支持する国民もけっして少なくない。増税も社会保険料の負担増もなく、社会保障が充実できる。いいところ尽くしに見えるこのMMTは、政治的プロパガンダにするのにもってこいなのだ。コロナショックに乗じて、再びこれが盛り上がることも予想される。現実には、コロナ後、世界経済が正常化したとき、日本の財政悪化に市場の注目が集まらないとは言えない。弱い国家を投機の標的にしようという勢力は常に存在する。いちど標的になれば、国家といえども抵抗は難しい。
そら出ました、MMT。
「増税も社会保険料の負担増もなく」とか言ってるところに、この人がMMTなど理解していないことがよくわかります。
増税は必要な時がありますよ。
さっき言ったように、インフレが過熱気味になった時に景気を安定させるためにやるのです。
MMTはもちろんそれを認めています。
社会保険料の負担増もありますよ。
高齢社会で、年金の支払額が増えますから、特別会計の中から捻出します。
でも少子化で国民からの年金料が減ったら、通貨発行で補えばよい。
福祉国家としての義務を、税金や年金料の増額や支払時期の延期などで国民に押し付ける必要などないのです。
そうして、今のように国民が困窮している緊急時こそ、MMTの出番なのです。
原氏は、机上で学んだ間違った「経済学」と、財務省の陰謀の穴にハマって、ただ財政は税収という限られたパイの中で処理し、そして国債の発行は「国の借金」だから必ず返さなくてはならないもの、と思いこんでいるのですね。
だから、こんなに国民が苦しんでいる時にも、平然と、「ハイパーインフレ」の心配などにうつつを抜かしていられるのです。
最後に一言。
「弱い国家を投機の標的にしよう」とありますが、「弱い国家」って何ですか。
抽象的で意味不明です。
日本政府は中国に次いで、世界第2位の外貨準備国で、ユーロ圏全体をはるかに上回っています。
こういう重要なファクターも「強弱」概念に含めて語ってくださいね。

次です。
https://news.yahoo.co.jp/byline/takerodoi/20200421-00174484/
慶応大学教授・東京財団政策研究所上席研究員・土居丈朗氏が4月21日に発表した論考。
彼のアホぶりは夙に有名ですが、以下のグラフを掲げて、「ワニの口」が塞がらなくなったことだけを
嘆く、まさに「開いた口が塞がらない」論考です。



時系列で国の一般会計歳出と税収の金額を折れ線グラフを、いわゆる「ワニ口グラフ」と呼ぶ。記事冒頭のグラフがそうである。ワニの上あご(赤線)が歳出総額で、下あご(青線)が税収である(2018年度まで決算ベース、2019年度以降は補正後予算ベース)。この両者で描かれる形がワニの口に見えることからその名が付いた。(中略)2020年度補正後予算ベースでみると、一般会計歳出総額は128.3兆円と断トツで過去最高額となり、上あご(歳出総額)が上に突き抜けて、もはやワニの口は崩壊したかのようである。(中略)2020年度補正予算で、「ワニの口」はもはやその体を成していない様になってしまった。
これはもう、歳出総額と税収との開きばかりを気にしている、ただの事務屋さんと言うべきで、経済学者と呼ぶのははばかられますね。
でも、財務省は、こういう知的肩書を持った人の存在を必要としているのでしょうね。
グラフを睨みながら、「ワニの口が塞がらない!」と叫び続けてそれ以外のことは目に入らない。
あるべきコロナ対策、長年にわたる緊縮財政の結果起きている医師や感染症病棟やベッド数や保健所の削減、過剰自粛による実体経済の崩壊の危機、今後間違いなくやってくる第2世界恐慌――こうしたことはどうでもいいらしい。
こういう緊縮真理教の信者には、今後あまりメディアに出てきてほしくないと思います。
特にこうした緊急時には、百害あって一利なしですから。
土居氏に一つだけ教えてあげましょう。
ワニの口が開いたということは、国債が大量に発行されたことを意味しますから、国民にとってきわめて慶賀すべきことであって、国債の発行残高は、そのまま国民の預金になっているのです。
政府の赤字は民間の黒字」――よく噛みしめてください。
それにしても、慶応大学経済学部という名門で、この人は何をどんなふうに教えているのか。
学生がかわいそうだな――ふとそんなふうに思ってしまいます。


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