小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

才能を潰すのが得意な日本

2017年12月19日 19時41分17秒 | 思想




以前このブログに、「日本からはもうノーベル賞受賞者は出ない?」という稿を寄せました。
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/603daae0577228b755eb3d939b65c499

ノーベル賞受賞者で京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥さんが「ご支援のお願い」として寄付を募っているのです。
驚くべきことに、そのなかで山中さんは、「弊所の教職員は9割以上が非正規雇用」と書いていました。研究所の財源のほとんどが期限付きだからです。
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/fund/

10年、20年という長期間を要する基礎研究に、政府や大学は十分な資金を与えず、しかも短期間に成果を出す研究のみを優遇する方向にシフトしています。

非正規雇用では給料が不十分なだけではなく、安心して研究に打ち込めません。それで、若い優秀な人たちが基礎研究を諦めてしまう傾向が増大しています。

12月13日18時ごろのNHKラジオ番組に、一昨年、ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さんが出演していました。
梶田さんは、ニュートリノが質量を持つことを示す「ニュートリノ振動」の発見という偉大な業績を成し遂げた方です。

この番組で、梶田さんは、自分が若い頃は、カミオカンデなどの巨大な装置による実験を長いこと繰り返し、結果を理論にまとめ上げることが可能だったが、最近は、基礎研究に取り組もうと思っても期限付きの研究費しか得られないので、若い人たちが自分の若い時のように、腰を据えて研究に集中することができないと、山中さんと同じことを話していました。

この問題は、自分たちがいくら頑張ってもどうすることもできない。できるだけ広くみなさんにこの事情を知ってもらうほかないと、切々と訴える梶田さんの声が、今も耳に残っています。

12月5日には、日本のスパコン開発の第一人者・齋藤元章さんが詐欺容疑で逮捕されました。

齋藤さんは天才です。
2014年に株式会社ExaScalerを立ち上げ、理化学研究所(RIKEN)および、高エネルギー加速器研究機構(KEK)と共同研究契約を結び、わずか七カ月で「Suiren」を開発します。これが、スパコンの省エネ性能を競うGreen500で2位にランクイン。
2015年には、同じくGreen500)で、RIKENの「Shoubu」、KEKの「Suiren Blue」および「Suiren」の3台が1位から3位までを独占します。

2017年1月には、科学技術振興機構(JST)が、未来創造ベンチャータイプの新規課題の緊急募集に、ExaScalerのスパコンが採択されたと発表。
開発期間2017年1月から12月まででしたが、齋藤さんは、その締め切り直前に逮捕されてしまいました。

逮捕容疑は、技術開発助成金を得るのに、報告書を他の研究目的に書き換えて四億円程度の水増し請求をしたというもの。
もちろん容疑が事実なら、いいとは言いませんが、まだ実際に四億円をもらったわけでもないし、他の研究者の言によれば、この程度のことは日常茶飯事だそうです。取り組んでいる仕事の重要性に鑑みれば、注意勧告して書き直させれば済む話でしょう。
齋藤さんは、天才肌にありがちな、アクの強い人ですから、誰かにねたまれてチクられたのかもしれません。

それにしても、なぜこういうことになるのか。
政府が先端技術研究のための資金を出し惜しみ、国家的プロジェクトに十分なお金をつぎ込まないからです。

齋藤さんは、雑誌『正論』2017年2月号で、次のように訴えています。

このままでは日本はスパコンで中国に負けてしまう。中国が一位になると、エネルギー、安全保障、食料、医療、自然災害対策など、すべての面で中国に支配されてしまいかねない。自分たちのプロジェクトのためにせめて三百億円の資金がほしい。

国家の命運がかかっている問題で、政府がちゃんと技術開発投資をしないから最高の頭脳を潰すことになるのです。これによる日本全体の損失は計り知れません。

三橋貴明さんの著書の題名ではありませんが、こうして財務省の緊縮路線が日本を滅ぼします

日本は江戸時代以来の倹約道徳教国家で、いつも小さなことを大げさに騒ぎ立てて、物事の優先順位を間違えます。

さらに想像をたくましくすれば、逮捕した東京地検特捜部にも反日勢力が入り込んでいるのではないか。
つい数日前も、リニア新幹線の工事をめぐって、大手ゼネコン四社が談合の疑いで特捜部の捜査を受けました。これでリニア新幹線工事はまた遅れるでしょう。
齋藤さん逮捕にしてもリニア新幹線にしても、某国の勢力が手をまわしているという陰謀論に与したくなります。

もしそうでないとすれば、東京地検特捜部や公取委は、大局を見失い、正義漢ぶって摘発教条主義に陥っているのです。
亡国を目指す官庁がまた増えました。