内的自己対話-川の畔のささめごと

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生成する生命の哲学 ― フランス現象学の鏡に映された西田哲学 第二章(五)

2014-03-25 00:00:00 | 哲学

1.4 自己自身を対象化することによって働くもの

何処までも自己の中に自己否定を含み、自己否定を媒介として働くものというのは、自己自身を対象化することによって働くものでなければならない。

 この第三のテーゼは、第二のテーゼから導かれる。後者が示しているのは、真実在は、自らがそれによって形成される質料をいかなる仕方でも前提としないということである。真実在にとっての所与というものは存在しない。真実在は、全的に自らに自らを与え、自らを自らに与える。真実在は、自ら自らのために全的に自己否定する。探求されるべきなのは、自らを対象として自らに対して表象するものではなく、対象化しえないもの、つまり対象化を本質的に逃れるものである。いわば対象なき知がここで問題なのである。しかし、このことは、西田の哲学的方法が対象化されたあるいは対象化されうるものの彼方あるいは手前に隠蔽されているものを、さらには隠れながら現れるものあるいは現れながら隠れるものを探求することを目的としているということを意味しているのではない。西田の方法は、その十全なる内在において全的に自己対象化するもの、つまり自己から自己へと移り行く永遠の現在において、〈いま〉〈ここ〉において、ある形を自らに与えるものへと到達することを求めているのである。


1.5 自己表現的に働くもの

 第四のテーゼは、「自己対象化は自己表現にほかならない」と定式化することができる。自己表現においては、表現するものと表現されるものとの間にいかなる分裂もない。そこには両者の全体的な同一性がある。いかなる距離もない、いっさいの媒介的な表象をその本性からして排除するこの同一性においては、表現は何も隠すことなく、理解されるためにいかなる解釈も要求せず、そのようなものとして絶えず自らを示し、表現そのものの背後で自らのうちにとどまりながら自らを表現するものをいかなる仕方でも前提しない。全的に自己表現するものにおいては、ただ一つのことがあるだけであり、それは、諸々の形がそれぞれまさにそのような形として自ら自らを限定しているということである。自己とは、自己の表現にほかならない。世界とは世界の表現にほかならない。


1.6 自らを知って働くもの

 自己表現は、距離なく基底も裏もなしに自らに自らを示すということに、つまりその全的な内在において自己自身に対して自ら現れるということにある。この自己表現が自己知にほかならないとするのが第五のテーゼである。つまり、自己の自己による自己のための表現は自己の知にほかならないということである。自己自身のために自己表現するものは、自己をいかなる媒介もなしに知り、与えられたものに対して距離を取ることを前提とする解釈には、それがどんなものであれ、余地を与えることがない。多かれ少なかれ限定的なあらゆる概念的同一化を本質的に逃れるものの直接的自己知がここで問題なのである。その探求のためには、ある結論に到達するために時間の中で展開され、直接的に自ら感得される現在から必然的に遠ざかってしまうあらゆる推論過程を排除しなければならない。直接的に自ら感得され、直観によって自ら捉えられ、自らに自らの知の形を与えるものを探究しなければならない。直接的に自らを知るものは、知の対象がその前に提示される思考の主体の独立へと導かれることはけっしてない。いかなる媒介的概念もなしに、無限の自己否定によって自らを感得するたびごとに、自己は直ちに直接的に自らを知るのである。

 西田の哲学的方法は、根本的かつ無限の自己否定作用をその基本原理としており、この自己否定には起点も終点もない。より正確に言えば、この方法は、真実在をまさに真実在としているもの、つまり絶対矛盾的自己同一の現実そのものが自らに自らを示す無限の過程からなっている。西田は、主体と対象、実体と現象、内在と超越などの諸概念を定義上対立させる伝統的な哲学用語体系を前提としつつ、そこに独自の術語および表現法を織り交ぜることによって、真実在の定義を試みているが、その同じ原則を西田の哲学的方法の定式化に適用するとき、私たちが上に見てきたような諸規定が真実在の定義から引き出されうるのである。その作業を通じて私たちが導かれる結論は、根本的に否定作用として規定されるこの哲学的方法は、私たちをいきなり無限の過程の只中へと心身丸ごと投げ込み、それによって私たちに哲学の〈始源〉への途を打ち開く思索の挙措にほかならないということである。












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