内的自己対話-川の畔のささめごと

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生命の個体化研究における原理的問題 ― ジルベール・シモンドンを読む(80)

2016-05-27 09:52:24 | 哲学

 シモンドンの個体化論をここまで読んできながら、個体とは何かという問いに個体の一般的定義を与えるという仕方で答えるということはこれまでしなかった。それは、そもそもそのような答え方ができないからである。何か最小あるいは最大の実体的個体が常に同一性を保って存在するわけではなく、個体認識はその基準に拠って可変的である。むしろ、多様な動的個体化過程の重層性と異層間の関係・交流の全体として存在を把握することがシモンドンの個体化論の目的であると言うべきだろう。
 物理的個体、生命的個体、心理的個体、社会的個体という順番で個体化過程が論じられていることは、一方では、より単純なモデルから複雑なモデルへという個体化の階梯を示してはいる。しかし、他方では、そのような順番で個体化過程を考察していくことで、それらの異なった階梯が単純に下層から上層へと積み重なっているのではなく、それら階梯間の相互作用、相互内属性・相互通底性が明らかにされていく。より複雑で全体的な個体化過程の把握の仕方が確定することではじめて、その過程に属する下位の個体化過程が規定可能になる。つまり、個体化過程の全体に〈類-種-個〉という固定的なカテゴリーを適用することはできない。
 ILFIの第二部第一章第一節は、生命体の個体化研究の諸原理を主題としている。その冒頭に、個体性の異なった複数の水準をどう規定するのかという問題が提起され、それに対するシモンドンの解決案が示されている。その冒頭から、同じ文脈の中で « individuation » と « information » との関係が定式化されるところまで、今日から何回かに分けて読んでいく。
 まず、冒頭の段落における問題提起を見てみよう。
 生理学は、個体性を規定する水準の多様性という困難な問題を提起する。種によって、そしてある一個体の生存過程の段階によって個体性の規定は異なる。同じ生物個体であっても、様々に異なった水準において存在しうる。例えば、胚は、成体と同じレベルで個体化されてはいない。他方、近接している複数の種の中に、種によって個体化の程度が異なる生命に対応する行動を観察することができる。しかも、この個体化の程度の差異は、有機体としての組織の複雑さの程度には必ずしも対応しない。つまり、組成の単純な生物個体はその個体化の程度も低いとは限らないし、高度に複雑化した組織を有する生命個体はその個体化の程度も高いとは限らない。


























































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