内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

情報は個体化過程の中にしか在りえない ― ジルベール・シモンドンを読む(40)

2016-03-30 05:45:16 | 哲学

 今日は、一昨日読み始めた段落の最後まで読みます。といっても、原書で五行ほどの短い文章です。

l’information suppose un changement de phase d’un système car elle suppose un premier état préindividuel qui s’individue selon l’organisation découverte ; l’information est la formule de l’individuation, formule qui ne peut préexister à cette individuation ; on pourrait dire que l’information est toujours au présent, actuelle, car elle est le sens selon lequel un système s’individue.

情報(化)は、或るシステムの位相変化を前提とする。なぜなら、それは、発見された組織化にしたがって個体化する最初の前個体化的状態を前提とするからである。情報(化)は、個体化の定式であり、その定式は、その個体化に先立っては存在し得ない。情報(化)とは、或るシステムがそれにしたがって個体化するところの意味(方向性)であるから、常に現在に属し、現勢的であると言うことができるだろう。

 この文脈での « information » を「情報」と訳すことは、シモンドンの意図を損ねる危険があります。なぜなら、ここでの問題は、私たちが今日普通の意味で使う情報の定義ではなく、或るシステムの中で或る有意な形(形態)として個体が発生するのはどのようにしてなのかということだからです。« informer » という動詞には、「知らせる」という今日の通常の意味以前に、「形を与える」という意味があります(因みに、この意味で動詞 « informer » を使うことは、私の博士論文では、西田のいう「形の自己限定」を分析する際のキー・ポイントでした)。« information » が「形を与えること」という意味で使われていると考えると、シモンドンの言いたいことがわかりやすくなります。フランス語の場合は、 « information » という語の中に目に見える形で « forme » が組み込まれていますから、誤解の余地もそれだけ少ないのです。日本語の中だけで思考していると、「形」という意味が「情報」に含まれていることを読み取ることはできません。それでもなお私が « information » をあえて「情報(化あるいは過程)」と訳したのは、そう訳すことによって、今日普通に使われている言葉としての「情報」をその起源から考えるための方途を示そうとしてのことです。
 さて、これだけの前置きをした上で、上掲の引用箇所に立ち戻りましょう。
 情報は、前個体化的状態が一つのシステムとして個体化される過程で発生します。この個体化以前に情報は存在しません。情報(化あるいは過程)は、その個体化の定式に他なりません。この定式は、したがって、個体化以前には存在しえません。情報は、現に進行中の個体化過程の中にしか存在しえないという意味で、現在にしかありえず、つねに現勢的です。情報は、或るシステムがそれにしたがって個体化していくところの方向そのものだからです。或るシステムが一定の形として組織化されていくことそのことが情報なのです。
 上掲の引用の最後の一文に使われている « sens » にも、フランス語ならではの多義性が有効に働いています。 « sens » には、「方向」、「意味」、「感覚」という意味があります。この三つの意味のうちのどれがテーマかは文脈によって異なりますが、そのいずれかの意味に還元できない多義的な使用法が意図的になされる場合もあります。上掲引用文の文脈では、形がある一定の方向に向かって個体化されるというのが第一義です。しかし、その一定の方向性をもった個体化が情報を有意なものにするという点で、そこには「意味」という価値も含意されていると思われます。そして、この文脈では問題にされていませんが、方向としての意味を個体が捉えること、それが感覚だと言えると思います。



















































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