内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

存在了解・世界受容・空間分節 ―「心身景一如」論のための覚書(一)

2015-02-21 19:37:18 | 哲学

 これは、日本の古典文学の言葉の中に一つの「哲学」を読み取る試みである。
 ここでの「哲学」とは、西洋哲学史で学ばれる諸々の哲学のいずれかに類似したものの見方、あるいは少なくともそれらの構成要素のうちのいずれかに比定しうるものを指しているのではない。例えば、空海の『声字実相義』の中から言語哲学を、道元の『正法眼蔵』の中から形而上学を、世阿弥の能楽論の中から身体の哲学を抽出しようというような、広義の日本文学に属する理論的な著作に対して西洋哲学の概念的枠組みを前提とした比較哲学的なアプローチを試みようということではない。それらの試みを否定するということではなく、ここではそれとは違ったアプローチを試みてみたいということである。
 ここで試みられることを、まず一言にして言えば、古典文学作品の中に広くかつ頻繁に使われる言葉の中のいくつかに、「すべてはそこからそこへ」と西田幾多郎が言うときの「そこ」へと私たちを導いてくれる途を見出すということである。
 とはいえ、いきなり文学作品そのものに向かったとしても、たとえ今日の最新の研究成果に基づいた注釈書類の助けを借りたとしても、そのような途は見えてこないであろう。それらはそもそもここでの問題意識とはまったく異なった学問的アプローチなのであるから、それは当然なことである(しかし、だからといって、それらの研究成果を貶めるつもりは一切ないどころか、参照することによって多くのことを学んだことを特に記しておきたい)。
 そこでまず、作業仮説として、次の三重の場面に問題を限定しよう。その問題場面とは、存在了解・世界受容・空間分節である。そこで私たちは、ある言葉のうちに、いかに存在が了解され、いかに世界が受容され(あるいは世界に受容され)、いかに生きられる空間が分節化されているかを見てみよう。そのような三重の意味は、しかし、その言葉を使用した者によって自覚的にそこに込められているのではない。むしろ、その言葉の使い方の中に、上記の三重の問いへの答えが自ずと示されていることを示すのがここでの目的である。
 つぎに、考察対象をさらに限定するために、〈心〉〈身〉〈景〉という三つの概念を導入しよう。そして、これら三つの概念によってそれぞれ指し示される現実の構成要素が、文学作品の中でどのような動的関係にあるかという点に限って、いくつかの言葉の使用例を検討していくことにする。
 このような日本文学への「哲学的」アプローチを試みるにあたって、直接的にあるいは間接的に参照されている三つの著作がある。時枝誠記『国語学原論』、唐木順三『無常』、大森荘蔵『物と心』である。これらの著作が与えてくれたインスピレーションがこのアプローチへと私を導いてくれた。
 しかし、その問題意識の起源へとさらに遡れば、井筒俊彦に言及しないわけにはいかない。井筒が逝去の前年一九九二年に司馬遼太郎とした『中央公論』での対談「二十世紀末の闇と光」の中で、「私は、元来は新古今が好きで、古今、新古今の思想的構造の意味論的研究を専門にやろうと思ったことさえある」と発言しているのを読んだとき、私にとってまったく新しい研究の領野がそこに開かれているのに気づかされ、目が覚めるような思いがしたものである。
 私の哲学的思考を刺激してくれるフランス語の著作にも言及すべきだが、今日のところは、それらの著者の名前だけを挙げておくと、Gaston Bachelard, Lucien Tesnière, Georges Gusdorf, Paul Ricœur, Jean-Luc Nancy, Jean-François Marquet, Pierre Macherey, Jean-Louis Chrétien, Françoise Dastur などである。彼らの著作のあちこちを読んでは、考えるヒントをいただいている。












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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2015-02-22 07:14:21
今回、全部仏語で書くと勘違いしました。綺麗な文字でした。この曲を思い出した、ブログの記事を読んで。間とあいだですね。恥についてと思いました、心、身、景。恥、景だけは予想外でしたがやっぱり良い、納得でした。自然、尊敬に繋がると思いました。恥は耻にしたら動きがなくなって、『ここから、ここまで』のコミュニケーションが文字通りstop。https://m.youtube.com/watch?v=nokqNHsNEPw
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