一日十時間も哲学の博士論文を読んでいると、いくらそれが自分の専門分野であるとはいえ、やはりうんざりしてくる。でも、誰も責められない。審査の依頼を「喜んで」引き受けたのは、ほかならぬ私自身なのだから。内容的にきわめて高度かつ優れた研究であることは確かだ。これまでフランス語でなされた日本哲学研究の中で最高峰に位置すると言い切っていいだろう。しかし、まさにそうであるからこそ、審査する方が審査される方より研究者として劣っていると言わなくてはならない。私の能力を完全に超えている部分が、少なく見積もっても、全体の三分の二以上を占めている。審査当日は、評言というよりも称賛を捧げることしか私にはできないだろう。とはいえ、質問がないわけではない。だが、つまらない質問をするのは、この論文に十年以上をかけたであろう著者に対して誠に失礼である。愚問に時間をかけるのは誰のためにもならない。明日からの三日間は、せいぜい恥ずかしくはない質問を準備することに充てる。
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