内的自己対話-川の畔のささめごと

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3月から8月までに予定されている研究発表・講演・集中講義について(5)― 現代哲学特殊演習 「個体・技術・倫理(シモンドン哲学入門編)

2018-01-26 00:00:00 | 哲学

 すでに1月9日の記事で取り上げたことだが、今年で8年目になる東洋大大学院での夏期集中講義「現代哲学特殊演習②」では、5日間にわたってシモンドンの哲学への入門的演習を行う。シラバスはすでに大学のサイトに入力済みである。その中から「講義の目的・内容」をそのまま転載する。

 本演習は,日本では一般にまだほとんど知られていないフランスの哲学者ジルベール・シモンドン(Gilbert Simondon, 1924-1989)の哲学を紹介することをその目的としている.
 シモンドンの主な専門領域は,個体化の哲学と技術の哲学である.技術的対象(工業製品)を初めて哲学的考察の対象とした点で画期的な哲学者である.独自の個体化の哲学に支えられたその技術の哲学は,今日,正当に再評価・再検討されるべき時を迎えている.
 シモンドンは,1958年に国家博士論文の主論文 L’individuation à la lumière des notions de forme et d’information と副論文 Du mode d’existence des objets techniques を提出する.後者において展開された技術の哲学は同時代のフランスの哲学者たちから高く評価された.
 ところが,主論文の個体化の哲学の方は,その特異な出版事情もあり,シモンドンの生前に十分に理解されかつ正当に評価されたとは言いがたい(例外は、ドゥルーズが1966年に発表した書評).
 シモンドン自身にとっては,しかし,技術の哲学と個体化の哲学とは不可分である.後者が切り開く広大な総合的人文・社会・自然科学的パースペクティヴの中に位置づけられてこそ,前者の現実社会での実践的射程も明らかになることは最初からシモンドンによって十分に自覚されていた.
 シモンドンの哲学がその全体として再評価され始めるのは,その死後のことである.最初のモノグラフィー が出版された1993年以降、「シモンドン・ルネッサンス」は本格化する.特に,2005年に1958年の主論文の完全版が初めて出版されると,以後毎年のように講義録や講演記録が出版あるいは再刊されるようになり,それと同時に研究書の出版も相次ぐようになった.シモンドンの先見性と独創性とが広く理解されるようになるのに,約半世紀を要したのである.
 シモンドンの哲学の今日における重要性を理解するためには,1958年の博士論文の主論文と副論文とを精読することから始めなければならない.本演習では,仏語原文を随時参照しつつ,私自身が準備する邦訳をテキストとして使用する.

 シモンドンの著作すべてとシモンドン研究の主要な仏語文献とはすべて手元に集めてある。それらも随時参照しながら、少しずつ講義ノートを作成していきたい。

 日々、研究への集中を妨げる様々な雑音の襲撃を四方八方から受けている。立場上それは避けがたい。しかし、だからこそ、それら一切を遮断し、それらから己を離脱させ、考察されるべきことそのことに思考を集中させる時間を、毎日、たとえ数分でもいいから、必ず確保すること。それが、私にとって、日々の哲学演習にほかならない。