内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

価値は、個体化を通じて、個体を超えたものを再び見出そうとする ― ジルベール・シモンドンを読む(140)

2016-10-29 06:25:00 | 哲学

 昨日の記事で試みたテキスト読解の結果を前提とすれば、シモンドンが次のように倫理を定義するのは当然の帰結だと理解できる。

Une véritable éthique serait celle qui tiendrait compte de la vie courante sans s’assoupir dans le courant de cette vie, qui saurait définir à travers les normes un sens qui les dépasse (p. 332).

真正な倫理とは、日常生活の流れの中に微睡むことなくその生活を考慮に入れ、(その日常生活を規定している)諸規範を通じて、それらを超える意味(方向)を定義することができる倫理であろう。

 このように規定された倫理においては、諸々の価値は、諸規範と無関係に超脱したものではありえず、それら諸規範を通じて実現されていくものでなければならない。規範と価値との関係は、諸規範が形成しているネットワークの内的共鳴とそれら諸規範が有している超越的増幅力との関係として表現される。
 規範は、ある一定の個体化を表現し、その結果、個体的諸存在のレベルで構造的・機能的意味(方向)を有しているものとして考えることができる。ところが、それとは反対に、諸価値は、諸規範の誕生に結びついているものとして考えることができる。諸価値が表現しているのは、次の事実である。諸規範は、個体化とともに発生し、その個体化が現在の状態として実在する間しか持続しない。
 このように考えるとき、規範のシステムが複数存在するということは、矛盾ではなくなる。多数の規範システムが存在するゆえにそこに矛盾があると考えられるのは、個体が絶対的なものと見なされているときに限られる。ところが、現実に多数のシステムが存在するのは、個体化が準安定的・暫定的な状態を移行過程における非連続面として作り出すからである。
 価値がそれ自体で絶対的な仕方で表現されることはありえない。それは前個体化状態がそれ自体としては把握され得ないのと類比的である。価値は、規範が包蔵している前個体化的なものにほかならない。価値が表現しているのは、互いに異なった大きさの複数の秩序への結びつきである。諸価値は、存在の生成過程を、前個体化状態から発出して個体化の後に到来するものへと向かわせる。一方では、複数の個体がそこで群生するコロニー相の形成へ向かわせ、一方では、高等な種において、通・超個体的なもの(le transindividuel)の形成へと向かわせる。諸価値は、個体化以前に与えられていた連続性から発出して、個体という非連続的な移行過程を通じて、再び連続性を見出そうとする志向を表現している。