
ゴールデンウィークは結局、5月3日だけ落語会に行った。
繁昌亭の特別興行。
特別興行に行くのは今年が初めて。
「看板の一」(染弥):△+
前座にこのレベルの人が出ると、寄席としては安定する。
出の際に「待ってました」と声を掛ける客がいて、ちと引く。
マクラはありがちなネタもの。
内容は忘れたが、別に悪くなかった覚えがある。
ただ、喋りながらやたら客席をキョロキョロ見回すところ、
時計?を見ることが多いあたりが気になる。
ネタはまあ、きっちりやっていた。
仕込の隠居さんと、バラシのアホで上下を逆にしていたのだが、
個人的には同じにした方が良いと思う。
胴を取る人間の「位置」は同じだし、
仕込とバラシの関係が見えやすくなると思う。
逆にすると、演っていて演りづらいとも思うのだが。
バラシで「1から10まで目が切ってある」と
間違えるのは、無理ではあるが面白かった。
「かわり目」(八天):△
マクラはいつも通り。
「命を削る鉋」の後で
「そのスライスされたのに醤油をかけて、それをアテに飲む」と言うセンスは好きなのだが、
あまりウケないな。
俥屋なしで、帰ってきて戸を叩く場面から入る。
これはこれで悪くないな。
特に前半で切る「かわり目」なので、
夫婦の関係にテーマが絞られる感じがする。
飲んでうだうだ言うところはまあ普通。
おかみさんが酔っ払いを弄って楽しんでいる感じ。
「出て行きよった」まで言って独り喋りに入り、
「お前まだ行かんと」と言うのはあまり好みではない。
客を騙しているようで不愉快。
あと、飲みながら目線を振り過ぎており、
おかみさんがまだいることに途中で気付いてしまうのでは?と感じた。
「初音の鼓」(春雨):△
この人を見るのは久し振り。
マクラは「虚弱体質」みたいな話。
よく言っていることなのだろう。
米朝筆の「楽」を指しながら
「「薬」と書こうとして草冠が抜けた、耄碌しておられるから」
みたいなことを言ったのが、個人的には面白かった。
ネタは、三太夫さんにしても殿様にしても侍らしくない。
あと、商人が「鼓の達人」というのは鼓の仕草に対するハードルを上げるので、
あまり入れない方が良い設定と思う。
殿様の前で打つことになった時に
すかして肘を打つギャグを入れており、
これはこれで面白かったのだが、
別に「鼓の達人」の設定なしに入れても良いと思うし。
鼓を打っていたが、あまり調子に乗れないリズム。
「ポーン」ももっと声を張って欲しい。
「ものまね」(そめすけ):△
この人も久し振りだな。
一度座ってマクラのようなことを喋って一度下がり、
出囃子に合わせて上がって演芸人
(カウスボタン、いとしこいし、酒井とおる、中田ダイマルなど)
の声色・形態模写をする。
最後は女装して岸田今日子。
何か、ヨゴレの芸人だな。
「野崎詣り」(雀三郎):○
演芸場っぽいマクラ。あまり好きにはなれんな。
「扇蝶」に合わせて堤を行く人を見せる。
このあたりの「背中の曲がったおばあさん」「傘を差し掛けて歩く男女」が
後のアホの独り喋りの中で再度紹介される構図。
ネタは「遊山舟」と同様にアホのキャラクターを走らせて作っている。
昔は「天王寺詣り」は良いが「野崎詣り」は良くなかった雀三郎だが、
一つのパターンを手に入れて上手く使っている印象。
勿論、それでも「天王寺詣り」程の絶対的な良さは感じないのだが。
相合傘で歩く男女の年齢がよく分からない。
台詞回しは中年以降の男女の熟した雰囲気を感じるのだが、
アホが紹介している行為はけっこう若々しい。
あとは、まあ、普通に良かった、という程度。
「曲独楽」(米八):△+
基本的にいつも通り。
最初はあまりクサさを感じなかったが、
やはり独楽の動きやらを紹介するところはクドい。
前にも感じたのだが、薄緑の着物に、
よく似ているが微妙に色の違う袴を合わせるセンスは
個人的には良いとは思えん。
刀の刃渡りで失敗。初めて見た。
一度落とすと心棒が狂うんやね。
その後の諦めて「次に行く」と言い切る辺り、
独楽で生きている芸人の矜持が素で出た感じ。
この人の芸に、初めて少しだけ好感が持てた。
「転宅」(枝三郎):△-
いきなりネタに入ろうとする。
だったら「ネタに入っているんですけど」とか言って狆の話なんかせずに、
ちゃっちゃと入れば良い。
中途半端。
狆の顔の形容は面白かった覚えがある。
具体的にどう言ったか忘れてしまったのだが。
ネタは、まあ、こんなやり方もあるのかも知れんが
好きになれない。
女の作り方がいい加減過ぎると思う。
いくら盗人がアホだと言っても、
こんな突拍子もなく「別れようとしている」「盗人と一緒になりたい」
なんて言われても信用するとは思えない。
もっと色気やら盗人の気持ちを汲んで喋っていくものでは?
盗人が最初疑い、本気になるところも突然。
もっと徐々に疑いを解き、盛り上がっていくものだろう。
盗人をアホな人間として設定しているだけで、
これだったらこの女でなくても、誰でも騙せそう。
「泊まる」と言い出された女の慌て方は自然で良かった。
翌日の場面も、煙草屋が目の前の盗人を本人と知らずに「アホ」呼ばわりし、
それを受けて盗人が「怒りたいが怒れない」反応を見せるところで
ウケさせようとしているだけ。
単純過ぎる、と個人的には思う。
「旦那がいる間は盥を出しておく」設定にし、
「洗濯」と「転宅」を掛けるサゲにつなげる。
この「盥を出す」設定が慌てた女が口から出まかせで言った感じで、
これがサゲにつながるところは悪くないと感じた。
「寝床」(染丸):○+
復帰後見るのは初めて。
普通に声も出ているし、普通に喋っていて安心した。
全体にクサ目。
そこそこ「大御所」と扱われることが多くなっているはずだが、
そこに安住せず貪欲にウケを取りに行く姿勢が好み。
近所を回る店の人間(藤七だったかな?)が良かった。
適当に喋っている感じが良い。
それを受けての旦那の感情の変化も分かりやすく作られていた。
腹を立てた旦那の機嫌を取り持つのは、当然番頭なのだが、
たまの「娘さんが宥める」アイデアを一度見てしまうと、
いろいろ違和感がある。
番頭も店の人間で旦那を怒らせた側の人間なのだから
宥められないのでは、と感じるし、
怒らせた「長屋の連中」「店の連中」とは別の世界の人間が止める方が
自然だと思うし。
宥められる旦那はもう少しクサく機嫌を直しても良いと思う。
宥められての到達点も、もっと上機嫌な方が好み。
キセルを逆に持って火傷するのは余計かな。
サゲは「寝床」ではなく、
三味線弾きがいなくなって、もう会はできません、といったもの。
途中で「店の連中が寝ている場所を会場にしている」などと言っていたので、
それを生かさないのは少し意外。
普通に「寝床」で下げて良いと思う。