ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

RNAワクチン開発と構造ウイルス学

2022-02-23 10:27:32 | 健康・医療
現在オミクロン株はピークは越えたものの高止まりが続いています。

やっと新型コロナに対してはワクチンも開発され治療薬も続々承認されつつありますが、自然界には無数といってよいほどの多数のウイルスが存在し、ヒトに対して重篤な病気を引き起こしその治療法もない状況にあります。

この最も有効な予防・治療法がワクチンですが、原子レベルで感染症のウイルスを理解しようとする科学が「構造ウイルス学」と呼ばれています。

ここ数十年でこの分野は飛躍的に発展し、標的とする病原体の構造に基づいて設計されたワクチンが開発されるようになりました。

新型コロナウイルスのRNAワクチンも、構造ウイルス学によってもたらされたものですし、さらにエイズウイルス(HIV)についても、初のワクチンの開発が期待されています。構造ウイルス学はウイルスがどのように感染し、細胞に侵入するのかの基本的な仕組みを研究します。

構造ウイルス学を使って開発された「構造ベースワクチン」はウイルスの感染力が最も強い部分を狙って、身体が最も強い抗体反応を起こせるようにします。

構造ウイルス学はSARSやMERSを含むコロナウイルスが人間の細胞に侵入するときに、ウイルスの持つスパイクタンパク質がカギを握っていることを明らかにしました。ウイルスとタンパク質を調べるには様々なツールがありますが、特に重要なのはX線結晶解析と低温電子顕微鏡です。

この2つの技術が近年大きく進歩したことが、構造ベースのワクチンの躍進につながったといえそうです。X線結晶構造解析を行うには、まずタンパク質を溶液に浸して氷砂糖のように結晶化させます。

この結晶にX線を当てると規則正しい結晶の構造により回析しますので、そのパターンを撮影してコンピューターで3次元画像を作成できます。しかしすべてのウイルスやタンパク質がうまく結晶化するわけではなく、その場合は低温電子顕微鏡を利用します。

これは薄い氷の層の中でタンパク質を凍らせ、そこへ電子ビームを当てて2次元画像を作成します。これを角度を変えて数十万回繰り返し、ソフトですべての画像を組み合わせて3次元モデルを作成します。

2010年に開発された新しい世代のカメラは解像度が上がり、何枚もの写真を高速で撮影できるようになりました。ヒトに感染するときにウイルスのスパイクタンパク質は変形し、糖タンパク質という分子が棒のような形状が三角形になることが分かりました。

この糖タンパク質の変形を阻害するワクチンなら効果が高いだろうと予測し、このタンパク質の形を正確に突き止めました。

このような構造ウイルス学の治験から、新型コロナの史上初めてのRNAワクチンが開発できたわけです。

実際は抗体との結合など難しい部分もあるようですが、こういった構造解析が進むことで新たな治療薬の開発なども期待できるような気がします。 

切断したカエルの脚の生え代わりに成功

2022-02-22 10:25:22 | その他
再生医療という言葉が一般的になってきましたが、まだまだ実用化という面では先の話となっています。

タフツ大学とハーバード大学の研究チームが、アフリカツメガエルの切断した後肢を一部再生させることに成功したと発表しました。

この実験には5種類の薬品と「バイオドーム」と呼ばれるウエアラブルデバイスが使われました。後肢が再生していく過程をコントロールし続けたのではなく、薬品にカエルの患部を24時間漬けることで、18か月かかる再生プロセスを促進させました。

研究チームはカエルや他の動物も再生能力が体に眠っていて、きっかけを与えればそれを稼働できるということかもしれないと述べています。

サンショウウオやヒトデ、カニや一部のトカゲは失った体の部位を再生できますが、カエルはその能力を持っていません。また哺乳類も肝臓は90%切除しても、フルサイズまで再生できます。

2019年の研究で分かったように、人間には関節の傷ついた軟骨を修復する能力があります。しかし指や足全体をなくした場合、哺乳類における傷の回復過程からして、肝臓や軟骨のように再生はできません。

傷ができると瘢痕組織が覆ってしまい、細菌感染や更なるダメージから身を守る役割を果たしているためです。

今回のアプローチは幹細胞移植やゲノム編集に注目する他の手法とは違い、プロセスを細かく管理するのではなく、細胞に対して胚発生でしたことを再スタートさせるような短時間のシグナルを探った手法としています。

このシグナルを探すため、5種類の薬品を混ぜ合わせ、それによって細胞の増殖を激増させ炎症を抑え細胞を修復モードに押しやりました。また傷跡の形成につながるコラーゲンの生産を抑制し、神経線維と血管、筋肉の成長を促進させました。

実験ではメスのアフリカツメガエルの成体115匹の後肢を切断しましたが、倫理面から苦痛を最小限にするため全身麻酔が使われたそうです。この研究で使われた薬品の中身が成功のカギを握りますが、ウエアラブルデバイスも同じく重要です。

このデバイスは切断部分を閉じようとする通常のプロセスを抑制し、後肢の再生を促進しました。生えてきた後肢はほぼ完全に機能していて、骨の構造や内部の組織、神経までもが元の脚とよく似ていました。

実験ではカエルたちは水中を普通に泳ぎ、脚をつつかれると普通に反応しました。研究チームは次のステップとして、マウスに対する実験を行い、新たな薬品の配合を試し必要に応じて最適化していくとしています。

薬品の内容などは分かりませんが、再生医療への新しい試みとして評価できると思われます。

生命の元を作るPrES細胞の作製に成功

2022-02-21 10:26:07 | 自然
色々な幹細胞研究が進んでいますが、幹細胞から生命の生育に必須な胎盤を作成するには至っていませんでした。

理化学研究所と千葉大学の研究チームが、マウスの受精卵が細胞分裂してできた「胚盤胞」から新たな幹細胞「PrES細胞(原子内胚葉幹細胞)」の作製に成功したと発表しました。

この細胞を混ぜた塊をマウスの子宮に移植したところ、着床後すぐに通常の胚と似た構造に成長したようです。

ここで幹細胞とは分裂して同じ細胞を作る能力(自己複製能)と、さまざまな部位の細胞に分化する能力(多分化能)を持つ特殊な細胞で、発生や組織の再生などを担う細胞と考えられています。体細胞に遺伝子を導入し培養して作るiPS細胞も幹細胞のひとつです。

胚盤胞は、1.主に体になる細胞、2.胎盤になる細胞、3.胎盤ができるまでの栄養源となる卵黄のうになる細胞、の3種類の細胞からなり、この内の2種類からすでにES細胞(胚性幹細胞)とTS細胞(胎盤幹細胞)の二つの幹細胞が作られています。

三つ目のPrES細胞がそろったことで、幹細胞だけを使った生命誕生につながる可能性が出てきました。研究チームはマウスの受精卵を胚盤胞に成長させたのち、特殊な条件下で培養し卵黄のうになる能力を持つPrES細胞を作製しました。

これを薬剤で卵黄のうになる細胞をなくした胚盤胞に注入したところ、育たないはずの胚盤胞が成長を続け正常な子マウスが誕生しました。

また三つの幹細胞を混ぜ合わせた塊をメスマウスの子宮に移植し、約1週間観察した結果、2〜3割の確率で着床し、着床後すぐの通常の胚に似た構造まで変化したようです。ただしこれは正常な胚にはならず、子マウスは生まれませんでした。

胚盤胞を人工的に作る研究は国内外で行われており、アメリカとオーストラリアの2チームは2021年に、ヒトの幹細胞などを使い胚盤胞に似た細胞の塊を作製したと発表しています。

研究チームは、数十個の細胞からなる胚盤胞が生命の起源として機能する仕組みの解明に役立つかもしれないとしています。マウスとヒトでは受精卵の発育の仕組みが大きく異なるため、チームはよりヒトに似たブタの細胞での研究も進めています。

この研究は胚の成長に対する卵黄のうの役割や、着床前後の胚の仕組みの解明につながり、マウスで得られたアイデアをヒトに応用することで、倫理面から研究が難しい領域でも理解を深められる可能性があるとしています。

この辺りの研究内容は私にはあまり理解できないことですが、生命の発生という部分は本当にまだ難しい領域のようです。こういった研究から例えば不妊治療に役立つような知見が得られるのかもしれません。

木材が人間に及ぼす科学的な影響

2022-02-20 10:25:31 | 自然
私の家はいわゆるツーバイフォーで建てられており、基本的に柱はないのですが木造建築と言えます。

「何となく木は良い」という感じがありますが、落ち着く、ぬくもりを感じる、心が安らぐなどの住み心地、居心地の良さがあるような気がします。

日本人は日用品、住居、燃料などといった生活必需品は木の種類を使い分けるなど「木の文化」を育んできました。日本人と木の親和性の高さに起因した感情は歴史的なものですが、「木の良さ」を科学的に解明しようとする研究は、1960年代以後さまざまな研究者が取り組んでいます。

まず木材の物理特性から見た「良さ」については、木材を含む各種材料にガラス玉を落とし割れる高さを比較した事例では、プラスチックや大理石と比較し衝撃吸収性が優れていることが分かっています。

コンクリートやビニールタイルなどの床材料と比較して、木材の方が触れた際の温度低下が緩やかであり、接触時に体温を奪う作用も小さくなっています。こういった居住空間に木材を取り入れることで、居住快適性が向上するという報告もあります。

また湿度については、人滞在時における室内相対湿度が木材内装はそれ以外の内装よりも常に低くなることが示され、木質空間の方が湿度が高くなりにくいことが分かっています。木質空間ではビニールクロス空間と比較して、相対湿度の変動が穏やかであることも示されています。

こういった効果は、木材が熱物性に優れ比強度の高い多孔質材料であるために得られるもののようです。さらに木材に含まれる精油成分は50種類以上の化学混合物で、化学反応的消臭効果やホルムアルデヒドを吸い取るといった効果も知られています。

つまり木材を使うことの良さについては、木材の物理・化学特性からある程度説明できるわけです。次に木材と人間の心理・生理応答については、日本全体の傾向に匹敵するほどの科学的普遍性を持った研究成果は少なくなっています。

行動分析や意識調査によって間接的に人間に与える影響を調査した事例では、コンクリート校舎と比較して木造校舎の方が教師や生徒の疲労症状が抑制され、インフルエンザによる学級閉鎖率が低いといった報告があります。

木材は多孔質材料で、その主要成分であるセルロースなどは多くのヒドロキシ基を有しているため、水分子を吸着しやすい特性を持ちます。したがって空気中の湿度を調整する作用によって菌の増殖が抑制されると考えられています。

その他スギの香りによって収縮期血圧や脳活動が穏やかになるといった報告もあり、木材の良さは科学的にも検証されているようです。

実際にこういった「木の良さ」が発信されることによって、木材利用への関心は高まっているようです。

新型コロナ治療の飲み薬の増加

2022-02-19 10:26:25 | 
新型コロナのオミクロン株感染症はピークを超えたような気がしますが、どうも減少が緩やかでなかなか安心できる状況にはならないようです。

それでも治療薬の飲み薬が増えてきそうですので、徐々に治療できる病気となりつつあります。厚生労働省はファイザーが開発した飲み薬「パキロビッド」を特例承認し、メルクの「モルヌピラビル」についで2例目となりました。

日本の塩野義製薬も近く承認申請する予定で、政府は供給量を見通せるこの国産の飲み薬も早期に承認しそうです。

オミクロン株による感染が急拡大し、累計の感染者数は400万人を超え、死者数も2万人を超えています。このため政府はオミクロン株感染者を軽症、中等症の段階で治療できる飲み薬の国内実用化と普及を、ワクチン3回接種の進捗と共に感染防止対策の柱にしています。

厚生労働省によると、パキロビッドは体内で新型コロナウイルスが増殖するのを防ぐ「抗ウイルス薬」に分類されます。ウイルスに必要なタンパク質の合成を阻害する働きのある主剤の「ニルマトレルビル」と、抗エイズ薬としても使用され、主剤の分解を遅らせて血中濃度を保つ「リトナビル」の2剤で構成されています。

パキロビッドの臨床試験データでは、入院や死亡リスクは発症3日以内投与で89%、同5日以内投与で88%減少していました。これまでのデータでオミクロン株にも効果があるとされています。

ただし高血圧や脂質異常症の薬など「併用禁忌」の薬が30種類以上もあり、その他の「併用注意」の薬も多いという点が問題です。高齢者は高血圧や脂質異常症の人が多く、特に注意が必要となります。

特例承認に際しては、医師や薬剤師がパキロビッドを処方する際には患者が使っているすべての薬を確認することが前提とされ、当面適切に薬を扱えると考えられる全国約2000の医療機関での院内処方に限定しています。

得られた注意点や改善点を踏まえたうえで、他の医療機関や薬局に広げる方針となっています。供給量の確保も課題で、政府はファイザーと200万人分の確保で合意したとしていますが、期限は年内ですでに輸入された量は約4万人分に留まっているようです。

国内の塩野義製薬によると、軽症や中等症の患者を想定した飲み薬を今月内にも承認申請する予定のようです。まだ名前は分かりませんが、体内でウイルスが増えるのを防ぐ抗ウイルス薬です。

このようにやや使いにくかったり、供給量の問題はありますが、軽症で使える飲み薬が次々と増えてくることは、オミクロン株や新たな変異株に対抗するための武器が増え、通常の風邪に近づいてきたといえそうです。