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結晶の生成と成長に「結晶前駆体」が重要な役割

2022-09-03 10:39:25 | 化学
液体が冷えて融点を下回る過冷却の状態になると「結晶前駆体」ができ、そこから結晶核が生まれて結晶に成長し固体になります。

この過程で前駆体が結晶核だけでなく、結晶の成長まで大きく寄与することがシミュレーションで示されたと、東京大学の研究グループが発表しました。

こういった結晶化に興味を持つ人はほとんどいないと思われますが、私のような有機化学者にとっては非常に大きな課題のひとつです。有機反応によって新たな化合物を作るのが仕事ですが、いかにきれいな純度の高い化合物にするかも重要な点です。

化学反応自体は1日で終了し、その反応物から目的物を取り出すのに3日かかるなどよくあることで、精製というのは手間と時間がかかるものです。その点難しいのですが、結晶化させることが最も短時間で高純度の目的物を得る方法となります。

この結晶化にはマニュアルなどはなく、合成した新規化合物の性質も分かりませんし、どんな不純物が入っているかも全く分からない状態となります。これをいかに結晶化させるかはそれまでの経験といわば勘に基づく、最も職人的な部分となります。

具体的にどんな操作をするかは省略しますが、小さなフラスコを何個も並べて混ぜたりこすったり、また暖めたり冷やしたりと同じ仲間が見てもよくわからないようなことを繰り返しています。

今回発表になった「結晶前駆体」の存在で何が変わるのかは難しいのですが、新たな試行錯誤が増えることは確かです。さて液体が冷えた時の結晶の形成と成長は、かつて液体中のランダムな状態から突然に結晶ができるという古典的理論で説明されていました。

しかし2010年に結晶化しやすい物質では、前駆体が出来たり消えたりしていることを今回の研究グループが示しています。結晶は粒子が3次元的に正しく配列した個体で、構成する一つの粒子から見ると隣の粒子の位置、つまり向きと距離が定まって配列しています。

前駆体では向きがほぼ定まっているものの、距離がまだ不安定な状態で、さらに距離が整うことで結晶になるとしています。研究グループは、原子や分子の動きに注目したコンピューターシミュレーションを試みています。

この詳細の説明は残念ながら私もよく分かりませんでした。基本的には金属やその合金といった無機化合物ですので、私が扱っていた有機化合物とは若干異なりますが、結晶化のメカニズムという点では同じような感じです。

非常に単純化すれば、前駆体が結晶の成長を助けますので、この前駆体を消さないような操作をすれば速やかに結晶は成長するというものです。

私はもう実験でこの前駆体を確認することはできませんが、結晶化の新しい理論として色々な展開が期待できるのかもしれません。


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