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遺伝子を自由に書き換えられる現在の技術のリスク

2022-03-18 10:25:07 | 健康・医療
近年旧「優生保護法」によって不妊にさせられた被害者の裁判提訴をきっかけに、救済制度の整備や実態調査が行われているということが話題になりました。

日本で1996年まであった旧優生保護法は、不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づいて、障碍者に強制的に不妊手術をすることを認めるというひどい法律でした。

この法律がいつごろできたものかは分かりませんが、日本でもこんな思想が受け入れられていたということは、驚きというよりやや悲しい気持ちになります。しかしここには非常に難しい問題を含んでいます。

例えば産科医療での胎児に行われる出生前診断や着床前診断があります。私は出生前診断で遺伝子異常が見つかれば、妊娠中絶はやむを得ないと容認する立場ですが、これを進めると優生思想的な考え方につながるような気もします。

また現在はゲノム編集などによって遺伝子を自由に書き換え、自然の進化を変えることすらできるようになっています。特に親から子への通常の遺伝よりも、遺伝子の拡散をスピードアップさせた「遺伝子ドライブ」という技術が出ています。

これを蚊を例に説明すると、野生のアオ蚊の群れにゲノム編集した大きなアカ蚊を1匹入れたとします。アオ蚊の方が圧倒的に多いので、アカ蚊の子孫は最初の4分の3がアカ蚊になりますが、あとはアオ蚊と混ざり合ってしまいます。

ここで遺伝子ドライブを組み込んだゲノム編集をしたアカ蚊を入れると、両親の遺伝子を一組ずつ受け継ぐところまでは同じですが、遺伝子ドライブの遺伝子はゲノム編集の能力を持っています。

そのため子孫の細胞の中でアカ蚊の遺伝子は、アオ蚊の遺伝子を強制的にアカ蚊の遺伝子に書き換えることができ、子孫はすべてアカ蚊に変わっていきます。実は蚊については、遺伝子ドライブを使ったマラリアを介する蚊の研究が進んでいます。

具体的にはオスに子孫のメスを不妊化させる遺伝子を含む遺伝子ドライブを組み込むという内容です。2021年には大型ケージでの実験が行われ、遺伝子ドライブを持つオスの蚊を蚊の集団の8分の1の数で入れると、1年以内に集団が死滅したようです。

この技術は昆虫だけではなく、哺乳類でも実施されようとしています。ニュージランドの害獣となった外来種フクロギツネに対して、「自殺遺伝子」の遺伝子ドライブを組み込むという計画があるようです。

こういった研究は一歩間違えると大きなリスクがあることは言うまでもありません。遺伝子は生まれつきであり変化しないというイメージが大きく塗り替わり、親から子への遺伝を超えたスーパー遺伝も可能になりつつあるのが生物学の現状と言えるようです。


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