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ごっとさんのブログ

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   薬と猫と時々時事

世界中の雨水に含まれる永遠に残る化学物質

2022-08-29 10:27:38 | 化学
もう20年も前ぐらいから科学者の間で「分析公害」という言葉が流行っていました。

これは分析機器の精度や感度が飛躍的に向上し、それまで検出されなかったものが見つかるようになってきたのです。

これは例えば排水基準などで、危険性の高い物質などは「検出されてはいけない」というような基準となっていました。ところが最新機器を使うとこれが検出されてしまうのです。そこで「昔の方法(名前はついています)で調べたときに」という注釈が加わったのです。

このため機器分析で簡単に測定できるものを、面倒な手法で調べなければいけないという、ばかばかしいことが生じてしまいました。

さて世界各国の雨水には、飲み水として安全ではないレベルの「永遠に残る化学物質」が含まれていることが示唆されたという記事がありました。

人体への有害性が指摘される有機フッ素化合物「PFAS」は家庭や環境に広がっているようです。環境化学者の研究チームによると、アメリカの汚染ガイドラインに従えば、地球上のどの場所でも安全に飲める雨水はもうないとしています。

このPFASと呼ばれるパーフルオロアルキル化合物は数千種に及ぶとされています。当然人工的に作られたもので、食品包装や撥水加工された服、家具、カーペット、鍋やフライパンの焦げ防止コーティング、消火器の薬剤、電子機器、一部のシャンプーや化粧品などです。

その製造過程や日常的な使用を通して大気に放出されます。また海水に入り込み、波によってエアロゾル化され、大気を介して広がり雨水となって地上に戻ってきます。分解されることなく長時間残存し、人や動物、環境に蓄積していくため「永遠に残る化学物質」とも呼ばれています。

PFASは南極と北極の海氷からも見つかっています。このPFASは一部のガンや生殖能力の低下、ワクチン反応の低下、高コレステロール、子供の発育の遅れに関連があると報告されています。

アメリカの環境保護庁(EPA)は健康への影響に関する新しい証拠に基づき、PFASのガイドラインを強化したようです。この許容範囲は「1兆分の70」を引き上げたのですが、これは驚くべき数字といえます。

従来濃度の単位としてはPPMやPPBが使われていますが、このPPB(10億分の1)程度が検出限界とされていました。その1000分の1以下が測定できるというのは、新たな「分析公害」といえるような気がします。

もともとPFASなどのフッ素化合物は安全とされていましたが、高濃度であれば何らかの作用は出て来るでしょう。その何千億分の1の量が検出できるようになったのは、科学の進歩といえますがそれを問題視するのは分析公害以外の何物でもないような気がします。

PFASのメリットを享受している現在、代替が難しい物質を問題視するのは単なる科学者の自己満足のような気がします。

植物が「アンチエイジング物質」を豊富に持つ理由

2022-07-31 10:27:03 | 化学
植物の中でヒトに対する生理活性物質(薬や毒など)を持つもの非常に多く存在します。

割と身近な植物でもキョウチクトウやスズラン、水仙といったものには、かなり強い毒性成分が入っています。私の勤務していた研究所もこういった自然の化合物のなかで、有用なものはないかを探索していました。

なぜ植物や微生物はこういった化合物を作り出しているのかは、多分これからも謎のまま残りそうです。最近話題になっている「アンチエイジング物質」もほとんどが植物由来ですが、なぜ植物はこのような物質を作るのか面白い説が出ていました。

化粧品やサプリメントに含まれるアンチエイジング物質というと、ポリフェノールのような抗酸化物質とビタミンなどが主流となっています。抗酸化物資にはビタミンCやEなど、ポリフェノールやアントシアニン、カロテノイドといった物質が思い浮かびますが、全て植物由来です。

これには植物の壮絶な戦いが関与しているとしています。植物に感染する病原体は非常に多いのですが、植物は動くことができませんので病原菌が多い環境でも逃げることはできません。

そこで植物病原菌の襲撃を察知すると、植物は活性酸素を大量に発生させます。活性酸素はあらゆるものを錆びつかせてしまう毒性物質で、植物は攻撃力の高い武器となります。活性酸素は攻撃するだけではなく、緊急事態を他の細胞にも伝えていく合図の役割も持っています。

病原菌に攻撃された植物は、活性酸素で防御するだけではなく、最後の手段として「自死」を選択します。病原菌の多くは生きた細胞の中でしか生存できず、細胞が死んでしまえば病原菌も死に絶えるわけです。

感染された細胞は自らの命と引き換えに植物体を守る、この現象をアポトーシスと呼んでいます。実際には病原菌の侵入を受けた細胞ばかりでなく、周辺の健全な細胞もアポトーシスを起こし、病原菌の広がりを食い止めているのです。

ところがこれで終わりではなく、植物が戦いに使用した大量の活性酸素が残されています。そこで登場するのがポリフェノールやビタミン類などの植物が持つ抗酸化物質となるわけです。

動物は過ごしやすい環境を選んで移動することができるため、植物程活性酸素の出現が少ないようです。このように植物が置かれた環境で身を守るために活性酸を発生させ、その後それを分解するために抗酸化剤を大量に生産しているというはなしは、何となく納得のいくものです。

これ以外にも植物は前述のように、非常に多岐にわたる化学物質を生産しています。こういった物質は動物にどんな作用があるかだけを調べていますが、植物にとってどんな役割があるのかを研究すれば、こういった物質生産の理由が分かるのかもしれません。

ペットボトルを分解する触媒反応を開発

2022-07-27 10:29:05 | 化学
私の家ではプラスチックとペットボトルを分別してゴミに出しています。ところが先日ゴミ収集車が集めているところを見ていたのですが、なんとペットとプラを一緒に収集車に入れているのです。

多分私の住んでいる市では、プラやペットは単に燃焼して処理しているのかもしれません。市民には分別を呼び掛けておきながら、まぜて処理するというのはひどいものですが、実際の再利用などできずこんなものなのかもしれません。

東京農工大学などの研究グループが、ペットボトルや食器などに使われているポリエステルを単量体(モノマー)に戻すことができる触媒反応を開発したと発表しました。

今回開発した触媒反応を応用できれば二酸化炭素を出す焼却処理をせず、効率的なリサイクルが可能になると期待されています。日本のプラゴミ総量は年間800万トンを超え、1人当たりのプラ容器ゴミは米国に次いで多いとされています。

研究グループによると、プラスチックのリサイクル率は86%とされますが、溶解して再び素材として利用する「マテリアルリサイクル」は21%で、63%は焼却処理して排熱を利用する「サーマルリサイクル」となっています。

ペットボトル用のポリエチレンテレフタレート(PET)は強いアルカリ性のもとで分解できますが、分解後は大量の酸で中和する必要がありました。最近新しい触媒反応としてリチウムメトキシドを使った分解方法が報告されましたが、大量の添加剤が必要となっています。

研究グループはPETが「エステル構造」と呼ばれる構造を繰り返している点などに着目しました。エステル構造をメタノールなどの低分子量のアルコールに置き換えることができれば、最終的には原料であるカルボン酸のメチルエステルとジオールに分解できると考えました。

そこでポリブチレンスクシネート(PBS)を使って多くの触媒候補をさまざまな条件で検討した結果、原子番号57の希土類元素ランタンの錯体が触媒として有効であることを突き止めました。

この触媒反応では90℃の温度下でPBSを4時間で原料であるコハク酸ジメチルとブタンジオールに分解できました。

この反応をペットボトルのPETで試したところ、150℃でやはり4時間で原料のテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールに分解でき、市販のペットボトルを使った実証実験でも同一条件で同じように分解できました。

研究グループは当面は縮合反応で合成されるプラスチックの分解の研究を進めるが、将来的には分解前のプラスチックよりも価値ある化学物質を作り出す「創造的分解」の開発にも挑戦するとしています。

安価な触媒と溶媒で反応は進むようですが、生成した原料エステルの用途があるのかは問題かもしれません。

電気を通さずに電気分解を起こす手法を開発

2022-07-09 08:21:35 | 化学
私が専門とする有機化学の中の電気分解のはなしですが、もっとも有名な反応は水を電解して水素と酸素を発生させるというものです。

これは中学生の実験でもやりそうなことですが、有機化学中でもかなり難しい反応となっています。

東京工業大学の研究グループが、電気の供給無しに電気分解反応を起こして高分子化合物を合成する手法を開発したと発表しました。

電解質を含む溶液を高圧で流すと生じるエネルギーを利用するのが特徴で、宇宙や深海など電力がない環境での化合物合成などに活用できるようです。

化学反応には物質同士が電子のやりとりすることで進行するものが多いのですが、工業利用には有害で危険な試薬を使う必要があり、廃棄物をなるべく減らしたいという課題がありました。

試薬不要の化学反応である電解反応も電気エネルギーが必要で、棒状や板状の電極に給電するための煩雑な電気装置や配線が不可欠です。

研究グループはこれらの課題を解決できる新たな電解反応の開発に着手し、電解液を微小な流路に流すと、流路の上流と下流で電位差が生じてエネルギーが生まれることに着目しました。しかしこの電位差は数十ミリボルトで、反応に利用するためには電位差を高める必要がありました。

研究グループは特定の有機溶媒と電解質を組み合わせることによって電位差が高まることを確認し、電解反応に必要な3ボルト程度の電位差を実現させました。

ある種の電解質とピロールという芳香族化合物を溶かした電解液を、中に綿が詰まった直径0.5ミリの微小な管に流すと給電なしに電解反応が起き、上流側の電極に電気を流す性質がある高分子化合物(ポリピロール)の膜を作ることに成功しました。

現在電解反応はアルミニウムや塩素などさまざまな物質の生産や有機物合成の他、多様な生産や処理工程に活用されています。今回の研究成果は、適当な有機溶媒に電解質を溶かした電解液を送るだけで、電解反応を起こせる可能性を実証したものです。

研究グループによると、現段階では100気圧程度の高圧下で電解液を流す必要がありますが、より低圧下でも同様の反応を起こすよう改良することにより、例えばファインケミカルの合成や有機物質の分解など幅広い分野での活用も可能としています。

この手法は電気不要で有害物質を生まない「環境にやさしい手法」として期待できるようです。

私の感覚としては、この手法がどの程度応用できるかはやや疑問のような気がしますが、新しい電気を使わない電気分解の方法というのは、非常に面白い発見といえる気がします。

南極大陸の新雪からマイクロプラスチックを検出

2022-06-28 10:27:33 | 化学
マイクロプラスチックの海洋汚染問題はこのブログでも取り上げましたが、私は基本的にプラスチックは生活に根付いた必要な物質であると考えています。

従ってプラスチックの削減というのはあまり意味のない方向であり、プラゴミの廃棄方法を徹底すべきと考えています。

最近南極大陸の新雪の中からマイクロプラスチックが発見されたという記事を見ました。南極はいわば地球上で最も清浄な地域であり、ここが汚染されているということは世界全体が汚染されていることの証明のようになっています。

こういった話で思い出されるのがずいぶん昔なりますが、殺虫剤のDDTの事件です。DDTは戦前に発見され、その強い殺虫活性と安全性からノーベル賞も受賞した化合物です。これは世界中に広まったのですが、安価でよく効くということで大量にひどい使われ方をしていました。

いつ頃か分かりませんが、その後環境科学者から地球が化学物質で汚染されているという指摘が出てきました。その極めつけが南極の氷からもDDTが検出されたという報道でした。

これが原因かどうかわかりませんが、ほとんどの国でDDTの使用禁止を含む規制が強化されました。面白いのはDDTは安全性の高い農薬だったはずが、非常に危険な毒物のような話しが広まっていきました。

規制する上ではこの方がやり易いのか、これが修正されることはなく、現在でもDDTは危険な化合物と認識されているようです。

ニュージーランドのカンタベリー大学の研究チームは、西南極のロス棚氷に積った新雪の上部2センチから採取した19のサンプルを分析したところ、全てのサンプルからマイクロプラスチックが見つかったと発表しました。

研究チームはサンプルを解凍後顕微鏡を使って発見したマイクロプラスチックの組成を、赤外線分光計によって測定しました。その結果13種類のマイクロプラスチックが109個見つかったそうです。

雪解け水1リットル当たりの平均は29.4個で、最も多かったものはポリエチレンフタレート(PET)で、ペットボトルや合成繊維によく使われています。

この主な発生源は、観測基地の近くで採取されたサンプルから最も多く見つかったことから、プラスチックは旗や調査機器、ジャケットのような合成衣料、あるいはゴミに由来する可能性があるとしています。

研究チームは、世界で最も隔離された遠い地域までプラスチック汚染が広がっていることを浮き彫りにしたと述べています。この結果により、DDTの時のようにプラスチック規制はますます強化されていくのでしょうか。

衣類や梱包材など安価で丈夫で軽く、完全に身近なものとなっているプラスチックですので、たぶん何の意味もないものから脱プラスチックが進むのかもしれません。