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ごっとさんのブログ

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ガラスはなぜ透明なのか、非晶質の構造の秘密

2022-06-19 10:30:46 | 化学
身近なところにいくらでもあるガラスですが、窓ガラスなど多くの場合完全な透明度を持っています。

多くの固体が非透明なのにガラスが透明である理由は、ガラスは分子が乱れた状態のまま固まった「非晶質(アモルファス)」という構造を持っているためです。

余談ですがこのアモルファスは有機合成をしている者にとっては、なじみ深く困った構造といえます。新しい化合物を合成した場合多くは固体なのですが、反応混合物から目的の化合物を精製するのに最も簡単な方法が結晶化です。

結晶となれば溶媒などでざっと洗うだけで高純度のものが得られますが、時々アモルファスとなってしまうのです。アモルファスは固体にはなるのですが、周りの不純物をすべて巻き込み全く精製にならないのです。

したがっていかにアモルファスとせずに結晶化させるかが、有機化学者の職人的な技となるのです。

さて物質は温度が高まるにつれ分子や原子の運動が活発になり、固体、液体、気体と状態が変わります。水は常圧で0℃以下だと水分子が結合して氷になり、単一の結晶構造を作ります。0〜100℃では水分子が乱れて液体となります。

ガラスは固体であっても結晶ではなく、分子が乱れた構造のまま固まり非晶質と呼ばれ、構造上は水と同じとも言えます。一般的な固体は多くの結晶が集まっており、その境目で光が散乱し不透明になります。

しかしガラスには結晶構造が無く、主成分の二酸化ケイ素は光を吸収しないために光が透過できるのです。ガラスは高温の液体を、結晶を作る間もないほど急冷して作る方法が一般的です。

二酸化ケイ素を含むガラスの原料を1000℃以上に加熱して液体にし、数時間で室温まで冷ましてつくります。二酸化ケイ素が地下深くの高温高圧でゆっくり冷えると、結晶が成長して水晶となります。

ガラス以外でも液体を急冷する方法で理論上はすべての物質を非晶質にすることができ、複数の金属原子からなる「アモルファス金属」もそのひとつです。その例として書き換え可能なDVDがあり、記録面には複数の金属元素が結晶の層を作っています。

強いレーザーを使って高温で溶かし、室温で急冷すれば部分的に非晶質になります。また弱いレーザーを当てて比較的低い温度で溶かし、室温でゆっくり冷えれば結晶に戻せることになります。両方を使い分け、情報を刻んだりリセットすることができる仕組みとなっています。

このようにガラス状の非晶質と結晶の使い分けの利用は非常に進んでいるのですが、何故物質がガラス状態になるのかは、今も物理学の未解決問題とされ、さまざまな研究が進められているようです。

まあ何故ガラスは透明かという単純な問題も、奥が深いといえそうです。

貴金属すべての合金で性質一変

2022-05-03 10:25:32 | 化学
古くから金属を混ぜ合わせて新しい性質を持った金属を作る合金は行われており、5000年前に銅とスズの合金である青銅がその始まりとされています。

私はこういった無機化学はあまり良く分からないのですが、京都大学と信州大学などの研究チームが貴金属8種を全て混ぜた新しい合金を作ることに成功したと発表しました。

これ以前に研究チームは、混ざらないとされていた貴金属のロジウムと銀の合金を作り、元素の周期律表で両者に挟まれたパラジウムの性質を持たせられないかの研究を行いました。

ロジウムと銀を溶かしてイオンの状態にして200度に熱した還元剤のトリエチレングリコールに噴霧します。トリエチレングリコールから電子を与えられたロジウムイオンと銀イオンが原子に還元され、これを急速に冷やすとロジウムと銀は分離せず原子レベルで混ざった綺麗な合金ができました。

この様に作った合金は、パラジウムと同じように水素を吸収する性質を持っており、2010年に発表し大きな注目を集めました。このような手法で研究チームは2014年にはルテニウムとパラジウムから本物より安価で高性能の人工ロジウムを合成しました。

また2020年には白金族6元素をすべて混合した合金の作製にも成功しています。研究チームは、金属を原子レベルで混ぜると全く違う性質となることから、貴金属すべてを原子レベルで混ぜたら「スーパー貴金属」ができると考えました。

多種の元素でできた合金の性質は、各元素のもとの性質の単純な足し算ではなく、特に電子の状態にも着目しました。今回は白金族のルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金の5元素に加え、残りの貴金属3元素であるオスミウム、金と銀を添加しました。

白金族の元素及びその合金は、水素を発生しますが貴金属3元素はこの能力を持っていません。ところがこの8種を混合した合金は、水素発生で白金族5種の合金の4倍以上の圧倒的に高い性能を示しました。

研究チームは多くの元素が混ざったことで、元の原子の電子状態が大きく変わりいわば「原子が生まれ変わった」とみています。

この合金の結晶構造や電子の状態を詳しく調べたところ、もともとの電子の状態が大きく変わり全く新しい性質を持ち、別の元素のようになっていることが分かりました。

この新しい貴金属合金は何かの化学反応の触媒となる可能性は十分考えられますが、大部分は研究者の遊び心のような気がしています。

現在はすべての元素の7割以上が原子レベルで混ぜ合わされていないようですので、今後どんな合金ができてくるのかはなかなか面白いところと言えそうです。

生命の起源にも関連する代謝のありえない反応

2022-04-28 10:27:33 | 化学
このブログでも度々触れていますが、生命の起源というのが私が最も興味を持っていることのひとつで、いろいろ調べていますが本当に進展していません。

最近脂質二重膜が化合物を濃縮する性質があり、これが生命の発生部位ではないかという説を紹介しています。ここでは生命に欠かせない代謝の反応としての発見に関するものです。

これはケンブリッジ大学の研究チームの発見ですが、当然有機化学に関することですのでやや分かりにくいかもしれません。

非常に簡単にすると、通常は複雑な高分子(大体が酵素です)の存在下に起こる代謝の反応が、単純に代謝に関連する化合物何種類か混合するだけで、必要な化学反応が生じたというものです。

ここではこの反応を「勝手に起こっている」と表現していますが、酵素というタンパク質でできた触媒なしに進行したことを確認しました。ここでは解糖系といわれる糖を分解してエネルギーにする反応の一部を取り上げています。

生体はいわゆるエサを摂取し、それを分解してエネルギーにすることで生体系を維持していますが、そのすべての反応は酵素によって触媒される反応となっています。

従ってエネルギーを得るすなわち生きていくためには必須の工程ですが、酵素が先に作られたのかまたは何らかの化学反応が酵素なしに生じたのかは、生命の起源を考えるうえで重要な問題でした。

研究チームは解糖系に登場する12種類の化学物質(代謝中間体)をそれぞれ純水に溶かし、5時間にわたって70℃に加熱しました。これは海底火山付近の条件を模倣したものです。この結果解糖系や関連する代謝経路の化学反応が17種類も始まったとしています。

ただしこれは高感度の分析装置での観察ですので、どの程度の反応が進行したのかの詳細は分かっていません。またこの時原始の海に溶けていたと考えられる化合物のリストから、色々な物質を添加しました。

そのうち鉄を添加すると完全な代謝回路を含む28の化学反応を起こすことに成功しました。2017年までには、硫酸塩によって駆動するクエン酸回路を作ることに成功したほか、「糖新生」と呼ばれるプロセスによって、単純な化学物質から糖を作ることにも成功しています。

このような酵素という完全触媒を必要としない代謝回路として、二酸化炭素をアセチルCoAに変換する「アセチルCoA経路」など、他の代謝過程についても同様の成功を収めています。

今回の研究成果は酵素といった複雑な高分子がなくとも、生命のエネルギー代謝に必要な化合物が作られる可能性を示しましたが、生命の基幹となるタンパク質や核酸の高分子までは程遠いものです。

それでも生命の起源を探索する上では徐々に進んでいると言えるのかもしれません。

次世代素材のセルロースナノファイバーのはなし

2022-04-25 10:25:50 | 化学
地球にやさしいという言葉が流行っていますが、若干意味が分からない部分もありイメージの類かもしれません。

こういった地球環境にやさしい素材として、セルロースナノファイバー(CNF)が次世代の素材として注目を集めているようです。CNFとは植物を構成する主要骨格であるセルロースを、ナノレベル(10億分の1)まで微細化した線維のことです。

このナノファイバーはセルロースの分子鎖が伸び、水素結合によって結晶化しており鉄鋼の5分の1の重量で、その5倍以上の強度を有しています。

温度上昇による体積膨張の割合を示す線膨張係数はガラスの50分の1であり、変形のしにくさを示す弾性率は‐200℃から200℃の範囲で一定となっています。また可視光の散乱を生じさせないため、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などの透明樹脂をその透明性を損なわずに補強できます。

このように自然由来で優れた特性を有している点から脚光を浴びているようです。CNFは植物細胞壁を解繊していくことで得られ、この解繊方法によってさまざまな形態のナノファイバーが生まれますがここではその詳細は省略します。

私はこの「解繊」という手法がよく分からないのですが、植物繊維を非常に細かくなるまですりつぶしていく手法のようです。

これまで木材や竹から製造したパルプ(木材繊維)の他に、イネ藁、バガス(サトウキビの搾りかす)、ジャガイモやキャッサバなどのデンプンの搾りかす、あるいはミカンやブドウの果汁カスなどの農産廃棄物や産業廃棄物についても検討されており、いずれの原料からも幅15nm〜50nm程度の均一のナノファイバーが得られています。

CNFは多岐にわたる分野での用途開発が進んでいます。金属材料やガラス、セラミックなどの日常には欠かせない工業製品をはじめ、食品などの商品にも拡充しています。

例えば有機薄膜太陽電池や有機EL用透明ガラス基板などの透明ガラスの代替としてCNF透明補強した透明樹脂、包装容器コーティング素材としてポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ塩化ビニル(PVC)の代わりにCNFのフィルムなどが検討されています。

また軽くて強いといった特性を活かした構造材料への検討や、ゴム補強材、化粧品添加物、人工血管や人工腱、ケーキやジャムなどにもCNFの応用が進められ、植物細胞だけでなく生活を支える前途有望な素材であることは確かなようです。

しかし問題はコストの面があり、CNFは既存材料より高く(3000円〜10000円/Kg)、価格を下げるためには量産体制を整え、大量消費先を見つける必要があります。

現在は素材メーカーは用途があれば安くできるとして、製品メーカーは安いなら使うというかみ合わない状況となっています。CNFは潜在的用途はあり、何よりも安全性が高いことから今後拡大する分野ではないかと思っています。

更年期症状に有効か「エクオール」のはなし

2022-04-19 10:26:05 | 化学
女性の更年期症状の改善に「エクオール」というイソフラボンが有効という記事を見ました。

こういったイソフラボン類などが女性ホルモン様の作用をするというのはよくある話なのですが、エクオールという化合物は初めて目にしました。

私は仕事がら色々な化合物などが目に入ると、場合によっては構造式も含めて記憶するといういわば職業病のような癖があります。イソフラボンは何十種類かありますが、大体は知っているはずが、初めて見たというのはやや驚きでした。そこでエクオールについて少し調べてみました。

これは最近更年期障害に有効ということで、すでにかなり多くのサプリメントまで出ている化合物でした。このサプリメント業者の対応の速さには驚かされますが、生理活性を持っているイソフラボンが何の規制もないサプリメントとして販売されているのは問題かもしれません。

エクオールは古くから知られていたようですが、1980年に人の尿から検出され、エストロゲンまたはアンドロゲンに起因する疾患または障害の治療に効果があることが1984年に報告されています。

それ以後エクオールに関する研究結果はいくつも発表されており、女性ホルモンの低下とともに現れる不調(ホットフラッシュ、頸や肩の凝り、肌のしわなど)への効果が確認されています。

このエクオールは面白いところがあり、女性の中で体内で作れる人とそうでない人がいるようです。体内で作るといってもヒトの酵素ではなく、腸内細菌の種類によって変換され、既にどんな腸内細菌が必要かもわかっているようです。

日本人では体内で作れる人が50%、欧米人は20〜30%で、日本人は昔から大豆製品を食べる習慣があることも要因のひとつとされています。

エクオールのヒトへの影響については、厚生労働省研究班による大規模なコホート研究では、食品からのイソフラボンの摂取量が多いほど日本人女性の乳ガンや脳梗塞と心筋梗塞、男性の一部の前立腺ガンのリスクが低下するという相関関係が報告されています。

これは大豆イソフラボンのエストロゲン様作用が、イソフラボンが腸内細菌で代謝されて産生されたエクオールによるものではないかという仮説が立てられています。

ただしエクオールは、エストラジオールと比較してエストロゲン受容体のエストロゲンに対する親和性の約2%しかないという報告もあり、この仮説が正しいかどうかはいまだ不明なようです。

私は男性の更年期というようなことも無く、既にその歳をはるかに超えていますが、好きな納豆でも食べることは何か良いことに繋がりそうな気もしますので、これからも積極的に食べようかと思っています。