若者が「ガラケー」と呼ぶ日本仕様の従来型携帯電話が危機に立っている。
ガラケーは「ガラパゴス携帯」の略。外界から隔絶した孤島ニツポンで繁栄していたが、外来種の「スマートフォン」に押され、シェア低下が止まらない。
スマートフォンは、デジタル家電の分野で過去10年に起きた最大級のイノベーション。しかし、ガラケーを得意とする日本の携帯電話メーカーはその革新に乗り遅れた。
●輸入比率3割超え
米調査会社ガートナーによると、2011年4-6月のスマートフォン世界シェアは1位ノキア、2位アップル、3位サムスン電子。上位に日本勢の名前はない。
07年に国産比率95%だった国内市場でもアップルやサムスンのスマートフォンが人気を集め、11年4-9月の輸入比率は3割を超えた。
タッチパネル、高精細の小型液晶パネル、半導体のフラッシュメモリー。スマートフォンを構成する技術のすべては日本にあった。しかし、日本メーカーが本格的にスマートフォンを投入したのは今春のこと。
アップルが初代「iPhone」を発売した07年6月から4年近く遅れた。
その間にサムスンは「ギャラクシー」シリーズを投入し、アップルなどと並ぶトップメーカーの座を確保した。なぜここまで出遅れたか。
野村総合研究所の石綿昌平上級コンサルタントは、「必ずしもメーカーのせいだけではない」と指摘する。
日本メーカーにとって最大の顧客はNTTドコモ。そのドコモが本気でスマホに取り組むまで、日本メーカーは動くに動けなかったからだ。
ソフトバンクモバイルが08年7月に日本でアップルのiPhoneを発売すると、消費者は「ガラケー」から「スマホ」へ雪崩を打って乗り換え始めた。
ソフトバンクの迫い上げに焦ったドコモは日本勢の開発を待たず、サムスンやHTC(台湾)のスマホを大々的に売り始めた。
●ドコモ頼みの体質
日本勢がすべての要素技術を持ちながらイノベーションに乗り遅れた原因は、「ドコモ頼み」の体質にある。
アップルやサムスンは自らリスクを取ってスマホを開発し、巨費を投じて世界規模の販売網とブランドカを構築したが、日本勢はドコモの指示を待ってリスクを取らなかった。問題の根は深い。
NTTが「日本電信電話」だった時代、NECなど日本の有力携帯電話メーカーは「電電ファミリー」と呼ばれていた。年間約3兆円(1998年度)に及ぶNTTの設備投資は各社の収益源であり、メーカーは「下請け」に甘んじてきた。
NTTの設備投資が2兆円を切った今でも、各社の「ドコモ頼み」は変わらない。スマートフォンの敗戦はメーカーがいまもファミリーの呪縛から抜け切れていないことを示す。
「十年一日のごとく」の時代なら護送船団方式でも利益は出る。だが競争を拒むその体制から、今を勝ち抜くイノベーションは生まれない。
【記事引用】 「日本経済新聞/2011年11月20日(日)/11面」