照る日曇る日 第2055回
「西の山々に陽が落ちようとしている
山々は暗い影にしかみえない」
という始まりを経て、作者はたちまち残照のなかでアユ釣りをしている。
「水の中でくねる魚体の横腹が一瞬
黄金色に透けて見える
アユだ」
すると場面は一転して、終日パソコンに向かって仕事をしている作者の職場に変わる。
「足裏がざわざわとして
俺の黒い皮靴が水にひたっている
水面がきらめいて
リノリウムの床の上で
跳ねる魚」
そう、いつのまにか事務室は滔々と激流が走り、銀鱗がきらめく故郷の川になっているのだ。
「やがて窓から射しこんでいた光も消えると
魚たちも
流れも
靴に絡まっていた水草も
見えなくなる」
一日と世界の終わりを照らし出す薄昏の中で、懐かしい昔と苛酷な今、田舎と都会、自然と人工、夢と現実が忽ちにして往還する1篇の幻想譚である。
円安と物価高で苦悶する我らをよそに外人笑う 蝶人