あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

白鳥信也作「残照」を読んで

2024-05-30 08:54:17 | Weblog

 

照る日曇る日 第2055回

 

「西の山々に陽が落ちようとしている

山々は暗い影にしかみえない」

 

という始まりを経て、作者はたちまち残照のなかでアユ釣りをしている。

 

「水の中でくねる魚体の横腹が一瞬

黄金色に透けて見える

アユだ」

 

すると場面は一転して、終日パソコンに向かって仕事をしている作者の職場に変わる。

 

 「足裏がざわざわとして

俺の黒い皮靴が水にひたっている

水面がきらめいて

リノリウムの床の上で

跳ねる魚」

 

そう、いつのまにか事務室は滔々と激流が走り、銀鱗がきらめく故郷の川になっているのだ。

 

 「やがて窓から射しこんでいた光も消えると

  魚たちも

  流れも

  靴に絡まっていた水草も

  見えなくなる」

 

一日と世界の終わりを照らし出す薄昏の中で、懐かしい昔と苛酷な今、田舎と都会、自然と人工、夢と現実が忽ちにして往還する1篇の幻想譚である。

 

円安と物価高で苦悶する我らをよそに外人笑う 蝶人

コメント
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