2015年最終日の12月31日夜、中国の習近平総書記は国内テレビ・ラジオを通じて2016年の新年あいさつを公表した。元旦の中国各紙には新華社の配信した記事が掲載された。短いメッセージなので、ざっと読むとなんの変哲もなく感じられるが、いくつかのキーワードがある。
大国のリーダとしての決意は次のように語った。
「世界は大きく、問題もたくさんある。国際社会は中国の声を聞き、中国のプランを見たいと期待しており、中国はかかわらなければならない。困難に陥り、戦火の中にある人々に対し、我々は悲しみ哀れみ、同情し、責任をもって行動しなければならない。中国は永遠に世界に対し胸襟を開き、可能な限り困難にある人々に救いの手を差し伸べ、我々の『朋友圏(友人の輪)』を広げていく」
大国の責任を前面に出す姿勢は2014年11月のAPEC北京会議以降、顕著になってきたものだ。興味深いのは前年の新年あいさつで「偉大な人民」を「点賛(いいね)」とネット用語でたたえたのに続き、今年もまた若者受けするネット用語の「朋友圏」を用いて庶民性をアピールしたことだ。ネットの声を重視しているというメッセージを意図的に発信しようとしているのがうかがえる。北京など大都市の大気汚染に言及していないのは物足りないが、中国のネット空間は、そうしたことへの不満よりも、指導者の他愛もない言葉に敏感に反応する。
それともう一つ。2015年の成果として2022年冬季五輪の開催決定、人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)を構成する主要通貨に編入されたこと、自主開発の国産大型旅客機が完成、スーパーコンピュータで世界記録の6連覇、暗黒物質の観測衛星発射、屠呦呦(トゥ・ユーユー)が中国初のノーベル生理医学賞受賞・・・これらの業績を列挙し、「堅持していれば、夢はいつか実現される」と語った。
「堅持していれば、夢はいつか実現される」・・・日本の首相が青山学院の箱根駅伝チームに同じ言葉を用いても、おそらくだれも反応しないだろう。何のことはない言葉なのだが、ネットでは元気の素を意味する「チキンスープ」との評価がセットで広まり、たちどころにミニブログ・微博での注目度5位の言葉になった。
もちろん宣伝当局が操作している側面もあるだろうが、ネット空間はそれほど単純ではない。世論誘導されているとしても、そこに市場がなければ効果は生まれない。成長過程にある社会は、同時に様々な社会矛盾を含みながらも、明日への期待や希望を持っている。個々人に多種多様な夢や希望があり、その気持ちが「堅持していれば、夢はいつか実現される」と励ましの言葉に反応したのである。一般庶民は日々、複雑な国内外の問題に頭を悩ませて過ごしているわけではない。ささやかな幸せを求めて暮らしている。この辺の素朴な庶民感情を素直に理解しないと、中国の政治を複雑怪奇な色眼鏡で見てしまうことになる。
習近平の大衆人気については次号の『文藝春秋』でも紹介をしておいた。
大国のリーダとしての決意は次のように語った。
「世界は大きく、問題もたくさんある。国際社会は中国の声を聞き、中国のプランを見たいと期待しており、中国はかかわらなければならない。困難に陥り、戦火の中にある人々に対し、我々は悲しみ哀れみ、同情し、責任をもって行動しなければならない。中国は永遠に世界に対し胸襟を開き、可能な限り困難にある人々に救いの手を差し伸べ、我々の『朋友圏(友人の輪)』を広げていく」
大国の責任を前面に出す姿勢は2014年11月のAPEC北京会議以降、顕著になってきたものだ。興味深いのは前年の新年あいさつで「偉大な人民」を「点賛(いいね)」とネット用語でたたえたのに続き、今年もまた若者受けするネット用語の「朋友圏」を用いて庶民性をアピールしたことだ。ネットの声を重視しているというメッセージを意図的に発信しようとしているのがうかがえる。北京など大都市の大気汚染に言及していないのは物足りないが、中国のネット空間は、そうしたことへの不満よりも、指導者の他愛もない言葉に敏感に反応する。
それともう一つ。2015年の成果として2022年冬季五輪の開催決定、人民元が国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)を構成する主要通貨に編入されたこと、自主開発の国産大型旅客機が完成、スーパーコンピュータで世界記録の6連覇、暗黒物質の観測衛星発射、屠呦呦(トゥ・ユーユー)が中国初のノーベル生理医学賞受賞・・・これらの業績を列挙し、「堅持していれば、夢はいつか実現される」と語った。
「堅持していれば、夢はいつか実現される」・・・日本の首相が青山学院の箱根駅伝チームに同じ言葉を用いても、おそらくだれも反応しないだろう。何のことはない言葉なのだが、ネットでは元気の素を意味する「チキンスープ」との評価がセットで広まり、たちどころにミニブログ・微博での注目度5位の言葉になった。
もちろん宣伝当局が操作している側面もあるだろうが、ネット空間はそれほど単純ではない。世論誘導されているとしても、そこに市場がなければ効果は生まれない。成長過程にある社会は、同時に様々な社会矛盾を含みながらも、明日への期待や希望を持っている。個々人に多種多様な夢や希望があり、その気持ちが「堅持していれば、夢はいつか実現される」と励ましの言葉に反応したのである。一般庶民は日々、複雑な国内外の問題に頭を悩ませて過ごしているわけではない。ささやかな幸せを求めて暮らしている。この辺の素朴な庶民感情を素直に理解しないと、中国の政治を複雑怪奇な色眼鏡で見てしまうことになる。
習近平の大衆人気については次号の『文藝春秋』でも紹介をしておいた。