書評:グローバル化する医療(療ツーリズムとは何か)」多摩大学 教授 真野俊樹先生

2009-10-04 13:51:15 | Weblog
「グローバル化する医療(療ツーリズムとは何か)」
著者:多摩大学 教授 真野俊樹先生
(日経新聞:10月4日付)

近年メディカルツーリズムへの関心が高まっている。メディカルツーリズムとは、安価でより質の高い医療を求めて、海外での治療や入院を選択することだ。2006年に医療を受ける目的でアジアを訪れた外国人旅行者は180万人、市場規模は68億ドルに達する。
本書は、医療の供給側である新興国と需要側である先進国の観点から、メディカルツーリズムが増加している原因を考えている。
供給側は、産業政策の一環としてメディカルツーリズムを推進している。医療産業が発展すれば、その収益は貧困層にも還元され、国全体の健康水準が向上すると考えている。
また、タイやインドなど観光資源の多いところでは、株式会社立病院を中心にアメニティーの高い病室を用意した結果、付き添い家族の海外旅行も兼ねた入院が増え、観光収入の増加も見込まれている。
需要側の先進国では、それぞれの国の医療制度の抱える問題が、メディカルツーリズムを生み出している。アメリカでは高い保険料と医療費が、イギリスでは手術を受けるまでの長い待ち時間がその背景にある。日本では、美容整形などの保険対象外の医療を海外で受けるケースが増えているが、その規模は小さい。
メディカルツーリズムは患者の移動だが、医療従事者の国際的な移動も起こっており、それがもたらす問題も著者は論じている。途上国の優秀な医師や看護師が先進国に移動する結果、本国の医療水準が下がる可能性がる。言葉の壁が低い欧州と北アメリカでも、医師はより良い収入と待遇を求めて移動している。
日本でも今後優秀な医師の国際的な移動が起こる可能性があり、それを防ぐには、現在荷重労働になっている医師のワークライフバランスを改善することが重要であると述べている。
本書は医療を産業政策や貿易収支の観点から考えることの重要性に気付かせてくれる。既に看護職介護職の近隣諸国からの人材輸入が始まっているし、医師についてもそうした議論がある。
製造業や高等教育産業のように、医療産業も海外の需要に目を向けるべきなのかもしれない。それは国内医療の供給増加と質の向上に貢献するだろう。
[書評:筑波大学教授 吉田アツシ]

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