全国の公立中高等学校が、TETEに移行したとき・・・

2005-11-29 22:09:07 | Weblog
2008年度
全国の公立中高等学校が、
英語で英語を教える新しい教育態勢(T.ET.E.)に移行したとき、
(1)塾業界はどう対応しているか、(2)また将来的にどう対応するだろうか?

全滅したマンモス同様の運命を辿る?!

(1)塾業界は、英会話学校ではなく、受験指導や補習授業が専門であると自負しているから、そのような学校の新指導法への対応策を、全くか、ほとんど用意していない。
塾業界の通念によれば、各段階の入試は、いずれも、100年この方変わらず、読み書き・文法中心の英語力の試験であるとされ、其の傾向は、多少の変化はあっても基本的には、今後も永く続くと考えられているからである。
しかし、そのような固定的・画一的見方は、既に根本から覆されつつあります。
其の証拠は枚挙に暇がありません。全国の高校入試の実態や大学入試の傾向を、25年分ほどに遡って今日の実態と比較すれば明らかでしょう。この記事は、そのような論証を試みることを目的とはしていませんから、詳細は割愛します。
要するに、聞き取り能力が際立って重要視されつつあり、さらには、近い将来、スピーキング能力のテストさえも果たされようとしています。
個人向けの機器が技術的にも発達し、聞き取りや発話能力のテストも、人間の手を通してではなく、機械を通して、同時一斉に、多面的かつ正確に行われうる時代に到達しているのです。そこから得られたデータの処理が正確かつ迅速にできることは言うまでもありません。
それらは、いずれも、国際化が急速かつ全面的に進展している現代社会の大きなうねりに対応して、2003年3月31日に発表された、文科省における「英語が使える日本人」育成計画の基本方針に基づくものです。しかも、文科省は、本気で其の計画達成に取り組んでいる節が窺えるのです。
ところが、これらの分野の能力を伸ばすには、根本的に英語教育のありかたを変えていかなければならないのです。そのため、2008年度から、(それまでの5年間を準備期間としつつ)全国の公立中・高等学校で、一斉にTETEをスタートさせると発表しているのです。
即ち、子供たちがまだ小学生時で、頭脳の極めて柔らかい、吸収力の高い頃から、劇的に、聞き取りや発話練習の機会を大量に提供した授業に移行していかなければ、聞き取りや発話の能力は、十分には伸ばしきれないのです。それでも、勿論、英米語圏で生まれ育つ人々と比較すれば、天と地の差がつくでしょう。
しかし、一気に2008年度の激変に突入するのではなく、段階的であり、2006年1月の大学センター入試では、リスニング問題が果たされ、2007年度からは、小学3年生以上からの英語科必修教科が実現され、2008年度へと準備が整っていくのです。
さらに、表面には出てこないので気がつきにくいのですが、全国の多くの学校の先生方のTETE実施に向けての準備・研修強化には凄まじいものがあります。その方面に関する研修会への出席の先生方の熱意の高さや数の多さを見れば、容易に想像が付きます。

文科省や学校側でのそういった動きに比し、塾業界は、対応に極めて遅れを取っています。
塾の大半は、入試・受験指導を専門とする旨の自負を持ちながら、入試傾向の変化振りに意外にも気づいていないのです。
あるいは、意図的にそのような傾向を軽視ないしは無視しているのかもしれません。
これらは、いずれも、時代の動きを機敏に察知することと、その変化の時流に備えることとの難しさを示しています。
大げさに聞こえるかもしれませんが、環境に都合よく適応し、地上の王者になりながら、今度は、突然訪れた氷河期という、逆の環境激変に対抗しきれず、絶滅していった恐竜の悲惨な歴史を、塾業界の行く末に重ねて思わざるを得ません。

では、逆に、学校でTETEがスタートしたとき、❶「子供たちが其の新しい形態の授業に付いて行けず」、あるいは、➋「其の反動(副作用)として、読み書き能力が落ち込み」、その補習に、塾業界が今までと同じように、あるいは、今まで以上に期待されるという事があり得るでしょうか?

➊学校でのT.E.T.E.の授業に付いてゆけず、英語の聞き取りや発話能力を育成しなければならないとき、日本語と文法中心で授業する旧来の塾スタイルが頼りにされる筈がありません。
英語の聞き取りや発話が出来ないとき、逆に、日本語をいくら聞いたり話す練習をしても、何の益も効用もないからです。
英会話学校が生徒を集めるばかりです。

➋読み書き能力の衰えや衰退を補う必要があって、塾に来るでしょうか?
当分の間は、旧来の惰性の名残があって、利用され続けるでしょうが、学校でのTETEが軌道に乗ってくれば、これまた文科省の強い意向の下に、それに併せた定期考査が行われ、入試が行われ、やがて「英語の読み書き」の比重低下は避けられず、塾の使命は尽き、かつてのマンモス同様に地球上から消え去るでしょう。

■長文読解にしても、いちいち日本語に置き換えて解釈していれば、単純に計算しても時間が2倍以上も掛かる上に、言語のニュアンスの違いから、解釈の方向や筋の逸れてくることもあり得ることを考えれば、英文は、英文のままで理解を進めていくTETE学習の方が絶対的に優れていて、英文を、一旦日本語に置き換え解釈・説明する、旧来の翻訳を介在させる、多くの学習塾が得意とする方式の非効率と誤りとは、明らかです。
従って、学校で、効率的、かつ正確に理解を進めやすいTETEを推進しているときに、旧来の逆効果を伴う読解指導を、いくら文法説明と共に熱心にしてみても、百害あって一利なしで、結局は、「旧来の翻訳方式」=「塾の得意スタイル」は廃れていくでしょう。
それに、後述しますが、文法規則やその例外は、英語圏の文法学者ですら迷うほどに極めて複雑であり、決して日本人教師の一存で統御できるような生易しい相手などではなく、これを物知り顔をして生徒たちに対して、倫理道徳を説くが如くに教えようとすることは、
大きな誤りであって、決してしないで欲しいものです。
後年、教師達の教えが誤りであったことを発見したときの、大きな驚きと日本の英語教育のあり方や教師への不信感とは、抜きがたいものとなります。
英語圏の人たちが習う文法教科書の極端な薄さを考えれば、英語とは、文法から入って文法から卒業するようなものでは決してなく、書物やスピーチの多数の実例から、そこに共通する法則を自分で学び取り、応用し発展させていくように出来ていることが、よく分かります。
議会主義の先祖である英国自身、日本や米国のような「文書に書かれた憲法」を持っていないことを知っていますか? 慣習法の積み重ねで、問題も無く、一国が統治されてきているのです。

■英語圏の国々でも、聴解能力や発話能力、そして読解力に比し、書き取り能力のレベルが低いことが、時として問題になることはありますが、深刻な問題にまでは発展していません。
その理由は様々でしょうが、英語の世界の(驚異的な)間口の広さと奥の深さを考えれば、聞き取り・発話・読み・書きの全ての分野で、100点満点を取る必要は全くなく、4分野のうちで、聞き取り・発話・読み・書きの3分野でそれなりの成果を上げているならば、ものを書く能力は、「文法分野を含めて」、各人の目標と生活レベルで間に合う限り、それでよいのであって、少々の誤りは、文法学者ですら時に犯すことであって、日常生活のうえで何らの差し障りもないのだという、寛容な精神と考えが根底にあるからです。
日本人の皆様なら、外国人の方々が、しばしば、「誤りを恐れずにどんどん発表しなさいよ・・・」と励ましてくれたことを記憶している方も多いかと思いますが、それは、英語の苦手な日本人向けの慰めばかりではないのです。英語圏の人たちの間での、日常の暮らしの中でのれっきとした「生活の知恵」なのです。
※この点は、極めて大切ですから、資料として次のエッセイを掲げます。ぜひ、御参照ください。   The Daily Yomiuri, Nov.29, 2005 “Even grammar gurus make mistakes”
by Michael Swan, an author of “Practical English Usage”
➌いや、塾は、英語だけではなく、国語や数学・理科・社会も教えているから、この方面でまだまだ利用され続けるであろう・・・・という期待についてはどうでしょうか?
多数の生徒を集め、力を増大させた英会話塾が、それらの科目も併せて指導し始めるでしょう。何故なら、生徒側は通塾の便宜さを求め、力をつけた英会話学校側は、時間割や学級編成などの都合から、科目の増設を始めるでしょう。また、入試対応の技術開発も、弱体化した塾から移籍したベテラン教師を活用して開始するでしょう。
塾がTETEを提供できない故に、子供たちは、最低、週1回は、英会話学校には通わなくてはならないわけですから、同じ場所で、其のついでに他の科目も受けられれば、別途にまた学習塾に通うより、ずっと便利なわけです。

➍以上、学校でTETEが始まれば、それは、塾には厳しい試練となるであろうとの予測を、率直に表明しました。
今日、英会話学校が、毎年、対前年比80%、50%増という想像を絶する割合で生徒数を増やしている現実を直視しなければなりません。それは、英会話塾の営業努力の賜物というよりは、世間の若い世代の親子の願いの現れだとみなさなければなりません。
誕生間もない赤ちゃんから、就学前の低年齢児までが、英会話学校の生徒増の原動力となっていて、小学校高学年生以上を主なターゲットにしている学習塾には、まだ直接には影響していないから・・・と、事態を軽視・無視している塾も多いのですが、それらの子供たちが長じ、小学校でも3年生以上で英語教科が必修となる2007年度以降、そして全国の中・高等学校で、TETEが日常的に始まったとき以降、新しい英語教育法であるTETEを出来ない学習塾には、もう見向きもしなくなっている可能性があります。

■金沢市の状況
低年齢から英会話を習い始めている子供たちが、2004年度からTETEをスタートさせている金沢市の小学校でも中学校においても、英語授業の中で、初めて習う子供たちを尻目に、習い覚えた会話力を基に活発に発言する様子が伝えられており、学力の2極化が生じてきています。
石川県では、未だ、金沢市だけがTETEに取り組んでいて、他の地域では将来課題とされているため、高校入試の形態は従来と同じであり、金沢市の新指導に沿ったものにはなっていません。しかし、2008年度に、全県下でTETEがスタートした以降は、入試の形態が変化することが、十分に予想されます。


平成17年11月29日 火曜日
岡村ゼミナール㈱社長