お家でテレビを見ていることが多いという高科先生。
最近見た中では NHK Eテレの新番組『心おどる あの人の本棚』がおもしろかった、と教えていただきました。
著名人を訪ねて本棚を拝見する番組で、本棚に並ぶ本を見て持ち主の人生を映し出すというもの。
先生が見たのは『孤独のグルメ』の原作漫画を描かれた久住昌之氏の回だったそうです。
その久住さんが、子どもの頃に読んで衝撃を受けて今も大切にしている中の1冊がバージニア・リー・バートンの『せいめいのれきし(改訂版)』(いしいももこ 訳・まなべまこと 監修、岩波書店) だったとか。
(リー・バートンは『ちいさいおうち』(石井桃子 著、岩波の子どもの本)で有名)
彼はこの本を読んで子どもながらに「絵ってすごいな」と思って漫画家になったのだそうです。
クリエーターがどんな本を読んでいるかは興味深いですから、機会があれば見てみようと思いました。
さて、この日のテキスト『「書く力」私たちはこうして文章を磨いた』(池上彰・竹内政明 著/朝日新書) は
第二章 本当に伝わる「表現」とは の続きで
・「自分」に取材する
・毒舌は名文である
・許される毒舌、許されない毒舌
のところを皆で読んでいきました。
自分の主張したいことを“言い切ってしまう” と、インパクトが強い分反発を受けることもあります。反対意見を持つ人にも配慮し、自分自身にも確認したうえで、それでも “絶対にゆるがないこと” を書くようにしましょう。
テキストには毒舌家の例として谷沢栄一や丸谷才一が上がっていますが、「批評することの重さを理解して書く」とか「愛がないと毒舌は吐けない」「毒舌を吐くには受け手との関係性が大切」などと書かれていて、毒舌を使いこなすのは至難の業だということが分かりました。
毒蝮三太夫や綾小路きみまろの話芸も、ギリギリのところで笑いを誘う、高等技術のたまものだといいます。漫才コンビ・U字工事が、キツいことを言った後で「ごめんねごめんね〜」というセリフで締めたりすることがありますが、文章にするのは難しそうです。
その後、高科先生の絵本『はしをわたってしらないまちへ』(中川洋典 絵・福音館こどものとも) を読み聞かせてくださり、先生が書かれた原稿のうち途中3段階の原稿を見せていただきました。(他にも何段階も書き直しておられるそうです)
最初は、いらない紙に殴り書きのメモのような形。
次は原稿用紙に絵本の見開きごとにまとめて、きちんとひらがなで書いている形。
3番目は清書用の原稿用紙にずいぶんすっきり短くなって、ここにはない絵が想像できるような形。面白いものだな〜と感心しました。
絵を担当された中川さんも、ダミー本を12〜13回作り直してから、本番の絵を描かれたそうです。
何度も書き直す段階で、特にパソコンで書く場合は上書きしてしまうことが多いと思いますが、途中段階のものも過程が分かるように残しておく方が良いそうです。
しばらく時間を置いて読み返した時に、残しておいた中から不足分を書き足すことも出来るし、最初に書いていたものが最終的な決定稿になることもあるからです。
授業で出された課題も、書き直しを残しておくという習慣をつけると良いでしょう。
生徒さんから、そもそも文章が書けるようになるためにどうしたら良いか?という質問に、先生ご自身とご友人の岡田淳氏の場合を教えていただきました。
まず最初に、文章の勉強をしようと思った人は、『【新版】日本語の作文技術 』(本多勝一 著・朝日新聞出版) を読んでいる人が多いそうです。この本には例文もたくさん出ていますが、先生曰く少々まどろっこしいところがあるので、このクラスの教科書にするにはちょっと…と思っているとか。
志賀直哉や三島由紀夫など、昔から「文章読本」の類いはのものはたくさん出ていますが、これらは時代が古いので、この本多氏のものがお薦めだそうです。
次に、自分が良いと思った作品を一字一句間違えずに何度も丸写しすると良いそうです。(絵でいうところの模写) そうすると、その人がなぜそこに「、」「。」を付けたり、改行するか理解できるようになります。
絵本作家で絵話塾絵本コースの講師でもある荒井良二氏も、絵本一冊にトレーシングペーパーをかけて、上から絵と字をなぞると絵の構図や言葉の配置が理解できる、と授業の時に言っておられました。
他の方が「アイデアを思いついても膨らませていけない。どうしたら?」という質問には、
ご自身は他の人の作品をいくら読んでいても、想像力を育てるには至らないことを実感したので、優れた人たちの評論集やエッセイを読んで、その人の発想の豊かさを身につける練習をすると良いと言っておられました。
自分にはない発想の仕方をする人のやり方を教えてもらうのが、近道になります。
長新太の『ユーモアの発見』(岩波ジュニア文庫)や『ナンセンスの地平線からやってきた』(土井章史 編・河出書房新社)、スズキコージの『てのひらのほくろ村』(架空社) などがお薦めです。
そこで、今回の課題は「もしも私が○○だったら」というテーマで、原稿用紙3〜5枚。小学校低学年くらいが読めるように、できるだけひらがなとやさしい言葉で書いてください。
主人公の○○は、生物かもしれないし、無生物かもしれない。何でもOKです。
このテーマの作品で一番有名なものは、夏目漱石の『吾輩は猫である』(佐野洋子 絵・上下新装版・講談社青い鳥文庫)ですね。
高科先生の『たまのりおたまちゃん』(小林美佐緒 絵・フレーベル館) も、ヒロインのおたまちゃんは実は…という謎解き要素があるそうです。
先生が薦めてくださった本をたくさん読めば、思いついた創作の種から芽が出て葉を伸ばし、花が咲くのかという質問には、読んだからといって誰でもできることではないけれど、先生は今までそうやってきたのだそうです。
先生が師匠と仰ぐ今江祥智・上野瞭・奥田継夫・灰谷健次郎の4氏が薦めてくれる本・映画・アートを、なるべく読んだり見たり聞いたりしてきたとか。
世の中で優秀な才能を持った人は一握りであり、その人の世界に触れることで、自分にないものを取り入れる “センス” を身につけるようにできるのではないかとのこと。
こういうやり方で自分のセンスや技術を高めていけるなら、試してみたいですよね。
高科先生は基本リアリズムの作家ですが、実は初期の作品からご自身がお好きなファンタジーの要素も少し含まれているそうです。
ちなみに、ご友人の岡田淳氏の作品はすべて「こんなことがあったら、おもしろいやろな〜」という発想で、書いておられるそうです。
今回の課題も、もしも私が鉛筆だったら…とか、子ネズミだったら…とか考えて、岡田氏のように「こんなことがあったら、おもしろいやろな〜」と、広げていってみてください。
提出は、次の19日(土)の授業の時です。よろしくお願いします。