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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

「買いだめおばさん」「買占めおじさん」という仮想敵

2011-03-24 04:18:03 | 政治
以前、ココアとその関連商品が売り切れて、スーパーの棚が空になったことがあった。テレビの人気番組で「ココアは体に良い」と放送されたのが原因だった。

普段より多くの人がココアを求めて店に行けば、一人一人が普通の量を買っても、ココアは簡単に品切れになってしまう。少数の消費者がココアを大量に買い占めたわけではない。小売店は需要と供給のバランスを常時取りながら仕入れを行っているので、急な需要増に対して、すぐには応じられないというだけの話である。

このときは、「誰かがココアを買い占めてる」という批判は聞かれなかった。ところが、今回の地震を発端とする品不足では、「米を買いだめしている奴がいる」「ガソリンの買占めをやめるように」「乾電池を大量に買う連中がいる」など「買占め」批判が連日のようにメディアやネットを駆け巡った。

しかし、品不足の原因は、本当に「買いだめおばさん」や「買占めおじさん」だろうか?

冷静に考えれば、卸売り業者ならともかく、少数の一般消費者が米やトイレットペーパーを大量に買い占めて、何日にも渡って首都圏のスーパーから商品がなくなるなど起こる筈がない。品薄の商品に関しては、「お一人様一点まで」といった購入制限がすぐに掛かる。自分だけには米を二袋売ってくれと店員に迫る人が後を絶たないというニュースは見たことがない。

そして、米を一袋、牛乳を一本、トイレットペーパーを12ロール一袋と、決められた分量だけ買い物籠に入れてレジに並んでいる人物を指して「買いだめ」「買占め」に走っているとは言わない。

むしろ、そういう客を見かけたのなら、見かけた人はラッキーである。今なら、米、牛乳、トイレットペーパーが棚に残っている可能性が高い。従って、「買いだめおばさん」を見かけたと掲示板に書き込んでる投稿者は、大抵の場合、自分もその際に米やトイレットペーパーをゲットしているだろう。実に、目出度い話ではないか(笑)。

地震発生以来、首都圏の多くの消費者が目撃したものは、空っぽになったスーパーの棚である。米を何袋も抱えたおばさんや、牛乳を何本も籠に入れるおじさんどころか、そもそも米や牛乳自体に滅多にお目に掛かれなかったのではないだろうか。

さらに、ガソリンに関しては、どんなに頑張っても満タンにするのが精一杯で、そもそも「買占め」「買いだめ」する手段がない。スタンドにドラム缶を持ち込んで、ガソリンを入れて欲しいとしつこく頼んでいるドライバーでもいたのだろうか。

今回の品不足は、製油所や油槽所の稼動が一週間近く停止したことによって、ガソリンや軽油の供給が不足したことから起こっている。日本全体としては十分な量の品物が存在するのだが、燃料が不足しているために、それらをスーパーや商店街まで運ぶためのトラックが動かせない。

一方、計画停電や燃料不足から休業や短縮営業を行う飲食店が増えたため、家で食事を作って食べる機会が急増し、その結果、米や麺類を求める消費者が増えた。ガソリン不足による供給減にエネルギー不足による需要増が重なることになり、品不足が加速していった。

首都圏における今回の品不足は、原発事故や製油所の緊急停止が現実のものとなった以上、数日間はどうしても起こってしまう不可避の需給アンバランスで、むしろこの程度の規模で済んでいるのは、多くの消費者が極めて冷静に節度を持って行動した結果だと言ってよいと思う。

しかし、必要なものが手に入らない、いつ買えるかも分からないという不安は、人々の心に強いストレス生み出してしまう。そのストレスから逃れるために、はっきりと攻撃できる対象が欲しくなる。

「あいつが悪い」とみんなで言える対象。自分のやり場のない怒りをぶつけられる相手。「買いだめおばさん」や「買占めおじさん」は、消費者の不安心理が生み出した仮想敵ではないだろうか。

問題なのは、消費者に食品やガソリンを供給する側の一部と、そして政府が、この仮想敵に便乗したことである。安定した商品の供給が出来なくなった流通側の一部の人間が、消費者の怒りに圧迫を受けて、品不足の言い訳として、巷で噂になっているルールを守らない不届き千万な消費者像、すなわち「買いだめおばさん」「買占めおじさん」の実在を暗に示して、そこに責任を転嫁しようとした。

その消費者像の原型は、開店前から行列に並んで、ガソリンや米をちゃっかり買っていく客ではなく、品切れのガソリンスタンドで店員に食って掛かるドライバーかもしれないし、米を買えなかった怒りからスーパーのレジ係に嫌味を言うおばさんだったかもしれない。

流通側から見れば、お目当ての商品を買うことが出来た客よりも、買えなくてなぜ商品がないと文句を言う客のほうが、精神的プレッシャーを受ける鬱陶しい存在で、「モンスター・カスタマー」と言いたい誘惑に駆られるだろう。

「買占めないで下さい」「買いだめしないで下さい」。流通側や政府がそう言えば言うほど、多くの国民は「買いだめおばさん」「買占めおじさん」の実在を確信するようになり、不満の矛先は、流通側や政府に向かうことなく、その仮想敵に集中することになった。

残念なのは、政権中枢にいる枝野氏や蓮舫氏が、首都圏のスーパーやガソリンスタンドで実際に起こっていることをよく見ないで、「買占め」「買いだめ」批判を繰り返したことである。

もし彼らが、スーパーやガソリンスタンドの状況をもっと真剣に見ていれば、「買いだめおばさん」や「買占めおじさん」ではなく、忍耐強く何時間も行列に並び、決められた量の商品を文句も言わず整然と買っていく消費者がほとんどであることを、すぐに理解しただろう。

記者会見で「買占める消費者」に憤慨して、「買占め・買いだめ」の定義すら明らかにしないまま「法的措置もあり得る」と発言する枝野氏。スーパーの視察で、空っぽの棚の横で何とか買える物を探している女性に向かって、「買いだめはやめて下さい。品物は十分ありますから」と話しかける蓮舫氏。

こういう政治家の方が、「買いだめおばさん」「買占めおじさんより」ずっと迷惑なのは間違いない。何と言っても、確実に実在するのだから(笑)。

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