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広重(あべのハルカス美術館)

2024-07-10 23:14:34 | 日記

広重(あべのハルカス美術館)

 広重は、ちょうどウォルトディズニーのような芸術家でもあり事業家でもあるヒトだと思う。普通の芸術家は「俺ってすごいんだぜこんなことできるだぜ。」というタイプか、「私の心のここが痛いんです、でも絵を描いているうちに少しは癒されました。」というタイプか、「世の中間違ってるよな、あいつら怪しからんじゃないか。」というタイプのいずれかまたはそれの複合体のように思われる。葛飾北斎は典型定な俺って凄いんだぜタイプだろう。

しかし広重はそのいずれでもなく、版元の求めに応じて購入者の欲しがるような絵を描いた画家だと思う。常にどう描けば購入者が喜ぶだろう感心してくれるだろうとの心を持ち続けたヒトである。典型的な心の健康な絵のうまい常識人である。キット名前は残っていなくとも、当時の和服の絵柄を描いた多くのデザイナーと同じような気持ちで仕事をした人であろう。

だから、広重の絵を見ているとこちらの方も心が健康になってくる。毎日淡々と家業にいそしんで、欲張ったり他人の悪口を言ったりしないで、それでも自分の絵の売れ行きがだんだん上がることや自分の評判が上がっていくのを楽しみに生きていく。そんなしっかりした人の気分が伝わってくるようである。成功するとついついのぼせ上って、人生を破滅させる人は昔も多かったと思われるがそんなこととは一切無縁であっただろう。

展覧会の入り口には、広重自画像があるが、多くのヒトを束ねる大工の棟梁のような神采奕奕として周りを払う風情である。こんなヒトなら、今流行りのパワハラ暴言をすることなく多くのヒトを自然に率いていくであろう。こんな自然な自信をもつ人間になりたいものである。今回見た絵に中で、最も感心したのがこの自画像である。普通は絵を見て癒されるのであるが、今回は絵を見て背筋が伸びる思いである。

 

 広重だけでなく、幕末の浮世絵は深い藍色のベロアイ(ベルリンブルー)を効果的に使う。桜色や朝日夕日の紅色とこの藍色を効果的に使うことが広重の絵が評価された理由だろう。ドイツで発明された染料の進歩が浮世絵に決定的な進歩をもたらした。それ以前の例えば春信の絵は、それはそれでいいものだけど濃い藍色が無いものだからなにかしまりがないものになっている。

これだけベロアイを輸入していたのであるから、幕末はもう鎖国ではなかったのではないか。それから当時の貿易収支はどうであったのか気になるところである。これだけ大量に使っていたのだから赤字ではなかったのか。



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