本の感想

本の感想など

ヒトは「いじめ」をやめられない (中野信子 小学館新書)を読む

2023-01-20 11:39:29 | 日記

ヒトは「いじめ」をやめられない (中野信子 小学館新書)を読む

 昔 旧日本軍の中ではいじめが横行していたといいます。いじめに苦しんだ新兵が火薬庫に火をつけて自爆したために多くの艦艇が海に沈んだと聞いたことがあります。戦わずして勝つという孫子の兵法は聞いたことがありますが、戦う前に自らすすんで負けてしまうというのは寡聞にして聞いたことがありません。どうやら日本の負けはアメリカが強かったからだけではなく自軍内のいじめによるところもあったのではないかと推察します。孫子の時代には兵士のいじめはなかったのかどうだか知らないが、兵法書「孫子」にはいじめをなくす方法という項目はありません。(あったらいいのにと思うんですが)

 メスの鶏を平飼いすると、お互いにつつきあいをして序列を決めるんだそうですがこれがヒトの場合のいじめに相当するのかもしれません。(オスの鶏は何も生みませんから気の毒だが平飼いにはしてもらえないようです。)動物が社会を形成するときどうしても序列を作らないといけないようで、ヒトも動物ですから序列をつくる。そのつつきあいに相当するのがいじめかもしれんと思ってこの本を読み始めた。

 予想に反してこの本ではいじめは、集団内の利益を集団に寄与すること少ないのに多くとろうとする人にわからせるためにいじめが行われると説く。これをフリーライダー(ただ乗り)する人を排除する本能であるとしています。序列を作るのと同じと言えば同じかもしれないが、私の予想とは少々異なったことがいじめの原因とされています。それからいじめが加速されるのにこういう脳内物質の増加がみられるという議論に入っていってこの部分はそうなってるんでしょうけどそれを知ったからといっていじめをなくすためには役立たないような気がするのです。

 このフリーライダー排除論は、著者の他の本でも見たことがありますので中野さんの持論であると考えられます。私の考えではこの側面からだけでいじめを議論すると全体像を見失う恐れがありはしないかと考えます。もっと広く例えば①第二次大戦時のアメリカ軍も徴兵であったが、兵士内にいじめはあったのかどうだかあったとして日本軍の兵士内のいじめとどう異なるのか。②カースト制のある国の中ではいじめはあるのか。あるとして他の社会とどう違うのか。③宗教の教団の中ではいじめはあるのか。(外から見る限りではないように見えるけど実はものすごかったりするんではないかな)④3大宗教の影響を受けることが少なかった場所(ミクロネシアとか)ではいじめがあるのか。などの調査をして議論を進めてほしかった。

 さらに権力闘争といじめは同じものかという議論も聞きたかった。上の方でやるのが権力闘争下の方で最下位争いをするのがいじめという風に見えるけど、脳科学でならこれをどう解釈するのか。権力闘争もいじめもやりすぎると組織が弱くなってつぶれてしまうのになぜこれをやるのか。などもっと聞きたいことは一杯あるのだが、この本は予想に反して中身が薄いように見える。

 


「お金」で読む日本史 (本郷和人監修 祥伝社)④

2023-01-07 22:58:25 | 日記

「お金」で読む日本史 (本郷和人監修 祥伝社)④

 忠臣蔵で有名な浅野内匠頭は、吉良の殿様に渡した賄賂が75万円であったという。ほかの大名は7500万円払ったのにここでシブチンをしたばっかりに意地悪されてそれで頭に血が上ってしまったと推測されているらしい。推測通りなら浅野さんには気の毒な事件であるというのは、のちの世の倫理をもって見ているだけであってここはしっかり払うべきであったという筆法でこの本の著者は書いている。当時は賄賂と授業料の区別がついていなかったらしい。もしそうなら7500万円は授業料としては高過ぎはしないか。授業料はそれを支払ったあとにその人に訪れる利益がその金額を上回りそうだと思うから支払うものである。吉良の殿様の授業が7500万円の価値あるかどうかの検証もこの本でしてほしかった。

 さて、討ち入りに際して使った総費用は6000万円でいくらか使い残しがあるから5000万円くらいであったという。実際は47士の個人持ちだしがかなりあるからこんな金額で討ち入りはできないだろう。一人に800万円くらいの退職金が支払われていたというから仮に全員が退職金をすべて討ち入りに使ったとして全部で4億円くらいが総費用と言うことになる。高いのか安く済んだのかよくわからない。

 この事件は、今から300年くらい前でまだ新しいのに謎が一杯なところがある。浅野さんが何に腹立てたかも今一つ説得力がない説明だし、幕閣が吉良さんの屋敷を江戸のはずれに移して討ち入りをやりやすくしたのは大きな謎。ちょうどいい折だから討ち入りしてもらって吉良さんをなきものにしようと企んだとしか思えない。

 このころは新井白石の正徳の治の時代で、荻原重秀の貨幣改鋳のあと白石さんが貨幣の金含有量を昔に戻した時代である。今のペーパーマネーの時代なら貨幣を減らすのだから大デフレと言うことになりそうだけど、金本位制で貨幣の品質をいじくっただけの場合はインフレにもデフレにもならない気がする。ただ各種統計に表れる数字に過去との整合性が取れなくなるかもしれない。それに両替商の店先で番頭さんか手代さんかは知らないがそろばんが面倒くさいことになっていたのではないか。

 白石さんは、大変偉い学者と言うことになっているけど昔が一番よかったと思い込んでいる懐古趣味のオジさんじゃないのか。(だから貨幣も昔に戻した)それが証拠に折りたく柴の記は、擬古文で書かれている。えらい人の日記は必ず他の人に読まれることを想定している。その日記を擬古文で書くのは、書いた本人に抜きがたい懐古趣味があることを示している。

 その新井白石が政権をとっていた。何か吉良さんに不都合な点があってああこれは良いタイミングだと思ったかもしれない。自分は手を汚さずに費用もあっち持ちでやってくれると思ったのかもしれない。


「お金」で読む日本史 (本郷和人監修 祥伝社)③

2023-01-06 14:18:46 | 日記

「お金」で読む日本史 (本郷和人監修 祥伝社)③

徳川吉宗の朝ごはんは200円で庶民の御飯より安かったらしい。このほかにも様々倹約しさらに新しい政策が当たったこともあり幕府の財政は一時的ながら好転した。倹約の最たるものは大奥をリストラすることであったらしい。大奥の費用は国家財政のかなり大きな部分を占めていたという。

立派なことをしたようで徳川幕府の延命をしたのに過ぎない気がする。延命が良いことだとは一概に言えないのは、ありとキリギリス(原題では蝉になってるそうだけど)でありがキリギリスに「あんた滅ぶべき時に滅ぶべきだ。」と冷たく言い放ったことからもわかるように、滅びることで次のものが出現する。

もし吉宗さんが毎朝十万円くらいの御飯を食べ、大奥にはもっと贅沢をせよと命じたらしばらくの間大バブルが発生してそのあとフランス革命並みの大混乱が起き新しい政権が起こっただろう。それによって、産業革命に乗り遅れることなく黒船にびっくりすることが無かったかもしれない、いらざる遠回りをさせられることなく近代国家になることができたんじゃないか。イギリスに負けずに世界の海に覇をとなえることだって出来たかもしれない。

 しかも、朝十万円なら昼や夜は五十万円百万円かもしれない。そうすると料理人は料理の腕を磨いて和食は中国フランストルコに次ぐ名物料理になったかもしれない。王様が贅沢すると後の世にはいいことも起こりそうである。大奥でキモノを買い付けるバブルが起こると着物屋さんが儲かる。キモノやの息子のなかには道楽をできる立場になるから遊びまわるのが出るかもしれないが、遊びながら独特の美意識を育てることもできる。尾形光琳や乾山のような凄いのがその息子の中から出てきて国宝級の美術品が一杯生まれたかもしれん。

 桃山時代の唐獅子を描いた屏風でも、日光の猫の彫刻でも、二条城の障壁画でも、なにかパトロンに媚びた気配が見て取れないこともない。しかし大奥のヒトが贅沢をしてくれればその金がまわりまわってパトロンの存在を感じさせない一級の美術品を、生むことになっただろう。どうも千利休さんがしみったれたことを言ったり、鴨長明さんがけち臭いことを本に書いたりしただけではないようだ。吉宗さんの倹約の精神が現在の日本人の心に様々な影響があるのではないか。それを無条件に良いことだとは私は思わない。


「お金」で読む日本史 (本郷和人監修 祥伝社)②

2023-01-05 09:41:58 | 日記

「お金」で読む日本史 (本郷和人監修 祥伝社)②

 明治維新の前の戦乱の時に輸入された銃は一丁100万円から150万円であったという。特に長岡藩の河井継之助は、北越戦争の時に買ったガットリング砲(多分今の機関銃のようなものだろう)は3億円であったという。あれ作るのにそんなに手間かからないように見えるので武器というのは儲かるなとも思うしこの時代に日本の国富の流出は大きかっただろう。

 北越戦争は司馬遼太郎さんの「峠」に詳しいけど、なんで河井継之助が主人公になるほど凄いヒトなのかいまだに理解できない。長岡藩は、河井さんの努力あって藩の財政改革(この場合薩長と異なり密輸によらなかったことが特色)に成功しその資金をもって武装し新政府にも幕府にもクミしない一藩独立の戦いをした。立派なように見えるけど勝ち目がない戦で、たとえ勝ったとしてもそのあと独立を守ることはできなかっただろう。単に我を通したというだけじゃないのかという気がする。この場合勝つと思ったほうに賭けるというのが、正しい運営であった気がする。

 もっともここはこう考えられる。大抵の藩はもう貧乏だからいいも悪いも自分の意志の表明はできなかった。せいぜいが道案内してお茶の一杯の接待で通過してほしいと思っていたに違いない。ただ長岡藩はおカネがあったので、新政府軍というのは幕府を倒しに行く道すがらついでに自分たちの家に押し込み強盗する集団に見えたに違いない。だったら自衛するぞという戦いであったろう。もし、薩長と同じく密輸で儲けていたらここはウマが合って、「では新政府樹立後はお互い大儲けしましょう。」と協力関係を結べただろうと思うが残念なことにその発想ができなかった。河井さんが意地を張ったために、折角倹約して貯めたお金で武器を買って(と言うことは当時のアメリカを儲けさせ)たとえ勝ったとしてもあとの維持が難しい戦争をはじめてしまった。

 小さいころ読んでさっぱり意味が分からなかった言葉に、「璧を抱くは其れ罪なり。」(周のことわざ)がある。お小遣いを貯めてそれを大きなお金にすることは周囲に推奨されており、親の意見にとかく反対したわたくしもことこれに関しては親の意見と完全な一致を見ていた。璧を抱くのは無条件にいいことだと思っていたのにいけないことだとこのことわざはいう。

 多分、河井さんは璧を抱いたばっかりに周りがみんな泥棒に見えた、そのために自滅したのではないか。「璧を抱くは其れ罪なり。」の実例の一つではないかと思うがどうか。古くからあることわざは含蓄がある。


「お金」で読む日本史 (本郷和人監修 祥伝社)

2023-01-03 23:17:35 | 日記

「お金」で読む日本史 (本郷和人監修 祥伝社)

 昔のヒトの収入などを何でもかでも現代のおカネに換算していくらと計算した書でなかなか興味深い。歴史の講談本でもドラマでも絹布いくらとか米何石とか言うのが出てくるけど米はともかく絹なんかもろても使い道ないような気がしていた。絹はおカネの代用になったというけれど、まさか絹を少しずつハンカチ位の大きさに切って白菜や大根のお代に支払うわけにもいかないだろう。さすがにどんなふうに使っていたのかということは書いてないけど何でもかんでもお金に換算してある。

 これによると鎌倉の御家人の年収は現在価値で2000万円であったというには驚いた。御恩と奉公という奉公は刀を振り回す命懸けのことだから御恩の方もそれに見合う額が当然支払われていたと思い込んでいた。そこで中学だか高校だかで鎌倉幕府は功あった御家人に褒美を出せなくて(憎しみを買い)滅びましたと言うのを聞いて「御家人は強欲な奴らだ。たんと貰ってたんやろ。」と思っていたのを今頃になって修正することになった。2000万円しかもらってない会社の重役が社長に「福岡でリコール騒ぎが起きたから行ってくれ。部下の滞在費もリコール費用も全部あんたかぶってくれ。」と言われたようなもんだろう。年に10億円くらい貰ってれば、まあしゃあないかと言うことになるけど2000万では滞在費も出せないだろう。わたしは当時御家人は当然今の価格で10億とか100億とか莫大な収入があったと思い込んでいた。

 鎌倉最後の執権北条高時は暗愚なヒトとされているけど、そんなことはないだろう。ちゃんと支払いのできない会社の社長にたまたまなってしまっただけのことで、運の悪いヒトと言うべきである。社員に持ち出しで働かせておいてあとで補填ができなければどうなるかくらいのことは、わかりそうなものだろうに。その部下というのは刀を持っていることを忘れてはいけない。私が高時さんなら頭が痛いの何とか言って執権になるのを絶対逃れるところである。または全然興味ないけど「いや禅宗に凝りましてネあっちの方へ行こう思てますねん。」とか言って逃げ出すところである。高時さんは真面目人間だったんだろう。

 小さいころ「殷の兵士は矛をさかさまにして戦い・・・・・」とあるのを、あんなものさかさまにして持ったら取っ手ではなく刃のところを素手で持つのか、それでは痛くてたまらんなと思ったのでこの文章はよく覚えている。これは殷の兵士は反逆して矛を殷の王様に向けたという意味らしいのだが、漢文は解説を先に読まないと滑稽な誤解をしてしまう。それはいいんですけど、その殷の兵士はきっとこの鎌倉の御家人と同じような扱いを受けたのではないか。

 大きな組織を運営する人は、ご自身が読んでもいいけどご自身が無理なら読む人を身の回りに置いておいて歴史の滅んでいく王朝の滅んでいく様子をいつも勉強するべきだと思う。歴史大河ドラマも出世譚ばかりでなく滅んでいく様子だけに特化して作成するともっと教訓になるだろうに。