日本が売られる(堤未果 幻冬舎新書2018年)
10月5日に初版で11月10日に第六刷だからずいぶん読まれた。ローマ帝国は属領から税を取り代わりにローマの文化を属領に与え、軍隊を派遣して逆らわない限りは平和を与えたという。ただし、徴税を徴税請負人任せにしたので、帝国は軍隊の派遣費がかかる割には得なことがなく、請負人が肥え太るばかりであったという。(ためにローマは軍隊の派遣費用で倒れたことになっている。)それと同じようなことがこの日本が売られる過程で起こっているように思われるのが読後感想の第一である。堤さんは売られる日本を買っているのは、米中EUであるとおっしゃっているが(当時はまだトランプが出てきたころで、米中は今ほど仲が悪くなかった時期である。)私には、米国は中間搾取を受けていて気の毒にも実際のところあんまり儲かっていないように見える。
例えば、介護業界に関してこう観察されておられる。まず建物を作ってそこでゼネコンが儲ける。次に介護人材の給料を引き下げて人材が集まらないようにする。そうすると介護事業者は、事業を継続するために人材派遣会社に頼らざるを得ない。ここで高額のマージンを人材派遣会社がとることになるので派遣会社が儲かることになる。実にうまいこと考えられたビジネスモデルで、介護事業者も実際に介護にあたるヒトも仕事が苦しいのに給料も利益も出ない構造になっている。利益が出るのは、ゼネコンと人材派遣会社である。介護保険が高額な割には、介護の質が極めて悪いのはこういうからくりがあったのかと納得できる。
それで利益がアメリカに上納されているならまだしも、利益はどうもうまいこと言い訳をしてことごとくが上納になっていないような気配がある。(この本にはそこまでは書いていない)もっと寄こせとアメリカの大統領が時々言うのは、この徴税請負人(人材派遣会社とゼネコン)たちが上納しないで利益を自分たちのものにしようと画策しているからではないかと思う。
このくだりを読みながら、昨今の高校教育無償化はこの流れで説明できそうな気がする。無償化すると、中学の卒業者は私学に流れるようになる。十分流れたところで公立を廃止し、今度は私学の生徒一人当たりの教育費を削る。教員の人件費を削らざるを得ないので教員の人材不足になる。(公立でこれをやるわけにはいかないが私立なら人件費は削ることができる。)人材がいなくなると人材派遣会社に頼らざるを得ない。マージン高くても払いますから何とかお願いしますと言わないと事業の継続ができない。教育無償化はだれがみても結構なアリガタイ策だと思うが、タダほど高いものは無いということにならないか。
もしこれが狙いどおりに行けば、次は医療業界で同じようなことが起こると考えられる。いずれも、働く人の奉仕の心に依存する業界であることに特に注意が必要である。
堤さんも対策を掲げておられる(第3章うられたものは取り返せ)が、私なら人材派遣会社を立ち上げる。そうして派遣マージンの競争を起こす。自分が儲けたいからではない。独占して派遣マージンを取るから介護の教育の医療の質の低下が起こるからである。独占させなければいい。しかし、人材派遣会社は許認可がなかなか降りない仕掛けになっているだろう。人材派遣会社は、たいした資本技術のいる仕事ではないと考えられるが、設立認可が必要な仕事と考えられる。
この本は、一冊に様々なことを盛り込みすぎているから読みにくい。私ならひとテーマで一冊にする。例えば農業に関してだけで一冊。外国人労働者だけで一冊、売られないようにする対策だけで一冊。それから事前に何も知らない人を想定して、丁寧な書き方をする。ある程度知っている人を読者に想定しているからこの本は読みにくかった。